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第70話「Diorama」

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。

 それはまるで、台風のようだった。

 突如として、上海の上空に発生したそれは、非常に小型であるにも関わらず、観測史上最大とも思《おぼ》しき勢力を持ち、動くもの全てを破壊し尽くした。

 それによって、手や足を失った者、胴から首が切り離された者など、その被害は甚大だった。

 しかし、その殆どが死亡するには至らず、去り行く台風を見送る形となった。


 生き残った皆が「今のは、一体何だったんだ」と思いながら、生き残れた事にホッとしたのも束の間。

 引き続き現れた台風2号によって、その戦場は、一掃される。

 その2つの嵐は、たった10分であったものの、大きな爪痕《つめあと》を上海に残した。



 雅は、筐体から降りるとマリアへと近づき「マリアさん、落ち着いてミーティング出来そうな、静かな場所は有りませんか?」と尋ねた。


「感想戦をするの?」


「はい、出来ればテーブルが在って、飲食可能な場所の方が良いんですが……」


「ん? 静かな飲食店の方が良いのかな?」


 雅が「いえ、そうではなくて……」と理由を続けて言う前に、飛鳥が被せるように「ミーティングは、お菓子を食べる決まりなんです!」と言い放った。


 妹の言い切りに対して「いや、必ずしも、決まりって訳では……」と言うも、再び、断言される。


「決・ま・り・な・ん・で・す!」


 これは、顧問である刀真の提案から始まった。

 家政婦をしてくれている鈴木米子が作ってくれたクッキーと、水筒に入れた紅茶を紙コップに容れ、机の上に並べた。


「口を動かして聞いた方が、理解がし易いんだ。ただし、ゆっくり味わって食べるんだ。間違っても、お菓子の方に夢中になるんじゃないぞ、特に東儀妹! 全く、お前と言う奴は、話しが終わってもないのに、口へ運ぼうとするな!」


 といった感じで、学校でもミーティング中は、お茶とお菓子を楽しみながら行っているのだ。


「解ったわ、で、お菓子とか飲み物とかは、持ってるの?」


「下で買おうかなって、思ってるんですが……」


「いいわ、私が用意させる。それじゃーね、ミーティングにとっておきの場所が有るから、そこへ移動しましょう」


 そう言って連れて来られた場所は、230mあるビルの最上階。

 扉を開くと、目に飛び込んできたのは、まるで展望台のような景色と、テレビドラマでしか見たことの無い、中央に大きな空間の在る楕円ドーナツ形のテーブルに、革張りの椅子が幾つも並んでいた。


 早速、その椅子に座って、クルクルと回り出す飛鳥、窓に張り付いて外を眺める紬と美羽、壁に埋め込まれた200インチのテレビモニタを眺める紗奈。


「此処は、普段なにをする場所なんですか?」


「使徒専用の会議室よ」


「しと?」


「あぁ、ごめんなさい、特別会員と言い直した方が良いわね」


「あ! この前、ジムさんが会議をしてるって言ってたのが、此処なんですね!」


「ん? 兄に会ったの?」


「え? お兄さん?」


「ジム・アレンは、私の兄よ」


「えぇーッ!」


「まぁ、驚くのも無理はないわね、ちょっと歳、離れてるもんね」


「それを言ったら、ラルさんの恋人としても、離れてると思うよ」


 会話に混ざりながらも、まだクルクルと回っている飛鳥。


「そうねー」


「ねぇねぇ、何処が良かったの?」


 椅子を止め、飛鳥がギラついた眼差しを送る。


「一言で言うと、カリスマ性かな?」


「カリスマ性?」


「うん、オーラっていうかね。人間の大きさを感じるのよ。まぁ、カリスマ性で言えば、実は、もっと凄い人が居るんだけど……」


「その人って、ローレンスさんですか?」


「いいえ、副社長のタイガーよ」


「え! あのロリコンで有名な?」


 紬の発言に、マリアは腹を抱え笑い出し、涙を拭《ぬぐ》って、呼吸を整える。


「そ、そうね、確かに10年前、プロポーズされたわ。貴方たちも気を付けなさい」


「えぇーッ!」


「それにしても、ラルさんより、カリスマ有るのに、副社長なの?」


「そうよねー、そう思うわよねー、ただねー、それが見られるのは、真剣に話した時だけなのよ。あと……顔が……あまり良くないのよ」


「それはまた、身も蓋も無い……」と言いながらも、笑う紬《つむぎ》。


「だからね、彼自身、自分のことカリスマが無いって思ってるんだけど。でもね、本当に真剣な時のタイガーは、凄く魅力的よ。その時だけは、惚れそうになるわ。会議中だったら、プロポーズ受けたかもね」と、再び、自分の言葉で、笑い出した。


 その時、会議室の扉が開いて、待ちに待ったお菓子が到着する。


「クッキーやチョコ、ケーキまであるぅ!」


「コラァ、飛鳥! お菓子に夢中になっちゃダメよ、ミーティングに集中するのよ!」


「解ってるって!」と言いながらも、夢中になりそうなイチゴのタルトとチョコレートケーキに手を伸ばす。


 部員たちは、それぞれ好きなオヤツを選び、密着して席に着いたのだが、それをマリアが離れて座るように指示をする。

 それには理由があって、次にマリアが壁に掛けられたタブレットを手に取り操作すると、真ん中に在る空間から、長方形のテーブルが現れ、膝のほどの高さまで迫《せ》り上がった。


「いい? 見ててね」


 そう言って、再び操作すると、そのテーブルの上に、3Dで上海の地形が現れる。

 感動するゲーム部員たちに、マリアは更に追い討ちを掛ける。


「ここからよ」


 更に、そこに映し出されたのは、自分たちの戦闘を記録した3D映像だった。

 再び、歓声を上げる部員たち。


「この機械、コードネームは『ジオラマ』と言ってね。いつか施設に観賞用で置こうかと検討中なの」


 色々な角度から見てやろうと、周りを駆け出そうとする飛鳥をマリアが止める。


「アスカ、その必要は無いわ」


 マリアは、タブレットを操作して、ジオラマの映像を回転させる。


「すっげー!」


 ジオラマは、一時停止、巻き戻し、拡大、縮小、回転、角度変更、中心対象ターゲット変更、建設物を無くしたり、ワイヤーフレームにしたり、指定機体を赤く染め、それ以外を青にしたりなど、様々な機能が備わっていた。


「なにコレ! 欲しい~!」


「これが世の中に普及するのは、もうちょっと先になりそうね。なんせ、余りにも高いから、世の中に2台しかないの。此処とタイガーの家。あと、もうすぐ、3台目が自腹切ったローレンスの所に届くかな?」


「やっぱ、こんな機械まであって、先生みたいのが1000人も居るローレンスって、ズルイわー」


読んでくれて、ありがとう。

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