第2章【それぞれの秘密】1話
気づきば夕暮れ。ぽかぽかと暖かい陽気に包まれていたはずの体もだんだんと冷えてくる。
昨日は考えもしなかったが、もしかしたら日本みたいに季節も存在するのだろうか。
シトラに聞いてみると「時期によって咲く花が違かったりするよ〜」という返事が返ってきた。最初の森でも花は咲いていたが見たことがないものばかりだった。
今思うと少しだけこの環境を気に入っている自分がいた。空気はいいし飯も美味い。なんなら皆自分を歓迎してくれる。以前とは大違いだ。それに、信用出来る仲間だっている。
そういえばフレッドにはまだ自分がほかの世界から来たことを伝えていない。最初のうちは演じている可能性を考えて言わなかったがもう隠す必要も無いだろう。
フレッドの方をちらっと見ると不思議そうにこちらを見たあといつも通りの笑顔で笑ってこちらに手を振ってきた。それに答えて軽く会釈を返す。
自分がほかの世界から来たことを言ったらどんな反応するだろうか、と少し楽しみになってくる。
でも1人で打ち明けるのは不安だからシトラに着いてきてもらおう。とフレッドには「先に行っててくれ」と促し、後ろの方でドラコ(仮)を愛でているシトラに声をかけに行く。
「シトラ」
「ん、どうしたのアスト?」
どうやらドラゴンに夢中らしく、こちらには目を向けない。まあ仕方ないか。僕も縁日で金魚をすくった日は一日中金魚鉢に張り付いていたっけ。
「フレッドにそろそろ僕がほかの世界から来たこと伝えようと思うんだ」
そういうとシトラはぱっと顔を明るくしてこちらを振り向く。
「ほ、ほんと!?よかったぁ、言わないもんだと思ってた!」
「流石にずっと隠してるのもアレだしね」
そう言うとシトラは「そっか」と素っ気なく言う。心做しか少し顔色が暗いように思えた。
「えっと、シトラ......?」
肩を叩くとビクッと反応して、「なんでもないよ!」と言った。あまり深く考えない方が相手を気づ付けない。聞きたい気持ちをぐっと飲み込み、「わかった」とシンプルに返す。
誰だって隠し事はある。もちろん僕だって。前世界で自分が不甲斐ないばかりに絶望して自殺しました~、なんて言えるはずがない。シトラだって言いたくないことがあるのだろう。
そんなことより今はフレッドに伝えるのが先だ。僕のことを戦いを知らないボンボンか何かだと勘違いしてそうだ。
シトラは「後で追いつくから大丈夫、先に宿に行って話してて」と僕を追いやった。彼女なりの応援だろうか。
「おお、遅かったじゃねーか?シトラと何してたんだぁ?」
と悪ノリしてくる。「なんもしてねーよ!」と返すと「そうだろうなぁ」と茶化される。僕は子供か。いや子供だけど!!!
すーっと呼吸を整える。少しだけ心が高ぶるのを抑えながら、勢いで誘う。
「そんなことより、フレッド、ちょっと大事な話があるんだよ、部屋で聞いてくれるか?」
「アスト、まさかだが男色......」
「ちげっつーの!!!シトラも来るから!!!」