かっこいいじゃん
マトローナさんの言葉を聞いたレレルが、真っ先と私の前へと立ち塞がる。
(し、神話?魔王?な、な、なにを言ってるの?そして、なんで私が処罰だなんて物騒なことをされなくちゃいけないわけ?)
「ちょ、ちょっと待ってください!なんでそんなことになるんです!?私なんかしました!?」
「それは分かりません。しかし、はっきりしていることはあります。それは、貴女が呪われているということ。そして、奴隷を大事そうに扱う変人だということ」
「おや、素晴らしいことじゃないです?この国の屑なんて、皆奴隷を使い捨てるような奴らじゃないですか。そんな奴らと同じになるくらいなら、変人の方が良いと僕は思いますけどね。貴女もそう思いませんか?マトローナさん」
レレルの問いに、彼女は煩わしそうに舌打ちをした。そんなことをする人には見えなかったせいで、余計に身体が恐怖を覚えてしまう。
「奴隷風情が馴れ馴れしいですね。私は、そもそも最初から貴方のこと気に食わなかったんですよ。奴隷のくせに前に出て、主人と仲良くして、本当、気に食わない。⋯⋯ですが、それは全部私情です。リリちゃんにもああ言われた以上、ちゃんとやるつもりです。だから、シャナさん、これから私がする質問に答えてください。いいですね?」
「は、はい⋯⋯」
先程までとは全然違うマトローナさんの威圧感に、私は委縮しながらも、口を動かして返事をした。鋭い眼光に全て見透かされていそうで、緊張してしまう。
「⋯⋯では、一つ目。貴女は、転生してきたと言っていましたが、今の姿は、その時のものと同じものなんですか?服装も?」
「はい、服も身体も同じです。ただ、目だけが違いますね。元々は、普通に黒かったんですよ」
「なるほど。では、二つ目。転生といいますが、転生とは、基本的には死んだ者が新たに生まれ変わることを指します。ですが、貴女は前の世界での姿をそのまま引き継いでいられる。つまり、生まれ変わったとは言うには少々難しいかと思います。身体は同じでしょうから。そこで、私は思ったんです。貴女は、前の世界で本当に死んだんだと思いますか?」
「⋯⋯え?」
マトローナさんの言葉に、私は唾を呑み込む。私は、あの世界で確実に死んだはずだ。電車に轢かれたのだ。生きているわけがない。
「い、生きてるわけないじゃないですか!私は、自分から命を絶ったんです!生きてるなんて馬鹿みたいなことがあるはずが⋯⋯!」
「死ぬ直前だったとしたら?」
「え?」
「死ぬ直前に、誰かが貴女のことをこの世界に連れてきたとしたら、どうですか?」
「は、はぁ⋯⋯?」
(例えそうだったとしたらなんなの?転生が転移になるってこと?私は死んでないってこと?死なずにこの世界に来たの?そんなの⋯⋯)
私の人生最後の決死の覚悟を笑われた気がして、無性に腹が立ってくる。本当にそんなことをした奴が存在していとしたら、今すぐにでもぶん殴ってやりたい。
「⋯⋯私は、自分の努力を笑われることが一番嫌いなんです。そして、あの日の私が飛び降りるまで、たくさん覚悟したんです。そしてあの日、ようやくそれが叶った。そんな私の覚悟を邪魔した奴が居るなら許せないです。ぜーったいにに許せないので、ぶん殴ってやります!」
「野蛮ですね。私の嫌いなタイプの人間です。貴女とは分かり合えそうにありませんね。ですが、質問はまだあります。貴女、あの予言師様に、災いだなんだと言われて処刑になりかけたらしいですね。そのことについてなにか心当たりは?その瞳についてでもいいですよ」
威圧的な気に食わない物言いを睨みつける。しかし、私の睨みだなんて、偉大な魔導士様には通用しないらしい。
「⋯⋯無いですよ。マトローナさんこそ何か知っているんじゃないんですか?私、この世界に来たばかりでなにも知らないんですよ。なんか知ってることあったら教えてくれません?」
「⋯⋯いいですよ。少し、物語を聞かせてあげます。寝てくれてもいいですよ」
(誰が寝るか)
内心彼女の言葉に文句を呟く。マトローナさんは、一つ深呼吸をして口を開いた。
「今からおよそ二万年前。この世界は、呪われた血を持って生まれた魔王によって支配されていた。世界の創造神であったテウトリも、魔王の力には敵わず力の大半を失ってしまった。そこに、我こそが魔王を討伐するという人間が現れる。それが、伝説の勇者アピオン。アピオンは、仲間を集めて、魔王討伐の旅に出た。アピオンの努力は実を結び、魔王は討伐された。というのが、先程言った魔王のお話。そして、その魔王の瞳が、赤色の瞳に罰印という同じものだった。魔王は生まれは魔族では無いし、結構良いところのお坊ちゃんだったらしいんですけど、産まれた時からそんな不気味な見た目と魔力を持っていたことから、彼は魔族に捨てられてしまったそうです。その先で、数々の功績を上げ、魔王として君臨して人間を始めとする種族を貶めた。そんな醜いものと一緒なんです。私としては、今すぐにでも貴女を王宮に連れていいきたいです」
(ふーん。魔王ってそんな感じなんだ。結構かっこいいじゃん)
「⋯⋯へぇ、そうなんだ」
「なにがそうなんだ、なんですか。また捕まったら、今度こそ死ぬかもしれませんよ」
マトローナさんのその言葉に、私はにやりと笑みを浮かべる。
「死にませんよ。私は魔王と同じ瞳をしているらしいですし。それに、私には、頼れる奴隷が居ますから」
「うん、その通り。僕は頼れる賢い奴隷だから、貴女の考えていることだって分かっちゃうんだ」
そう言ったレレルは、ずっと黙っていたリリさんを蹴り飛ばした。強烈な蹴りを食らって壁に叩きつけられたリリさんは、人形のように動かなくなってしまう。
「お前っ!」
「レレル!?なにしてんの!?」
「いいから逃げるよシャナ!こいつ、捕獲魔法を使ってシャナのこと捕まえる気だよ!」
「えぇ!?」
戸惑う間も無く、私はレレルに横抱きに抱えられ、身動きが取れなくなってしまう。
「ちょっと!?」
「しっかり捕まってて!全速力で走るから!」
「いやそんなこと言われても困るって!」
「おい待てクソ奴隷と異世界人!!」
「待てと言われて待つ人なんて、なにもしていない善人だけですよ~。僕は、貴女の大事な人を壊してしまったみたいなので聞きませんよ~。あと解析結果は捨てといてくださーい。では、僕達はこれで!」
レレルはそう言って、私を抱えたまま扉を蹴破ってしまった。
(えぇ!?)
その細い身体のどこにそんな力があるんだと言いたくなるが、そんなことを口にする前に、走り出したレレルのスピードが速すぎて文句が先に飛び出してくる。
「ちょっとレレル!アンタ馬の血でも入ってんの!?なんでこんな早いわけ!?」
「魔法で加速してるからかな~。気に入った?」
「気に入るかボケェ!」
どこに向かっているのかを聞こうと思ったが、聞く余裕なんてなかった。どこに向かっているのかも分からないまま、私はレレルの首にしがみついていた。
よければ、ブクマや評価、リアクション等お願いします。一言の感想だけでも、作者のモチベになります




