第71話「着眼点」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018/10/07 誤字修正。
――3億1千124万5327。
この途方もない数値は、2025年4月27日午前10時32分現在(サンフランシスコ時間)でのGTWのID登録者数であり、新規登録者のスタートランクである。
そしてそれは、南城紬と安西美羽のプレイ開始時の順位でもあった。
先の見えない順位に、目眩すら覚えた二人であったが、上海作戦終了後、改めて自分の順位を確認して、唖然とする。
たった10分の戦闘で、紬は1億2千万4284位、美羽は1億713万8392位までランクアップしていたのである。
どうして、これほど順位が急上昇したのか?
主な原因は、二つある。
一つは、GTWがスマートフォンでも登録可能である事から、プレイせずに『取り敢えず登録しただけ』の者が、半数近く居る為だ。
そして、もう一つの原因は、施設での長い長い順番待ち。
特に日本のような長時間待ちが発生する地域では、順番を待っているだけで、開始時よりランクが下回る事も、当然のように起こった。
北川紗奈の順位も、オペレーターになってから、ずっと休んでいただけあって、2000万近くまで下がっていたのだが、今の戦闘で800万台まで戻していた。
東儀飛鳥はというと、破壊した数は多いのだが、撃破数が少なかったことから、順位は変わらず。
東儀雅の順位は、刀真の指導を受けてから、練習中の日々もあって、自己最高66位から82位までダウンしており、この上海での戦績も、撃墜されてはいないものの、それでもランクが高過ぎた為、同国撃破のペナルティ分を回収できず、ランクを1つ落とし83位に。
「飛鳥の力を借りれば、恐らく飛鳥が1週間でプロになったように、貴女たちも此処に居る間で3万以内に入れると思うの」
「え? でも、ドライバー志望の美羽は兎も角として、アタシや紗奈先輩はオペレーターだから、気にしなくても……」
「今は、そう思っていても、やりたくなるかもしれないでしょ? それにね、このゲーム、毎秒登録人数が増えているから、最近の新宿や横浜でも、7時間待ちになってるらしくって、そんな状態で『3万2千人までプロ増やしました』って発表されたら、それこそ、8時間や10時間じゃきかなくなるわ」
極秘情報を知っている女子高生たちを不審に思ったマリアが、その情報源を突き止める。
「ちょっと待って、3万2千人の情報は何処から? もしかして、トーマ?」
「あ、ハイ……」
「もぅ、内緒なのに! 兄さんに言い付けてやる! 貴女たちも、内緒にしててね!」
優しい笑顔から、厳しい顔をしたマリアに、怯えた部員たちは、声を揃え「はい」と答えるのだった。
3万位以内と言う目標を立てたところで、マリアからジオラマの操作を教えてもらった雅は、地図上の自分(MIYABI)を中心に合わせ、オペレーターが認識する範囲まで地図を拡大した。
次に戦況を把握し易くする為、建造物からテクスチャを剥がしてワイヤーフレームに変え、自分たちの機体を青一色に、そして、その他の機体を赤にして、戦闘履歴を再生させる。
「飛鳥に、もう少しペースを落として貰おうかと思ったけど、こうして見ると、アタシたちの方がペースを上げるべきね」
雅の意見に、紗奈も同意する。
「確かに、オペレーターだったら知らせてる範囲に、チラホラ居るわね」
「飛鳥、アンタの撃墜率を1割から3割まで増やして、だけど、移動速度は変えないでね。他のみんなは、殲滅に捉われず、飛鳥を追い掛けることを意識して。ジオラマを見て、他に何か気付いた人いる?」
――いいか、東儀、安西はお前よりも視野が広いし、着眼点も良い。しかし、残念ながら、本人に発言する勇気がない。言い易い状況を作るか、不意を付け、そうすれば必ず、自分なりの答えを出してくる。
「安西さん、何かない?」
刀真の予想通り、突然、質問を振られた美羽は、言うつもりでなかった事を口に出す。
「え? あの~、そこのビルに隠れたヤツ、飛鳥ちゃんが来たタイミングで隠れて、後から来たアタシたちを狙ってるみたいです」
「安西さん、どうして、そいつを見つけられたの? もしかして、自分がそうならって考えたんじゃない?」
雅にそう言われ、偶然と言おうかとも考えたが、勇気を出して言ってみる事にした。
「あ、ハイ、そうです。飛鳥ちゃん来たら、アタシなら、何処に隠れるかなーって」
「安西さん、貴女、先生が言うように、やっぱり素質が有ると思うわ」
「えーッ! いやー、そんな……」
「え? 今ので素質が有るんですか?」
何の事だか、解らない紬に、雅が解説を始める。
「安西さんの視野が広いってのもそうなんだけど、着眼点が良いの。このミーティングのメインは『アタシたちが、どう攻めるか』になってるじゃない? そんな中で、逆に自分たちをどう攻めるかって考えられるのは、一種の才能だと思うの」
「それって、才能って言うほどのモノなんですか?」
「貴女が、そう思うのも無理はないわ。後から聞けば当然の事だし、事前に言われていれば、注意して見てたと思うもの。でもね、そういった感覚の無い人は、それを言われなければ、何度も経験しないと身に付かないものなのよ」
「う~ん? 偶然な気がするなぁ」
「じゃ、安西さんに、もう一つ質問するわ。貴女、ヨハンの詰め将棋に気づいた時は、どう考えてた?」
「え? でも、あれの場合は、撃ち込まれたレーザーから逆に数えてたら、同じだったんで……」
「ちょっと待って、美羽。てことは……頭の中で、巻き戻したってこと?」
「うん」
「参った、才能あるわ、アンタ。着眼点かぁ~、なんでそれで勉強できないのか、理解できないんですけど」
「もう、紬ちゃん! 一言、余計だよ!」
「ということで、引き続き安西さんも、みんなも、このゲームで気づいたことは、何でも自由に言って欲しいの。安西さんの意見だって、防御という意味においては、重要なことだったしね……」
どう見ても、こちらを見ておらず、幾つ目かのケーキに手を伸ばそうとする妹へ、怒りの注意を促す。
「飛鳥、聞いてる? さっきから黙ってると思ったら、そのケーキで幾つ目なのよ!」
「え? き、聞いてたよ、ヤダなぁ~、なんでも言えってことでしょ? 解ってるよ解ってますとも。しゃ、上海の此処ってさぁ、三角形でケーキみたいだよねぇ~」
「はぁ?」
「なんでも言えって、言うから……」
「飛鳥が勉強できないのは、理解できるわー」
「つむちゃん! それ言い過ぎ! それと、マリアさん笑い過ぎ!」
「あ、ごめんなさい。あ、貴女たちの会話も面白いけど、こ、このままだと、ククッ、お、お菓子が、た、足らなくなりそうだと思って……」
「追加をお願いします」
「あぁーすぅーかぁーッ!」
真剣な顔して言うもんだから、更に笑いを加速させ、変な顔をしてる訳じゃないのに、飛鳥の顔を見ただけで、笑うようになってしまうマリア。
「ミヤビ、き、気にしなくいいのよ、よ、用意しとくから、ク、ク、ク、く、くるしぃぃぃ~、い、息が、出来ない……」
笑いのツボに嵌ったマリアは、2回目の戦闘に行くまで、ずっと笑い続けるのだった。
「次は、紗奈が提案してくれたエジプトにするわ」
「隠れる所、少ないけど良いの?」
「上海であれだけ出来たんだから、隠れる場所がなくても、アタシたちがペースを上げれば、恐らく、余程の相手が現れない限り、捕まえられないと思うの。機動力を活かして、戦場を掻き乱しましょう」
オー!
雄叫びと共に、再び戦場へと向かう5人だった。
読んでくれて、ありがとう。




