(6) 騒乱の狼煙
昊斗たちが、魔獣や戦艦を相手にしていた頃。
王都ディアグラム、アルバート城の謁見の間が、とある貴族たちに占拠されていた。
事の発端は、国王カレイドに拝謁する為上京し、登城していたクレマン・ラクロア伯爵と他の件で拝謁する予定だった貴族たちが、買収していた”者”の手引きにより、手薄になっていた謁見の間に乱入。
その場にいた騎士団の団員を排除し、国王と王妃を人質にして立てこもったのだ。
勝利を確信し、笑みを浮かべるクレマンだったが、カレイドとマリアの表情を見て怪訝な顔をした。
二人は恐怖や焦りを一切見せず、寧ろ余裕さえ感じさせる顔をし、クレマンたちを玉座の上から見ている。
そんなカレイドが、一つため息をついた。
「・・・・・さて、ここは王として貴公らの動機を問い質すべきなのかな?」
その威厳に満ちたカレイドの振る舞いに、気圧される貴族たち。
だが、一人が気力を振り絞り声を上げた。
「我らは、アストーア様の無念を晴らす為にここいる!」
「・・・何?」
自分の兄の名を出され、カレイドの目つきが険しくなる。
すると、他の貴族も後に続けとばかりに、手にした剣の切っ先をカレイドに向けた。
「先王に取り入り、実の兄より王位を奪い、そして命を奪った罪人、カレイド・ノグ・ルーン!我々は、貴様が犯した間違いを正すため、アストーア様の栄光を取り戻すために立ったのだ!」
その言葉に、カレイドは腹の底から、目の前に居る貴族たちを八つ裂きにしたいほどの怒りが湧き起こってきたが、持ち前の精神力で何とか押し留め、平静を装う。
「・・・・・実に面白いことを言う。そのような与太話、誰から聞いた?」
だが、隠しきれなかった殺気が言葉に乗り、貴族たちは一気に顔が青ざめ、一斉にクレマンの方へと振り向いた。
「なるほど、貴公か。確か、クレマン卿は兄上の家臣の一人だったな・・・・・・・随分と、彼らに面白い話を聞かせていたようだ」
秒ごとにカレイドの苛立ちが表に顔を覗かせる中、クレマンは飄々とした顔つきを崩していなかった。
「事実でございましょう?元々ルーン王国の王位継承は長子が第一位とされている。にも拘らず、アストーア様ではなく、陛下が王となられた。国民に絶大な支持を持っていたアストーア様を妬んだあなた様が、先王であるお父上のジェラード様に取り入り、自分が国王になるよう仕向け、そのことをアストーア様の口から語られることを恐れて、大公として領地に幽閉同然に閉じ込め、最後は病死したと嘘の情報を流し亡き者にした・・・・・・・」
クレマンの言葉に耐え切れず、カレイドの横に居たマリアが立ち上がろうとしたときだ。
「いい加減なことを!例えあの方の忠実な家臣であっても、それ以上の言葉は、陛下と我が夫アストーア様への侮辱とみなします!!」
力強い女性の声が謁見の間に響き渡る。
何処から聞こえたのか、と貴族たちが辺りを見渡すと、玉座の後方にある扉が開かれ一人の女性が姿を現した。
「?!あ、あなた様は!!」
女性を見た貴族たちは、驚愕の表情のまま凍りつき、最大限の敬意を表するため、出来うる限り頭を低く下げ、膝をついた。
クレマンも、信じられないものを見るかのように、女性を見つめる。
カレイドは、額に手を当てつつ、深く息を吐いた。
「義姉上・・・・・・幾らなんでも、出てくるのが早すぎますよ」
女性のことを義姉と呼ぶカレイド。
一般的なルーン王国の民と同じ栗色の髪に、澄んだ青い瞳をした女性は、フレミーの母であり、カレイドの兄アストーアの妻である、リリー・ベアトリス・ルーンである。
マリアとは違う、歳相応の女性の色香を漂わせるリリーだが、カレイドの苦言にまるで少女のように頬を膨らませた。
「だって!可愛い義弟がいわれの無い侮辱を受けているのですよ?黙ってなどいられません!」
義姉のいつものペースに、カレイドは表情を一段と渋くさせる。
「・・・その、”可愛い”というのはやめて頂けませんか?一応、私も一家の大黒柱。そして、国を任される王なのです。立場が・・・・・」
リリーとは、アストーアと結婚する前からの知り合いであり、幼い頃を知られているカレイドにとって、彼女はとても苦手な存在である。
そんな可愛がっている義弟に、リリーは笑みを浮かべる。
「あら?どんな立場になろうと、私にとっては可愛い”レイちゃん”ですもの。それに、私が出て行かなければ、マリアさんが一撃加えていましたよ?」
そういって、リリーがマリアの方へ視線を移すと、彼女の後方にとてつもなく鋭く、かろうじて見えるほど透明に近い氷の槍が、何本も浮かんでいた。
「夫を貶されて、黙っている妻は居ませんもの」
いつでも攻撃できたのですよ、と言わんばかりのマリアに、貴族たちは混乱する。
彼らは彼女の正体に関して失念していたのだ。
マリアが、元アルバート騎士団術士隊隊長だった、ということを。
そんな中、リリーを見て一番驚いていたクレマンが、声を震わせながら後ずさった。
「ば、ばかな・・・・何故、あなたがここに?王都に入ったと言う情報はなかったはず!」
クレマンは、寸でのところで取り逃がしてしまったリリーの行方を捜していた。
彼の計画では、クーデター後に大公の娘であるフレミーを女王として即位させ、彼女を裏で操り、自分は甘い汁を吸うという算段だった。
そのため、母親であるリリーの存在は脅威でしかなく、拘束もしくは殺害する事を決めた。
義弟である国王カレイドに助けを求めるはずと踏み、手の者に王都の入り口を見張らせていたのだが、発見の報告は一度もなかった。
彼の心を見透かすように、リリーは不敵な笑みを浮かべる。
「王族にしか知らされていない隠しの入り口など、この王都には幾らでもあるのです。さて皆さん、先ほどあなた方が吐き棄てていたことですが、事実ではない。先王陛下を始め、ここに居るカレイド陛下も、アストーア様が国王になることを望まれていたのですよ」
リリーの口から語られた言葉に、クレマンを除く全員が驚いて立ち上がった。
「嘘だ!」
「そのような出鱈目・・・」
口々に否定の言葉を並べる貴族たちに、リリーは力強く、足を踏み鳴らした。
ヒールの甲高い音が謁見の間に響き渡り、全員が押し黙る。
「嘘ではない!アストーア様は、生まれつき難病をお持ちの方だった。彼の帝国でさえ治療が出来ない不治の病に侵されていたのです・・・・あの方は、自分が玉座に付いたとしても、長く在位出来ないことを分かっていた。王が短い期間に何度も変われば国内外の情勢が不安定になる。そうなれば、一番被害を被るのは国民・・・・誰よりも国民を愛したアストーア様はそのことを憂い、自らの意思で陛下に玉座を託したのです。陛下も、そんなアストーア様のご意思を理解し、弟の分際で国王など、といわれの無い誹謗中傷を受けることも承知で玉座に座っているのですよ」
リリーの顔を見て、彼女の言っていることが真実ではないのか?と貴族たちに動揺が広がる。
結局のところ、彼らはクレマンの虚言に踊らされた哀れな駒でしかなかった。
「理解できましたか?貴公らが並べた陛下への罵詈雑言。それはアストーア様の顔に泥を塗るのと同じ!忠実な家臣?恥を知りなさい!!」
リリーの声を合図に、完全武装した騎士たちが謁見の間になだれ込み、クレマンたちを包囲する。
「な・・・・・・・なぜ、これだけの兵力が?」
情報と違う状況に、クレマンは混乱する。
「わかんねぇか?お前らの悪事なんて、カレイドには筒抜けだったと言うことだ」
面倒そうに頭を掻きながら、ドラグレアが騎士たちの間から現れた。
リリーのとき同様、クレマンは驚愕して目の前が歪むような錯覚を覚える。
「き、機工師ドラグレア!?馬鹿な、貴様は王都を離れているはずだ!!」
彼の言うとおり、ドラグレアは聖剣強奪犯を追って、王都を離れていた。
最大の障害となりうる男が、王都を離れていると確認したクレマンは、計画の成功を確信していたのだ。
しかし、ドラグレアは彼の目の前に立っている。
混乱の極みにあるクレマンを見て、ドラグレアが説明を始めた。
「カレイドから連絡を受けて、文字通り”跳んで”帰ってきたんだよ。冬華ほど高度な術じゃないが、オレも転移術が使えるんだ。しかし・・・・・何処かで見たことある顔ばかりだと思ったら、二十年前にオレと揉めた奴らの知り合いばっかじゃないか。あの時、馬鹿な考えを起こすことの愚かしさを教えたつもりだったが、不十分だったようだな」
拳を鳴らすドラグレアを見て、貴族たちから悲鳴が上がる。
「陛下。クレマン卿の船で、武装した集団を確保いたしました」
「ご苦労」
騎士の報告を耳にし、クレマンは膝をついた。
「我々の計画が、つ、筒抜け?そんなことが、あるはずがない。この十数年・・・・どれだけ用意周到に準備したと思っているのだ・・・・」
余程計画に自信があったのか、と呆れるカレイドは、クレマンに止めを刺しに掛かった。
「貴公は、何に戦いを挑んでいるか理解出来ていないようだな?貴公の相手は、私個人ではない。ルーン王国と言う国そのもの!たかが貴族ごときに、勝てる見込みなどあるはずもなかろう・・・・それに、私には心強い巫女がいらっしゃるのだぞ?」
カレイドの言葉に、クレマンは声を上げた。
「ありえない!!新しくきた祭事巫女はまだ幼く、力が安定しないせいで予知は行っていないはずだ!!」
その言葉で、カレイドは自分に仕える大臣の中に、裏切り者が居ると確信し、その者がクレマンを手引きしたと結論付けた。
祭事巫女の予知などの情報は、国家機密に類するものだ。
巫女が予知したと言う事実を知るのは、一握りの人間だけだからだ。
その者の処分はクレマンたちと一緒に行う、と考えつつ、カレイドは笑みを浮かべる。
「たしかに、ミユ様はまだ幼い・・・・だが、我々にはもう一人心強い巫女がいる。五十年以上に渡って、この国を支えてくださった”母”のようなお方が」
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「私が送った手紙は、役に立ったかしら」
姫巫女の執務室から見える青い空を見ながら、マーナはその空の先にある第二の故郷のことを想っていた。
「まぁ、大丈夫じゃない?それに、あの国には神の御使いである、”あの”お兄さんたちがいるんだし。大抵のことなら、どうにかしてくれるでしょうよ」
執務に追われるシオンが、投げやり気味に言葉を投げる。
「そうですね・・・・しかし、姫巫女様?先ほどから手が動いていませんよ?さっさと終わらせてください。まだこれだけ仕事が残っているのですから」
ポンポンと、書類の束を叩くマーナに、シオンがげんなりした顔をする。
「こんなことなら、シーズたちを首にするんじゃなかったわ・・・・」
「はい!無駄口叩かないで、仕事なさい!!」
妹に尻を叩かれ、シオンは悲鳴を上げながら仕事をこなす。
そんな駄目な兄にため息をつきながら、マーナは再び窓の外に広がる空を見上げる。
「頑張りなさい、私の可愛いレイ」
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「うそだ・・・・・先任の祭事巫女、マーナ・クロエは・・・・力を失ったがために祭事巫女を降りたはずだ・・・・」
自分の予想を遥かに超えて、カレイドが先手を打っていたことに、クレマンは絶望のふちに立たされる。
「いいや、あの方は力など失っては居ない。むしろ、この国にいた頃より力が増したということだ。そのマーナ様が、わざわざ手紙で知らせてくれたのだ。「今日と言う日、クレマン・ラクロアとその一派が、王都を始め国内各地で反乱を起こす」と。不思議に思わなかったか?ここに来るまで、すんなりと事が進んだことに」
思い返せば、カレイドの言うとおり、ディアグラムに着いてから気持ち悪いぐらいにうまく事が運んだ。
しかしクレマンは、自分の計画が完璧だと信じて疑わなかったがために、何一つ疑問に思うことはなかった。
「礼を言わせて貰おう、クレマン・ラクロア伯爵。貴公のお陰で、この国を腐らせていた膿を一気に出し切れそうだ」
各地で決起したクレマンの部下や同志たちも、警戒していた騎士団の団員たちに拘束されている、とカレイドに聞かされ、クレマンの頭の中が真っ白に弾けた。
「か、カレイドォオオオオオオオ!!」
近くに居た騎士の腰に下がった剣を奪い、必死の形相を浮かべ、クレマンはカレイドへと駆け出す。
「ぐぎゃ?!」
しかし、こぶし大の氷の飛礫を顔面にぶつけられ、そのままのびてしまった。
「往生際が悪いですね、連れて行きなさい」
虫けらを見るような目でクレマンを見ながら、騎士たちに指示を出すマリア。
その姿は、往年の術士隊隊長を髣髴とさせるものだった。
クレマン始めとする貴族たちが、謁見の間から連れ出される中、謁見の間にある巨大な通信球に通信が入った。
『役に立たないブタだと思っていたが、最後は見事に我の隠れ蓑になってくれたな』
そこに映し出された人物を見て、カレイドとマリアは目を見開き、ドラグレアは舌打ちした。
「?!貴様は・・・・・」
『久しいな国王、それに機工師。我は戻ってきたぞ』
そこに映っていたのは、一年以上前に追放したはずの異世界人の少年、ユーリ・ペンドラゴンだった。
「どうやってこの国に入ってきた?貴様は誓約書の呪いで、ルーン王国には一生は入れないんだぞ?」
普通なら、国外から通信していると考えるのだが、通信球の映像の下に表示されている無秩序と思える数字の羅列を見て、ドラグレアはユーリが”間違いなく”国内に居ると確信した。
「簡単ですよ。あなたの術は絶対ではなかったということです」
その場にいる全員が、声のする方へ視線を動かすと、バルコニーから魔法使いのような格好をした男が現れた。
「誰だ?」
ドラグレアの問いに、マギハは芝居じみた動きで恭しく一礼した。
「申し遅れました、私はマギハ。勇者様の忠実な従僕にございます、以後お見知りおきを」
「!?あの少年がいるということは・・・・・まさか、聖域から聖剣を盗み出したのも」
聖剣の”特性”をこの場に居る誰よりも一番知るカレイドが、通信球の向こう側に居るユーリが自分の持つ”能力”を用いて聖剣を盗んだものと考えた。
カレイドの言葉に、ユーリは目に見えて不機嫌な顔つきに変わる。
『盗む?違うな、あの聖剣は我を選んだ。つまり、これは俺のものだということだ。そして・・・・』
通信球の映像が引き、ユーリの後ろに立つ人物も映し出された。
「!?フレミリア!」
自分の娘の姿に、リリーが悲鳴を上げる。
映っているフレミーは、例の服を着せられた姿で立っていた。
フレミーなら、絶対に人前に出ないであろう裸に近い姿とその虚ろな瞳に、何かされたのだとカレイドたちはすぐに思い至った。
「なんて破廉恥な・・・・」
凡そ人前に立つ女性に着せる服装で無いフレミーの格好に、マリアがユーリに侮蔑の目を向ける。
『この女も我のものだ。この姿は、その証だ』
勝ち誇ったようなユーリの言葉に、マリアとリリーが少年を睨みつける中、カレイドはドラグレアに近づき耳打ちした。
「ドラグ、この通信・・・・まさか」
「あぁ、アストーアの兄貴が所有していた船に備え付けていた通信球からだ。フレミーを洗脳でもして、動かしたんだろう」
王城であるアルバート城の謁見の間に、直接通信できる通信球は限られている。
フレミーが敵の手に落ちている以上、”水上の城”と呼ばれた大公アストーアの船が敵の本拠地であるのは明白だった。
カレイドは、近くに居た騎士に船の所在を調べさせる為に、小さな声で命令を出す。
「さて、ではここからは勇者様の計画となります。皆様、準備は宜しいですか?」
単身乗り込んできたマギハが、自分を包囲する騎士たちを気にも留めず、芝居がかった言動を始める。
「計画?」
状況から考え、クレマンはユーリを利用しようとしていたが、逆にユーリに利用されていた事は分かった。
ルーン王国に居た時から、何を考えているか判らなかった少年の計画とは何か?
カレイドたちは、目を細める。
「そうです!この国を勇者様の国とする、壮大な計画!さぁ、開幕です!!」
あまりに馬鹿げた計画に、一瞬呆ける面々だったが、唯一ドラグレアが異変に気がついた。
「・・・なんだ?」
その言葉を待っていた、と言わんばかりにマギハは笑みを深める。
「竜骨兵と呼ばれる下級の魔物を数万匹、王都内及び近郊に召喚しました。下級とは言え、数が揃えば手ごわいですよ」
感じ取った異変の正体が分かり、ドラグレアは残っていた騎士たちに叫んだ。
「カレイドたちはオレに任せろ!お前たちは、すぐに騎士団本部のフォルトに、このことを伝えろ!」
「はっ!」
ドラグレアの様子に、騎士たちも一大事だと分かり、急いで謁見の間を出て行く。
マギハへ視線を戻したドラグレアに、マギハが一礼する。
「僭越ながら、国王陛下ならびに機工師殿のお相手は、このマギハが務めさせていただきます」
マギハの申し出に、ドラグレアは鼻を鳴らした。
「魔物を数万も呼び出して、この場に居る全員と戦う力なんて残ってるのか?」
「ご心配には及びません。あの伯爵殿と違い、そのために準備は怠っておりませんので」
マギハが手の中に隠していたモノを宙へと放り投げる。
キラキラと輝く二つの宝石が、宙で砕け眩い光を生み出す。
自身手で光から目を護りつつドラグレアが、カレイドたちの前へと立ち、拳を構える。
光が消えた瞬間、カレイドたちは軽く悲鳴を上げた。
「ドラゴン!?」
そこにいたのは十メートル近くある巨大なトカゲのようなドラゴンと、腕が翼となっているドラゴンだった。
マギハは素早く翼を持つドラゴンに駆け上ると、ドラゴンがバルコニーへ出る小さな入り口を破壊して外へと飛び出していった。
「はっはっはっ!私は竜召喚士、ドラゴンサモナーのマギハ!さぁ、皆様!存分に楽しみましょう!」
城の周りを旋回するドラゴンの上で、マギハは高らかに戦いの狼煙を上げたのだった。
****************
「始めやがったな!」
城から飛び出したドラゴンを確認し、ディアゴが拳を打ち鳴らした。
その横に、静かに立っていたアルトリアが静かに肯く。
「はい。レーアさんもすでに動いているはずです。ディアゴさんもお気をつけて」
いつものように、心配性から仲間へ声を掛けるアルトリアに、ディアゴは鼻をピクッと動かした。
「はっ!心配するなよ!お前こそ、ユーリの”剣”なんだ。あいつの傍から離れるなよ?」
獣人特有の鋭い爪を持つ指を鼻先に突き付けられながらも、アルトリアは臆することはなかった。
「分かっています」
アルトリアの態度に、ディアゴは「ちっ、もう慣れちまったのか」とつまらなそうに船から飛び出していった。
「何度もやられたら、嫌でも慣れますよ」
見えなくなったディアゴに、そう言いつつアルトリアは踵を返し船内へ入っていった。
「全員、行ったか?」
船内で一番高い展望デッキに一つだけ置かれた椅子に座るユーリが、後ろからやってきたアルトリアに声を掛けた。
「はい、勇者様」
アルトリアの報告を聞き、ユーリは横に立つ無表情のフレミーへと視線を向ける。
「そうか・・・・フレミリア、我たちはここで見物だ」
そう言って、ユーリが無遠慮に下ろされたフレミーの髪を指で遊ぶ、
「はい・・・・ユーリ様・・・・」
洗脳され、ユーリの人形となってしまったフレミーが、感情の篭らない声で返事をするのだった。
*************
目の前に居る獲物を前に、謁見の間に残るドラゴンが咆哮を上げる。
「舐められたもんだ、この程度のドラゴンがオレの相手になると思われるとはな!」
ドラグレアは、ドラゴンの反射速度を上回る速度で攻撃距離まで近づき、握った拳を怒りのままドラゴンの顔面へと叩き込む。
固い鱗に覆われたドラゴンの皮膚が割け、顔面の骨を砕かれながら城外へ引き飛ばされるドラゴン。
軽く息を吐く友人に、カレイドたちはドラグレアの強さを思い出す。
「ドラグ!ここはいい。君はあの召喚士を追うんだ!」
「おう!あんま無理するなよ?」
「お互いにな」
バルコニーから外へと出て行くドラグレアを見送り、カレイドは腰に下げていた”剣”の柄を握る。
「すまない、マリア。少しの間、頼むよ」
妻に一言言って、式典用の広い空間が広がるバルコニーへと出て行くカレイド。
「もちろんよ、レイ。任せて!」
そんな夫を見て、マリアは若かりし頃を思い出し、胸が熱くなった。
「あらあら、私の事を忘れないで頂きたいですね」
二人きりの雰囲気をつくり出す義弟夫婦に、リリーが半眼で声を掛ける。
「もちろん、義姉上もよろしくお願いします」
二人の”女傑”に送り出され、カレイドは広いバルコニーの中ほどまで進むと、腰の剣を鞘から引き抜いた。
一点の曇りの無い、輝く刀身を持った剣。
歴代国王が継承する”守りの聖剣”と呼ばれる剣が姿を現した。
「契約者カレイド・ノグ・ルーンの名において、聖剣リライアンス・ブレイドよ!その力を解放せよ!!」
言霊と共にバルコニーに突き立てられた聖剣から、王都全体を覆うほどの不可視の力が包み込む。
カレイドの後ろ姿に、マリアとリリーは、在りし日の先代国王の後ろ姿を重ねていた。
「この力が使われるのは、いつ振りかしら?」
「突き立てた聖剣を中心に、契約者の”仲間”全員に守りの加護を与える能力。ルーン王国国王の精神を体現すると言われる聖剣の力・・・・」
聖剣の発動をドラゴンの上で見ていたマギハが、興奮気味に声を上げた。
「もちろん存じていますよ!しかし、その力を行使するためには、開けた場所でないとならないこと。そして、発動中は使用者は指一本動かすことが出来ず、無防備な姿を晒さなければならないことも!!」
カレイドの両側で先ほどと同じ光が発生し、二体のドラゴンが現れる。
文字通り、身動きが取れないカレイドに襲い掛かるドラゴンたち。
だが、片方は突如白い霧に包まれ一瞬の内に氷の彫刻へと変わり粉々に砕け散った。
そしてもう一方も、顔面を縦に一刀両断されながら引き飛ばされ、下へと落ちていった。
「!?」
何が起きたのか、自分の居た場所からは分からなかったマギハが、前のめりになる。
アルバート城でも一番高い塔のテッペンに降り立ったドラグレアが、ため息をつく。
「馬鹿だな・・・あそこに居る二人の女が誰か知らないのか?片方は女性初のアルバート騎士団術士隊隊長を務め、もう片方は先代国王の王妃であり、剣聖と呼ばれた”フレミリア”様の一番弟子だぞ?カレイドを護るのに、これ以上考えられない豪華な布陣だ」
剣を突き立て、直立不動となるカレイドの横にマリアとリリーが並ぶ。
マリアは、着ていたドレスの下に、着慣れている術士隊隊長の制服を身に纏っており、手早くドレスを脱ぎ捨て、術士としての姿となっていた。
リリーはドレス姿に、用意していた軽装の鎧に右手にレイピアを握っていた。
王妃と大公妃の姿を見て、焦るどころかマギハは不敵に笑みをこぼした。
「そうですか・・・・・では、ドンドン行きましょうか!!」
戦いは始まったばかりと言わんばかりに、マギハは次の手を用意するのだった。
次回更新は、6月4日(水)PM11:00過ぎを予定しています。
変更の場合は、活動報告にてご報告いたします。




