人類一度は憧れるもの
「えと、その、マトローナ・ペニート、と申します⋯⋯。えと、その、私なんかに、な、なんのご用事でしょうか⋯⋯」
なんとか聞き取れる程の声量で、マトローナさんは自己紹介をしてくれる。
(声ちっせぇ⋯⋯)
「僕はレレルといいます。そして彼女は、僕のご主人様のバンバ・シャナ。シャナが名前ね」
「ど、どうも⋯⋯」
マトローナさんの向かって、会釈程度の軽いお辞儀をする。
「マトローナさん、ちょっと調べて欲しいことがあるんですけど、いいですか?」
「えっ、いやぁ⋯⋯」
マトローナさんは、助けを求めるようにリリさんの方を見たが、彼女はただ笑みを浮かべているだけだった。
「う、うぅ⋯⋯。わ、分かりました⋯⋯。それで、調べて欲しいものとはなんでしょうか」
「その前に一つだけ確認したいんだけど、お金って、必要?」
「い、いえいえそんな!お金を頂けるようなことはしていませんから。お金の心配なら、されなくても大丈夫ですよ」
マトローナさんのその言葉に、私は安堵する。そして改めて思い知った。人間が外に出ると、金がたくさん飛んでいくということを。
「あ、話遮ってごめん。レレル、話していいよ」
「⋯⋯調べて欲しいことなんですけど、僕にかかっている魔力を調べて欲しいんです」
「魔力?⋯⋯あぁ、確かに、なんか癖のあるものがかかっていますね。けど、呪いの類ではなさそう。⋯⋯一回、抽出して機械に入れて調べてみてもいいですか?」
「え?ちゅ、抽出?魔力を?そんなこと出来るの?」
「僕は別に大丈夫だけど⋯⋯抽出って⋯⋯」
私と同じ問いをレレルも口にした。素手で掴むことが出来るものとは到底思えないが、この世界ではそんなことが可能なのだろうか。
「まぁまぁ、見ててください。マトローナ・ペニートは、魔法だけは本当に凄いんですから」
リリさんのその言葉を信じて、私はマトローナさんを見つめた。彼女は、何もない空間から長い杖を取り出し、それをレレルに向けた。
「⋯⋯《ロジック・リマーヴ》」
マトローナさんがそう唱えた途端、彼女の杖の先から、大きな魔法陣が現れる。そして、レレルの身体からなにかが粒子となり、魔法陣に吸われていった。
「⋯⋯はい、終わりです。ご協力、ありがとうございました」
「あ、いえ。こちらが頼んでいることですから、マトローナさんはお気になさらず」
「そ、そうですか?それじゃ、私は、これを解析機にぶちこんできますので、しばしお待ちを⋯⋯」
そう言って、マトローナさんは地下へと続く階段を降りて行った。
「すご⋯⋯。ねぇレレル!私もあれやりたい!杖出して、魔法陣展開して、ぶわー!ってやるやつ!私異世界人だから、特別補正とか乗っちゃたりとかするのかな~?ねぇ!マトローナさん戻ってきたらさ、そういうの調べられるか聞いてみようよ!」
「⋯⋯なんか、テンション高いね。シャナ」
「そりゃそうだよ!魔法なんて皆一回は憧れるじゃん!」
「別に⋯⋯」
随分と冷えた態度に、私は少し悲しくなる。やはり、この世界の人にとって、魔法は存在して当たり前の世界なのだ。
「お待たせしました。解析機に入れてきたので、後は結果を待つだけです。大体三十分くらいかかりますけど、お二人はどうします?」
「マトローナさん!」
「うひゃあい!?」
私が、マトローナさんの手を勢いよく掴むと、彼女は、返事なのかなんなのか、よく分からないような声を上げた。
「マトローナさん!私魔法使いたいです!どうやったら使えますか!?」
「え⋯⋯?ど、どういうことです?魔力検査は?」
「なんですか?それ」
「え!?え?えっと⋯⋯?」
マトローナさんは、わけが分からないといった様子で、目をぐるぐるさせている。それを見かねたレレルが、溜息を一つ吐いて、話に入ってきた。
「⋯マトローナさん、この人は異世界から転生してきた異世界人なんです。だから、この世界についても、なにも知らないんですよ。色々バタバタしてて、魔法についてもまともに教えてなくて」
「そうだよ!そういうのって、普通第一に教えるべきじゃない?」
「いやだって、僕は魔法使えるから、別に問題ないだろうし、そう急がなくてもいいかなって」
「問題あるに決まってるでしょバカ!それでマトローナさん!魔力検査ってなんですか?」
目を輝かせてそう聞けば、マトローナさんは少し困ったように目を泳がせて、口を開いた。
「え、えと、この世界では、産まれた時に全員がやるものなんです。これは、魔力の強さとかじゃなくて、属性を調べる為のものです」
「属性⋯⋯!」
「この世界で産まれる人は皆、なにかしらの属性を持って産まれてきます。それを調べるんです。ちなみに、種類は、炎、水、風、土、光、闇の六種類ありまして、基本的には、そのどれか一つになります。使う魔法も、その属性によって左右されるんです。ちなみに、魔法を覚えるには、属性に合った魔導書と、経験値が必要です。ですが、シャナさんは、属性を決めるところからですね。ちょっとお調べするので、髪の毛を一本頂いてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。⋯⋯どうぞ」
髪の毛を一本毟り取り、マトローナさんに渡す。彼女はそれを大事そうに近くの棚にあった試験管に入れ、また地下へと降りて行ってしまった。
「楽しみだなぁ⋯⋯。あ!産まれた人皆やるってことは、レレルもやったってこと?だとしたら、属性はなんなの?」
「⋯⋯光。だけど、よく使ってるのは、炎の方かな」
「炎?でも、属性は一つのはずじゃ⋯⋯」
「⋯⋯そうだね。一つだったよ」
(だった?)
不思議な物言いに、私は首を傾げてしまう。レレルはそんな私を見ても、ただ笑って首を傾げるだけだった。
「まぁ、人にはそれぞれ事情があるってことで。機会があったらいつか話すよ。あんまりいい話じゃないけどさ」
「⋯⋯そう。そういうことなら、絶対いつか話してよ。約束ね」
「うん、約束。それを言うなら、シャナもいつか、前世のお話、聞かせてよ。約束したでしょ?」
「え?あー、うん。分かってる。約束ね」
そう言って、私は小指を差し出した。 それを見て、レレルは首を傾げたが、すぐに理解したのか、同じように小指を差し出してくる。そして、私は指を絡めた。
「はい、約束。破ったら針千本飲ますから」
「えぇ?なにその怖い脅し文句⋯⋯」
「前世でそういうのがあったの。だから、そうなりたくなかったら、私が生きているうちにちゃんと話してよね」
「⋯⋯もちろん」
「あの~、お二人共?私もいるんですけど~⋯⋯」
「うわぁ!?」
リリさんにいきなり声を掛けられ、そんな大声を上げてしまう。
「ごめんなさい。話しかけようと思ったら、二人の世界になっちゃてたから、あんまり話しかけない方がいいのかなぁって」
「いや全然!全然話しかけてもらって大丈夫ですよ!そんな、二人の世界だなんてそんなの無いし。ね!レレル!!」
「えー?僕はシャナと二人きりで話したいからなぁ。他の奴らなんて別に⋯⋯」
「なんでアンタはそういうことを言うわけ~⋯⋯?」
私がそう怒りに震えているのと同時に、階段の方から誰かが上がってくるかのような足音が聞こえてきた。
「シャナさーん。魔力検査終わりましたよ~」
「あ、マトローナさん!」
私は、レレルから逃げるように、マトローナさんの方へと走っていく。
「ど、どうでしたか?」
「⋯⋯結果をお知らせする前に、一つ確認したいことがあります。⋯⋯シャナさんは、異世界から転生してきた。つまり、前の世界で死亡した、という認識でいいんですよね?」
「え?は、はい。そうですけど⋯⋯」
「⋯⋯瞳の罰印が付いた転生者、ですか」
「ま、マトローナさん?」
不穏な空気を纏った彼女に、私は立ち竦んでしまう。一体、どんな結果が出たというのあだろうか。
「⋯⋯シャナさん。ここから先は、どうか慎重に言葉を選んでください。でないと、私は王宮に仕える六大魔導士として、貴女を処罰しないといけなくなる」
「え?しょ、処罰?」
「⋯⋯結論からお伝えしましょう。シャナさん。貴女の属性は、厄と出ました。遠い遠い神話の世界の──魔王と同じものです」




