迷宮を生み出したる者、グルド
迷宮を生み出した魔導師のお話です。
グルドは魔術師であった。
種族はノーム族。妖精族の一つ。
同族の中では早くから「天才」として知られていた。
魔力量をとっても、詠唱技術をとってもグルドに敵う者はいなかった。
だからかも知れない。
いつしかグルドは、ノームには珍しく放浪の旅に出た。
己を理解する者、己を高見に引き上げる者を求めて。
放浪の旅は150年に及んだ。
グルドの齢が250に届こうとした頃、グルドは変わった男に出会う。
その男は強力な呪いの剣「魂喰」を持ち、なお破滅していなかった。
それが男の魔法技術によるものと知り、興味を覚えたグルドは、暫くその男と行動を共にすることに決めた。
男はグルドと同じ「天才」だった。
グルドは自分の理解者が現れたことに狂喜した。
男と魔術について語らい、共に考え、いくつかの新しい魔法を生み出した。
それはグルドにとって、実に充実した日々だった。
惜しむらくは、男にある種の「呪い」が掛けられており、せっかく開発した魔法も、その殆どを男自身は使うことができなかった。
そのためか男はさらなる力を求めていた。
なぜなら男には「目的」があったからだ。
男は魔法に変わる力をも求めた。
共に旅する内に自然と男が前衛、グルドが後衛というように役割が別れていった。
他に仲間は作らなかった。
男が嫌がったし、グルド自身もその必要を認めなかった。
砂漠の夢幻伽藍の塔ヘルパイア。
深海淵の忘れられた神殿キュナトス。
竜骨山脈の地下遺跡ガイナオウト。
火炎山ベスポオゥヘプト。
その他にも…。
屈指の魔境と呼ばれる場所に男と2人で巡り踏破した。
通常の者なら一生掛けてもたどり着けない場所でも、男とグルド、2人の「天才」は可能にした。
精霊王と出会い、契約を交わしたのもその旅路でのこと。
それによりグルドの力は増し、男の剣もまた強力になった。
強力になりすぎた、といっても良いだろう。
もはや「魂喰」などと呼べるものではなくなっていた。
ある精霊王曰く
『これで斬られたら僕らでも消滅するね。』
と言わしめる程に。
もはや、男には良くて一太刀、それ以上振るうことは無理だった。
「俺が強くなるしかない。」
そう言い、凄まじい修練を積むようになった。
その男が突然消えた。
「奴らに挑む。剣を頼む。」
そう短い書き置きを残して。
その数十年後、グルドは、人の来ない荒野に居を構え、そこに迷宮を造り始めた。
旅の間に手に入れた強力な魔法具を収納するためだった。
自分が生きている内はよい。
生きている内ならどの様にでも護り切ることができる。
自分が死んだ後、下手をすれば、この魔法具をもとに戦争が起きる。それを恐れたのだ。
と同時に、自分を超える者が在れば、それらを正しく使いこなすことができる、とも考えていた。
迷宮には男と考えたアイディアも含め、様々な仕掛けをした。
さらに契約した精霊王にも協力してもらい、厳重な封印を施した。
在るレベル以上の強力な魔法具はそれ自身に意思が宿る。
自らを扱える者を選別し、呼び寄せようとするのだ。
そのものに本当に資格があるのか、それを判別する機能が迷宮に加えられていった。
天才が全精力を傾け、精霊王等が協力した迷宮。
それは何時しか迷宮自身の意思も持つようになってきた。
造り始めて数十年の時を掛けた後。
天才と魔法具と、精霊王と、迷宮と。
全てが組み合わさった時「精霊の迷宮」=「還らずの迷宮」が完成した。
迷宮が完成して程なくして。
グルドは予期せぬ再会を果たした。
男が姿を現したのだ。
初めて出会った時から百数十年が過ぎていた。
最初はわからなかった。
年齢も容姿もまるきり変わっていたからだ。
事情を聞き、改めて精霊王達にも確認してもらった。
『魂は同じじゃな。』
それが結論だった。
剣の返還を申し出るグルドに、
「未だ早い。」
と断る男。ただし、何時かは取りに来ることを告げる。
その時のためにと迷宮の鍵を男に渡す。
「儂が生きておる内に来れると良いな。」
そう告げるグルドに、片手を上げて答える男。
男はそのまま去っていった。
「再び会えると良いが。」
男の背中を見送りながら呟くグルド。
しかし、グルドが生きている内に再びの再会はなかった。
次に男が迷宮を訪れたのはさらに100年後。既にグルドは此の世の人ではなかった。
此の世を去るまでに、グルドにはさらに2つの出会いがあった。
一つは夢の世界で。
そこで漆黒の剣の意思と出会う。
剣の意思と語らい、彼は男のために精霊王等に或る願いを託す。
その願いにより剣と欠片は出会うこととなる。
今一つは迷宮の彼の部屋であった。
ある晩、ふと顔を上げるとそこに2つの「影」があった。
「影」達とグルドが語った内容については、彼は誰にも漏らさなかった。
記録にすら残さず、彼の胸の内にのみ留めたのである。
ただ、男に対しての想いがグルドの最後のメッセージに込められていた。
『…できればお主の目的が果たされ、お主に安寧が訪れることを願う。例え叶わぬ願いだとしても…。』
グルドの想いが届いたのかどうか…。
それはこの後の男の行動が証明することになるだろう。
グルド亡き後、今も「精霊の迷宮」は「還らずの迷宮」として荒れ地の奥で眠っている。
いつかその奥に眠る魔道具が必要とする者が迷宮に訪れるまで。




