第84話「名探偵は、いつも遅れて登場する」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
非公開時代のサーベルタイガーの戦闘を目の当たりにして、東儀雅の目には、何もかもが、サーベルタイガーの都合良く動いているように見えた。
それはまるで、サーベルタイガーというプレイヤーを主人公にした、映画の殺陣のようで、そのことから、ラルフがサーベルタイガーを広告塔にする為に、こういう演出(嘘)を作ったんじゃないかとも考えてみたが、先日のイベントでの強さや、飛鳥の真剣さがそれを否定し、考え直しを余儀なくされた。
だが、思考のベクトルを真逆に向けた時、一気に真実へと迫る。
もし、これが全て、サーベルタイガーの意思のままに、動かされているとしたら?
もし、もしも、そうだとしたら……、
サーベルタイガーは、戦場を支配している。
余りにも突拍子もない答えであった為、自分が出した筈の答えであるにも関わらず、雅は未だに、それを信じられないでいた。
こんな戦い方を実現するには、反射神経以上の判断の早さと、読みの正確さが必要になってくる。
おそらく、対戦相手の全てが、自分の考えで動き、自分の判断で攻撃していると錯覚している筈。
どうして、こんな大多数相手に、こんな速度で、そんな真似が出来るの?
こうして、ジオラマで観なければ、飛鳥のように才能だけで闘っているように考えるところだった……。
強さの秘密から、サーベルタイガーに勝つ為にと考えを切り替えた時、さらに想像もつかなかった発想が、頭を過ぎった。
もしかして、相手が増えれば増えるほど、サーベルタイガーが有利になるんじゃ?
ヨハンのポーン(兵隊)でも?
そんな時、ラルフの言葉が浮かぶ。
――ヨハンのチェスプロブレムに付き合わないだろう。
違うわ、付き合わないんじゃない!
きっと、サーベルタイガーなら、ヨハンのポーンを自分の駒に変える……。
なんなの、この人……頭がパンクしそう……。
「大丈夫、雅? 顔色悪いわよ」
今になって、3D酔いで気分を悪くしたのかと、隣の席に居た紗奈が、再び、雅を気遣った。
「大丈夫、でも、少し休みたい……先生」
「どうした?」
「気分が優れないので、部屋まで連れて行ってもらえませんか?」
「それなら、私が……」
「紗奈、貴女は副部長として、此処でみんなとミーティングを」
「わ、解ったわ」
雅は、刀真の肩を借り、会議室を後にした。
エレベータを待つ間、雅は自分の考えが正しかったのか、確認してみることにした。
「先生」
「なんだ?」
「先生は、サーベルタイガーの強さは、何だと思います?」
「ん? そういうお前は、何か気づいたのか?」
「はい、反射神経ではないことが解りました」
「ほぅ。10人に聞けば、10人が反射神経と答えるようなヤツだぞ?」
「先生の答えも、違いますよね?」
「そうか、お前は答え合わせがしたくて、俺を指名したんだな」
雅は頷くと、自分の出した答えを告げる。
「サーベルタイガーは、戦場を支配しています」
「あの速度でか?」
「先生の答えも、一緒のようですね」
「え? どうして、そう思うんだ?」
「まるで犯人が、犯罪を誤魔化すように、否定から入ったからです。普通は、どうやって支配してるのかを聞くモンですよ」
一本取られたとばかりに、刀真は頭を掻いて、それを認める。
「あぁ、その通りだよ。俺の答えも、同じだ」
「良かった、自分の答えが合っていて、これで考え直す必要ないわ」
「いやいや、まだ判らんだろ? 世界に二人だけの答えで、それが正解かどうかなんて判らんぞ?」
「そんなことありませんよ」
「どうして、そんなに自信があるんだ? 本当の答えなんて、攻略しない限り、サーベルタイガー本人しか知りえないんだ」
「だから、聞いたんですよ」
「な、なに言ってるんだ。熱でも、あるんじゃないのか?」
「よくよく考えれば、ローレンスのオペレーターというより、サーベルタイガーの方がしっくりくるんですよ。そして、決定的だったのは、ヨハンのクイーン……」
「ヨハンの?」
「あの状態から、飛鳥は回避できないと言っていました。つまりは、あの状態で回避が思いつくのは、オペレーターじゃなく、飛鳥より腕のあるドライバーなんですよ」
「……」
「此処にいる間に、飛鳥と対戦するのでしょ? アタシが協力した方が、やり易いんじゃないですか?」
そう問い掛けたところで、エレベーターの扉が開き、刀真は答えるよりも、乗ることを優先する。
「どうして、隠してたんです?」
「隠したのは、顧問になってしまったからだ」
「スパイだと思われたくなくて?」
「それもあるが……お前の妹とは対等の条件で、闘ってみたいと思ったのさ」
「じゃ、顧問になったのって、ただの偶然なんです?」
「そうだ。顧問になったのもだが、教師になったのもな」
「へぇ~」
「本当だぞ」
「疑ってませんよ」
読んでくれて、ありがとう。




