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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
95/180

(5) 騒乱のさきがけ

「王都ディアグラムまでですね。はい、確認いたしました。では、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

「ありがとうございます」

 金糸雀カナリアが出した全員分の乗船チケットを確認し、定期船の船長が昊斗そらとたちの部屋から出て行く。


「この船なら、夜には王都に着けそうだね」

「丁度いい定期船があってよかったですね、我が主」

 国境都市ロードでの用事を済ませ、昊斗そらとたちは王都ディアグラムへの帰路についていた。


 泊まっていた宿を引き払い定期船の発着場に向かうと、丁度王都への船が入港していた為、彼らはその船へと乗船した。


「どうかされましたか?マスター」

 冬華とうかたちと他愛も無い話をしていると、昊斗そらとがボーっと何かを見ていることに気が付いた玉露ぎょくろが声を掛けた。


「ん?・・・・・いや、本当に皆の言ったとおりだったな、と思ってな」


 玉露ぎょくろに視線を向けず、昊斗そらとが見ていたのは、船室の窓の外を見て話をしているルールーとエメラーダの姿だった。

 二人とも、窓から見える景色で話が盛り上がっているらしく、お互いに終始笑顔が堪えなかった



 今朝、朝食を食べ終わった後に、昊斗そらとたちはエメラーダに父親の所在が分かったことを伝えた。


 エメラーダの父親が、昊斗そらとたちの知り合いで、今は王都に住んでいること。

 騎士団団長と言う立派な地位にいること。


 そして、奥さんと三歳になる息子が居ることも、包み隠さず話した。


 話を聞いたエメラーダは、最初から最後までずっと驚いた表情のままだった。


 昊斗そらとの脳裏に、自分が思い描いていた最悪の展開が過ぎる。


 だが、エメラーダはそんな昊斗そらとの心配を吹き飛ばしてしまった。


―お父さん、生きてるんですね・・・・それに、ちゃんと幸せになってる・・・良かったです


 父の生存と、その父が幸せに暮らしていることを心から喜ぶエメラーダを見て、昊斗そらとだけでなく、冬華とうかたちも驚かされた。


 彼女が事情を理解しても、悲しみで泣きじゃくるくらいはするだろう、と思っていたからだ。

 それが、逆の反応を見せたので、冬華とうかは理由を聞いた。


―・・・・お母さんが前に言ってたです・・・・他人を疑ったり恨んだりするのはとても簡単だって。自分が誰かを恨めば、他の誰かが自分を恨む・・・・・・そんな負の連鎖に取り込まれたら、抜け出すはとっても大変だって。お母さんには無理だったけど、エメは他人を信じられる優しいヒトになりなさいって。だからわたしは、お父さんがお母さんを棄てて別の人と結婚したとは思わないです・・・・・そう信じているです


 母に言われたとはいえ、若干十二歳にして”他人を恨まず、信じること”という考えを実践しているエメラーダに、昊斗そらとたちは脱帽するしかなかった。

 なぜ、ファルファッラがエメラーダにそんな話をしたのか、昊斗そらとたちは色々と予想は付いたが、その件は彼女が戻ってきた時に確認すればいいか、と思考を止めた。


「とりあえず、王都に戻ったら一度エメちゃん抜きでフォルトさんに話を聞いてみないと。エメちゃんと引き合わせるにも、フォルトさんには家庭もあるし」

「そうだな・・・・・」

 聖剣強奪事件で忙しくしているフォルトが、王都に戻ってすぐに捉まればいいが、と昊斗そらと冬華とうかが考えていた、その時。

 二人の横で、突然金糸雀(カナリア)が立ち上がり、声を上げた。

「我が主、昊斗そらとさん!何処かに掴まってください!」

 金糸雀カナリアの声の緊張具合から、二人は条件反射で手近な柱をつかんだ。

「二人とも!!」

 金糸雀カナリアの声より一瞬遅れ、玉露ぎょくろが窓際にいたルールーとエメラーダの元に走り、二人を窓から引き剥がすと、窓側に背中を向け、二人を庇うように玉露ぎょくろが抱きしめる。

 そしてその反対側に、金糸雀カナリアが滑り込んで、玉露ぎょくろと一緒にルールーたちの身体を庇ううように覆いかぶさった。


 次の瞬間、船が上下左右に大きく揺れた。


―きゃああああ!!

「な、なんじゃ!?」


 船の軋む音共に、エメラーダやルールーと同じように、他の部屋からは悲鳴が上がった。 



「っ!!」

 船の揺れを気にすることなく、昊斗そらとが船室の外へと飛び出し、そのまま甲板まで走り出た。

「皆様!現在、外は大変危険です!お部屋の中にお戻りください!!」


 甲板では、外に居た乗客を船内へ誘導する船員たちが慌しく動いている。


 昊斗そらとは近くに居た船員の一人の腕をつかんだ。

「おい!さっきの揺れは?!」

「突然、当船の脇を戦艦が全速力で抜けて行って・・」

 説明する船員も動揺しているようで、進行方向を呆然と見ている。


「戦艦?」

 船員の見ている方へ目線を向けると、一直線にのびる運河の先に、穏やかな運河に似つかわしくない戦艦が白波を立てて水上を走っているのが見えた。

「ハドリー騎士団所属の戦艦ですよ!こんな近くで見たの、初めてだぁ!」

 すると、別の船員が興奮したように声を上げる。

「こんな穏やかな運河に、戦艦が配備されている?」


 王都からそう出た事の無い昊斗そらとだが、国王のカレイドやドラグレア、それにアルバート騎士団団長のフォルトなどから、国内の運河に戦艦を配備していると言う話は聞いたことがなかった。


 昊斗そらとの疑問に、興奮していた船員が大きく首を横に振った。

「いいえ!この航路には精々警備艇程度しか、配備されていません!あの船は”北海”を防衛しているハドリー騎士団旗艦艦隊所属の戦艦です。間違ってもこのような場所には来るはずがないですよ!!」

 興奮しながら説明する船員に、昊斗そらとは目を細める。

「あんた、ただの船員にしては詳しいな」 

「前に、ハドリー騎士団の観艦式を見たことがあって・・・それに、一時期ハドリー騎士団に入りたくて色々勉強してましたから」


 若気の至りですよ、と照れる船員を見ながら昊斗そらとは、目の前の船員が元騎士団の人間かと思ったが、ただのオタクだと分かり、どの世界に行っても居るんだよな、と嘆息した。


「・・・・・・・なんだ?何かが、近づいている」

 フッと、昊斗そらとの感覚に何かが引っかかり、船が来た方向を見つめる。

昊斗そらと君!」

 揺れが収まり、昊斗そらとが帰って来るのが遅いので何かあったのでは、と冬華とうかが様子を見にきた。

冬華とうか

 やってきた冬華とうかに現状を説明しようとした瞬間、近くに居た小型船が水中へと消えた。

「!?船が勝手に!」

 甲板に居た船員たちや乗客たちが唖然とする中、高いところにいた船員が声を上げた。

「あそこだ!!」

 指差す方を全員が見つめると、タイミングを見計らったように巨大な”背びれ”が姿を現し、そして船を沈めた犯人が”跳ねた”。


「そ、そんな・・・・・・大型の水棲魔獣」


 姿を現したのは、全長十メートルをゆうに越える鮫に似た大型の水棲魔獣だった。

 北海の荒れた海を生活圏としており、性格は獰猛。最大の個体ともなると、数十メートルにも成長する魔獣だ。


 外海に住むはずの化け物が淡水の、しかも内陸部の運河に現れたことにより、船内はパニックに陥った。


 そして、そのパニックを助長するかのように遠くへ走り去っていた戦艦から数回の爆発音が聞こえ、昊斗そらとたちが乗る船の横の水面に”着弾”し、幾つもの巨大な水柱を作った。


 再び大きく揺れる船のあちこちから、悲鳴が上がる。

「砲撃!?」

「こんな近くに、一般人が乗った定期船が何隻もいるんだぞ!」

 甲板の手すりに掴まりながら、あまりに非常識な攻撃に昊斗そらと冬華とうかが戦艦を睨みつける。


 ノイズ音と共に船内放送の電源が入り、後ろからは船員たちの慌てた声が聞こえてくる。


『船長より、乗客の皆様にお知らせいたします!当船は現在、大変危険な状態にあります。ただいまより、岸に緊急着岸いたします。船員の指示に従い、速やかに下船してください!繰り返します・・・・・』

 先ほど、乗客のチケットを確認して周っていた船長が緊張と焦りを滲ませて乗客たちに下船指示を出した。

「マスター」

「我が主!!」

 船長の放送が続く中、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが甲板へと上がってきた。

玉露ぎょくろ金糸雀カナリア!」

 昊斗そらとたちを見つけ、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが二人に駆け寄る。

 その後ろには、ルールーとエメラーダの姿もあった。


「ルーちゃんたちも、今の放送聞いたよね?」

 二人の目線に合わせてしゃがむ冬華とうか

「聞いたのじゃ!」

―な、何があったのですか?周りに居る小さな精霊さんたちが凄く怯えているです・・・


 エメラーダはその出自ゆえか、それとも生まれ持った能力か、本来なら見えるはずの契約に適さない”微精霊”と呼ばれる存在さえ視認し、さらに話すことが出来る。

 彼女は、そういった船の周りに漂ってる”微精霊”たちが、「怖いものが一杯いる」と言って怯えていると言い、エメラーダ自身も顔を真っ青にしていた。


「・・・・二人は、他の乗客と一緒に避難するんだ」

 昊斗そらとは怖がるエメラーダの頭を撫でると、砲撃を受け興奮している魔獣を見据えた。

―皆さんは、どうするのですか・・・?


「如何にかしてくる」

 そう言って、昊斗そらとたちの服装が変わり、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアがそれぞれのパートナーの後ろに憑いた。

 それは、エメラーダも知る・・・・自分を助けに来てくれたときと同じ、戦闘服姿である。


「ルーちゃん。エメちゃんのこと頼んだよ」

 冬華とうかが手に持った杖をルールーに翳すと、ルールーの姿が幼女から、フェリシアと同じ少女の姿へと変わる。

 服装は、いつもの神様スタイルではなく、何の変哲の無い町服だ。

「心配するでない、トウカ。エメラーダは妾の友達じゃぞ?不埒者なぞおったら、成敗してやるわ!」

 初めて見る大人バージョンのルールーに、目をぱちくりさせるエメラーダ。


 驚きつつもエメラーダは差し出されたルールーの手を握り、二人は避難誘導している船員の下へと走っていく。


 その後姿を確認して、昊斗そらとたちは空へと舞い上がった。


昊斗そらと君。私は、沈められた船の人たちの救出に行ってくるね」

「頼む」

 短いやり取りだけ行い、冬華とうかは魔獣に沈められた船の下へと飛んで行く。

「俺は、あそこで暴れまわっている魚モドキを下ろしにするか」

 昊斗そらとは、創神器ディバイスから刃渡り五メートルほどの鉈状の剣を取り出した。


「南洋で見た水棲魔獣とは、随分違うな」


 アルターレ護国へ赴く際、南洋の海で見た魔獣は、所謂恐竜・・・首長竜に似た魔獣だった。

 だが、眼下の運河の中を暴れまわる魔獣は、巨大な鮫・・・メガロドンと言われる古代種の鮫に酷似している。

 

『まぁ、住む海が違えば、生態も変わるでしょうね』

 玉露ぎょくろがもっともなことを言っていると、昊斗そらとの後ろの水面に水しぶきが上がる。


 先ほどの魔獣とは違う、今度は巨大なシャチに似た個体が飛び跳ね、大口を開けて昊斗そらとに迫る。

「さっさと終わらせるか・・・・な!」

 昊斗そらとは焦ることなく、振り向きざまに、大きく開いたシャチの口から胴体を横に真っ二つにした。

 巨体を上下に分断され、そのまま放物線を描いて水面へと叩きつけられる魔獣の死体。


 沈んでいく亡骸に、今まで何処に居たのか、と言いたくなるほどの大小さまざまな魔獣が群がり、水面に赤いモノが広がる。


『これはまた・・・・大漁ですね』 

「嬉しくないぞ」

 玉露ぎょくろの言葉に、昊斗そらとは大鉈を担いでため息をつく。


昊斗そらとさん!』

 すると、創神器ディバイスを通じて金糸雀カナリアが通信を入れてきた。 

金糸雀カナリア、どうした?」

『ここに集まっている魔獣たちですが、どうも先ほどの戦艦が連れてきたようです!』

「は?」

 金糸雀カナリアの言葉に、昊斗そらと玉露ぎょくろも首をかしげる。

 

『先ほどから、戦艦の方から魔獣を興奮させる作用のある成分が流れてきています。しかも、自然界ではありえないほど高濃度の!あの砲撃も、戦艦に魔獣たちを引きつけるのが目的だと思います』

 詳細なデータを幾つも並べる金糸雀カナリア

 その中で、昊斗そらとたちの目に付いたのが、運河の成分分布の表だった。


 魔獣に沈没させられた船の乗り組員たちを助ける傍ら、金糸雀カナリアは魔獣が集まっている原因を調べる為、運河の水質を調べたところ、さっき挙げたデータが採取できたと補足した。


『なるほど、だから先ほどから戦艦が速力を落としているのですね。まさに、ゲームのモンスタートレイン。いえ、この場合はモンスターシップですか?』

 ――いや、それだと幽霊船の類だろ――とツッコミを入れたくなった昊斗そらとだが、グッと我慢する。

「・・・一体何が目的だ?」

 思考を切り替え、再び戦艦を睨む昊斗そらと

昊斗そらと君!こっちは私と金糸雀カナリアが受け持つから、あなたは戦艦の方を!!』

「了解、ここは頼んだ!」

 冬華とうかの申し出に、昊斗そらとは二つ返事で了承し、戦艦の方へと飛んで行く。


 実際、群れを成している魔獣相手に、ちまちまと昊斗そらとが倒すより、冬華とうかが一発デカイのを放った方が手っ取り早い。


 戦艦へ飛んで行く昊斗そらとの背中で、すぐに爆音と共に巨大な水柱が発生し、轟音の中で魔獣たちの断末魔の様な叫びが聞こえた。



***********************




「おい!何故、魔獣たちが付いてこないのだ!!」

 戦艦の艦橋で、艦長の男が焦りを滲ませて声を荒げている。

 今回の”作戦”において、この間の役割は陽動である。


 出来うる限り、派手に動き回らなければならず、先ほどの砲撃もその一旦である。


 今回の作戦が成功すれば、艦長である彼には今以上の地位の椅子が用意されている。

 なので、彼には是が非でも作戦を遂行しなければ、と気負いがあった。


「後部観測所より報告!後方で爆発・・・・魔獣たちが何者かによって殲滅させられている模様!!」

通信士の言葉に、艦橋内の全員がどよめく。


「何を馬鹿な。もう一度よく調べさせなさい」

 艦長の副官である女性が、通信士に命令を伝え、その命令が観測所の兵士たちに伝えられる。


「こんな所で躓くなど・・・・・他の奴らのいい笑い者だぞ!」

 自分をあざ笑う同僚たちの顔を思い浮かべ、艦長は席の肘置きを何度も殴りつける。

「落ち着いてください、艦長。我々が引き連れてきた魔獣は、ゆうに十数体・・・・・艦隊規模で無いと殲滅は不可能です。何かの間違いですよ」

 

 真正面から戦えば、自分たちの戦艦など一たまりもない相手だが、逃げることを優先にすれば、沈められる心配はなかった。


 そんな化け物たちを、殲滅できるものが居るならば、それは人智を超えた存在としかいえないのだ。


 だが、彼らはすぐに思い知ることとなる、人智を超えた者がいることを。


「再び、観測所から報告!後方から高速で飛来する物体あり!・・・・・に、人間です!!」


 通信士が報告を言い終わると同時に、戦艦の進路が”切断”され、その衝撃で水の壁が出現した。


 殆ど速度を落としていたとはいえ、水の上を走る戦艦が急に止まることなど出来るはずもなく、水の壁に衝突し、そのまま突き抜けながら、大きく船体が揺さぶられる戦艦。


「っ・・・状況報告!」

 近場の手すりに身体を固定し、揺れに堪える副長が声を上げる。


「・・・・!?あ、あれを!!」

 艦橋に居た一人が、外を指差す。


「そうな馬鹿な・・・・・・」

 揺れで艦長席からずり落ちそうになった艦長の男が、自分は信じられないものを見ている、と驚愕の表情を浮かべた。



*************:


『面白いくらいに、驚いていますね』

 宙に浮いた昊斗そらとたちを見上げる戦艦の乗組員たちの表情は、まさに”間の抜けた”という言葉がピッタリといって差し障りの無いモノだった。 


 昊斗そらとは、無言のまま創神器ディバイスをつけた右腕を戦艦へと向け、”何か”を射出し船体に撃ち込んだ。


玉露ぎょくろ、戦艦に強制通信」

『了解です、マスター』


 命令を受けた玉露ぎょくろが、戦艦の通信コードを割り出す。


 モノの数秒で、創神器ディバイスから艦内の音声が聞こえてきた。


「目の前の戦艦、聞こえるか?俺は、ルーン王国国王カレイド・ノグ・ルーン陛下と契約している傭兵の奥苑昊斗おくぞのそらとだ。今回の貴艦の行動に関して、ニ・三質問がしたい」


 昊斗そらとの言葉が艦内に響いたのが余程衝撃だったのか、艦内・・特に艦橋の動揺が手に取るように伝わる。


『・・・・・拙いぞ、このままでは国王側に作戦が露呈してしまう!ここは、極秘の作戦行動を取っていると伝えて・・・』

『艦長、落ちついてください!ここは取り成すより、あの男を始末することが先決です。傭兵とは言え、国王に下手に報告されては、本隊にも影響が出かねません。逆に言えば、あの男さえ居なければ、国王側に露呈する事はないはずです!』


 通信を切っているつもりなのだろうが、昊斗そらとが行っているのは”強制”通信であり、昊斗そらとたちの声は相手に聞こえないよう切り替えが出来るが、相手の声は常時昊斗そらと側へ筒抜け状態になっている。


 そうとも知らずに、昊斗そらとへの攻撃準備の号令が艦内を駆け巡る。


「こちらと話す気は無い、ということか」

 戦艦の艦長やその部下の取った言動に、昊斗そらとの顔から表情が消える。

『余程重要な”作戦”なのでしょうね、国王であるカレイドさんにバレたく無いほどに』


 この瞬間、昊斗そらとたちの中で目の前の戦艦が、敵表示へと変わる。


『攻撃準備、完了です』

『よし!・・・主砲照準!目標、艦前方の人間・・・撃ち方始め!!』


 艦前方に装備された主砲が昊斗そらとに狙いを定め、轟音と共に火を吹いた。


 砲弾は一瞬で昊斗そらとに着弾し、激烈な爆発と炎、そして熱風が広がり、昊斗そらとの姿が消える。



「近距離で我が艦の主砲を喰らえば、人間など跡形御なく吹き飛んでしまう!あの男の仲間がまだ居るかもしれん。警戒を・・・・・・・・・」

 艦橋では、爆発に消えた昊斗そらとを見て、調子を取り戻し号令を出していた艦長の声が、不自然に途切れた。


 目の前を覆っていた黒煙の中から、昊斗そらとが何食わぬ顔をして現れたからだ。


 これにはさすがに、いつも冷静沈着な副長も顔色を悪くする。


『警告なしの攻撃・・・・・今のが、貴艦の回答と受け取っていいんだな?・・・・・了解した、これより貴艦を撃沈する』


 昊斗そらとの言葉に、全員が戦慄した。


 精霊術が存在するこのグラン・バースの世界においても、個人単体で戦艦を沈めるのは至難の業・・・というより、不可能とされている。


 普段の彼らなら、昊斗そらとの言葉など鼻で笑えるが、今は違う。

 目の前の男なら、本当にやりかねない。

 そう、思わせる何かを、全員が感じ取っていた。


「全砲門開け!!艦に詰めている術士を全員出せ!何としてもあの男を落とすのだ!!」

 半狂乱で号令を出す艦長。


 今度は、戦艦が装備する全ての武器が昊斗そらとに一斉に向けられ、攻撃を開始した。


 しかも甲板には、予備兵力である術士までもが動員され、精霊術が昊斗そらとを襲う。


 だが、昊斗そらとはその場を一ミリたりとも動くことなく、防御結界で攻撃を防ぎ続ける。



 艦砲射撃と精霊術による攻撃によって発生した爆煙の中から、人影が上空に向かって飛び出した。


「あれでも倒しきれないのか?!」


 町ひとつ壊滅できるだけの攻撃を加えたにも関わらず、未だ昊斗そらとを討ち取れないことに艦長は、目の前で起こる光景に段々と現実味を失っていく。


 そして、砲撃の中から姿を現した真っ白な昊斗そらとを見て、戦艦に乗り込む者全員が、思考を手放した。


 何故、茶色がかった黒髪と、赤と黒が印象的な戦闘服が真っ白に変わっているのか、と普通なら疑問に思うところだが、それ以上に艦長を始め乗組員たちは、昊斗そらとが手にしていた物体に目を奪われた。


 彼が手にしていたのは、暴走したカグツチとの戦闘で使用した全長二十メートルを超える斬艦剣と呼ばれる神滅武装だった。


 一体、何処からあんな巨大な剣を取り出したのか?なぜ、巨人が振るうような剣を人間が手に持ち、あまつ空を飛べるのか?それより、あれは剣なのか?剣ならば、一体何を斬るというのだ?


 乗組員たちの脳裏に、様々な考えが浮かんでは消えていく。


 だが空を飛んでいる敵が、戦艦の全長に匹敵する長さの剣を振るおうと言うことは、自分たちが乗り込む戦艦を”斬ろう”としているのでは無いか、とその考えに全員が行き着いた。



 そして、その考えに行き着くには少々遅かった。


「・・・!!チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 巨大な神滅武装を振りかざしたまま上空から飛来し、水面に着水した瞬間、昊斗そらとは気合と共に斬艦剣を振り下ろした。


 剣の重量と、昊斗そらとが落下してきた時のエネルギー、そして創造神の力全てを纏った剣が、戦艦の中心線に吸い込まれるように打ち込まれ、甲高い金属音が一瞬鳴り響いた。


 水面に立つ昊斗そらとは、剣を振り抜いた形で硬直している。



 艦橋では、一体何が起きたのか分からず、全員がただ呆然とお互いの顔を見合っていた・・・だが、次の瞬間。


 艦長席に座る艦長と、女性にしては背の高い副官の目線が”同じ高さ”になった。


「な?!」


 ”戦艦が真っ二つにされ、船体の右と左がズレた。”


 艦長がそのことを理解出来たのは、自分側の船体が水中へと吸い込まれだしたときだった。


「馬鹿な・・・・我が戦艦が、ハドリー騎士団が誇る戦艦が斬られただと!?」


 そんな叫びを残して、艦長は戦艦と共に運河の中へと沈んでいった。


 残った副官側の船体も、先に沈んだ船体方向に倒れこみ、辛うじて沈まずに浮かんでいる。

 戦艦が真っ二つになり、片側が沈んだに関わらず、多くの乗組員たちが助かり、浮かんでいる浮遊物に掴まって運河を漂っている。

 神滅武装はその特性上、生き物を殺すどころか傷つけることが出来ない。

 なので、戦艦を斬った際、斬艦剣によって命を奪われた者は居ないのだ。


 加えて、乗組員の殆どが水の精霊と契約している。

 そのおかげで、溺れ死ぬという者もおらず、ほぼ全員が海面へと上がってきた。


「さて、冬華とうかも呼んで、戦艦の乗組員に話を聞かないとな」

 共鳴結合を解き、昊斗そらとは再び空へと舞い上がる。

『そうですね・・・・おや、丁度いいタイミングで、連絡が来ました』 

 そう言って、玉露ぎょくろ冬華とうかの声を、何故か外部に聞こえるようにした。


『ごめん、昊斗そらと君。一番狂暴そうな大型魔獣を一匹取り逃がしちゃった。そっちに向かってるから、よろしくね♪』

 謝っているはずの冬華とうかの声が何故か可愛らしく、そして楽しそうに弾んでいた。


『だ、そうです。皆さん、急がないと、自分たちがつれてきた魔獣に食い殺されてしまいますよ〜』


 わざとらしい声で、玉露ぎょくろが眼下の団員たちに声を掛ける。


 すると、本当に遠くで水棲魔獣が跳ね、こちらへと向かってきた。

 一瞬にして、パニック状態になった団員たちが、我先にと他の者を押しのけて岸へと泳ぎだした。


 実はこれ、普通に戦艦を鹵獲し、拘束した騎士団の人間に拷問を加えても、口を割らない可能性があると考えた昊斗そらとが、手っ取り早く本当に死ぬ思いをさせて―もしくは恐怖の中本当に殺して―、拷問の手間を省く為の常套手段だった。


 状況から、昊斗そらとたちがこの手を使うかも、と思った冬華とうかがワザと一体だけ魔獣を生かしておいたのだ。

 魔獣に追いつかれた者たちから悲鳴が聞こえ、前にいる者たちがさ恐慌状態に陥りながら、必死に泳ぎ続ける。


 昊斗そらとたちは、何をするでもなく、ただその光景を眺めていた。


 後にアルバート騎士団に拘束された者たちは、同僚である他の騎士団の尋問官に声を震わせ、こう証言したという。


「もし、悪魔や魔王って存在がいるのなら、アレ(・・)よりかは遥かにマシな奴らだろう・・・・あいつらの目には、何も映っていなかった・・・・俺たちを虫けらとも、ゴミとも思っていない・・・そんな目をしていた。世の中に、あんな化け物が居るとは思わなかった」、と。  



 結局、助けて欲しければ洗いざらい話せ、と言う昊斗そらとの言葉に、全員が「話すから、助けてくれ!」と懇願したので、惨劇はホンの二分程度で終了した。



 この後昊斗(そらと)たちは、助けた艦長以下主だった士官たちから、信じられない話を聞くこととなるのだった。

 


次回更新は、5月31日(土)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご報告します。

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