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「幕間~転生者の周辺~」  作者:
幕間第2部
5/7

「ガルムの店」

第2話途中のお話です。

 ガルムの店は、ザルツ王国の都市レンナルトの目抜き通りから、少し路地を入ったところにある小さな店である。

 ただし、店構えは小さくとも「裏」の世界では世界に名の通った「名店」でもあった。


 曰く、金を積めばどんな物でも手にはいる。

 曰く、店主に気に入られれば、超一流である。

 曰く、盗品だろうが何だろうが、その価値に応じて買い取ってくれる。

 曰く、店主は何百年と生きてきた魔導師で、自分が創った魔法具を販売している。

 曰く、店主は魔神の加護を受けている。


 等々、その噂には様々なものがあり、その真偽の全てを把握しているのは店主のみだという。

 今日も噂の店主、シャールタは店番をしていた。

 「裏」向きの店、という性質上、特に賑わうわけではない。ただ、表の顔としてある程度繕う必要はあり、そこそこの品揃えはしているため、時々普通の客も来る。

 店番を置くほどの規模ではないため、店主が店番をすることになる。

店主は気性が荒く、気に入らない客は平気で叩き出してしまう。常連によると

 「前に城の騎士団長が叩き出されたぞ。」

と言う程で、「ガルムの店」では店主に逆らうな、というのが常識となっていた。

 そのため、店に入ってくる客は(初めての客を除いて)緊張した面持ちで入ってくるのだが、今日は少し様子が違っていた。

 

 シャールタが、時々思い出し笑いをしているのである。


 店に入ってきた客は皆、それを見てギョッとすると、回れ右をしていく。

 それに気が付かないくらいシャールタは上機嫌だった。

 誰が呼んだか、この日のことを「ガルムの恐怖」と言うようになったというのは、後日の話である。


 シャールタは竜人族である。600歳を超える人生の中で、幾人かの友人はできたが、基本、気難しくて気性の荒いシャールタと親しい者はそうはいない。その内の一人が昨夜訪れたのである。


 (あやつ、忘れてなかったとは、な…。)




 その男と知り合ったのは、シャールタがまだ冒険者をやっていた頃のことだった。


 たまたま、臨時のパーティを組んだ相手がその男だった。

 腕に自信のあったシャールタは、その男と些細なことで喧嘩となった。

 で、ギルドの修練場で模擬戦をすることになったのだ。

結果は引き分け。

 その後は機会があるごとに模擬戦をやるようになった。

 戦績は32勝48敗3分け。

 負け越しているのが残念ではある。

 しかし、竜人族の自分と対等以上に張り合うその男のことが気に入ってしまっていた。

 何時しか、模擬戦をやった後に、一緒に酒を飲むようになっていた。

 その頃からシャールタは「ガルムの店」を継ぐことを真剣に考え始めていた。

 「ガルムの店」はもともと、シャールタの大叔父がやっていた店である。

 その大叔父が老齢を理由に、一族の中からシャールタに跡を継ぐことを求めてきたのだ。

 シャールタ自身も大叔父のことは好きだったし、店の経営にも興味はあった。なにより、「ガルムの店」で扱う魔法具の類が好きだった。

 この魔法具好きも冒険者になった一因である。

その話を男にすると、それから冒険で手に入れた魔法具を格安で譲ってくれるようになったのである。

 「いつもすまねえな。」

 「店を継いだら、割引してもらうさ。」

 そんな会話をしながら、互いの冒険の話を語り合う。そんな時間がシャールタには心地よかった。


やがてシャールタは「ガルムの店」を引き継いだ。

 冒険者を引退し、店を継いだシャールタの元へ、時々、男はやってきて魔法具の売買や冒険の話をしていった。

 しばらくして男がシャールタにあることを打ち明けてきた。

 「敵討ちだと?」

 「ああ。」

 「一人で行く気か?何なら手伝うぞ。」

 「いいや、一人で行かなきゃ意味がない。」

 「わかった、無事に目的を果たして来いよ。」

 男の決意が固いことを知ったシャールタは、黙って見送ったのだった。

 その時、男の秘密を聞き、そして再会を約した。

 その時、ある魔法具も預かった。


 それから150年が経ち、シャールタ自身もその男のことは記憶の片隅にしまい込んでいた。

 預かった魔法具は倉庫の片隅に、ほこりを被ったまま仕舞い込まれていた。

欲しがる者もいたが、

 「預かり物だから。」

 と断っていた。


 そして昨夜、その男はやってきたのである。

 最初は分からなかった。

 顔も何もまるっきり違っていたからだ。

その男は初顔のはずなのに、狭い店内をよく知っている、という雰囲気で近づいてきた。

 「久しぶりだな、シャールタ。」

 その口調と、身にまとった雰囲気。何気ない仕草。

 それがシャールタの記憶を呼び覚ました。

 「…おめえ、シィンか?」

 「そうだ。」

 「よく生きてたな、というのも変な話だが…。」

 シャールタはシィンが転生の呪いをかけられていることを知っていた。というよりシィンからその話を聞いていた。

 それでも目の前でまるきりの別人になってしまった親友を眺める、というのは何とも妙な気分だった。

 「まあ、あれから何度も死んだからな。」

 そのことを察したのだろう、シィンは半ば冗談めいた口調で返してきた。


 積もる話は山ほどあった。

 しばらく語り合っていたが、そこでシィンが用件を切り出してきた。

 「前に預けた『亜空珠』はまだあるか?」

 「あるぞ。持っていきな。」

 そう言うと倉庫から出してシィンに渡してやった。 

受け取ったシィンは早速その亜空珠から物を取り出した。

 「150年前の酒だが、預かり賃ということでどうだ?」

 出してきた酒はガルバリィ大陸でしか手に入らない、とされるドワーフの秘蔵酒「悪竜殺し」だった。

 「おめえ、これが今幾らするのか知ってるのかよ…。」

 なかなか手に入らない酒であるため、下手をすると家一軒が買える値段で取引されることもある酒だ。

 「150年分の預かり賃なら安い物だ。」

そう言うと勝手知ったる人の店で、グラスを二つ出してくると酒の封を切る。

 「再会を祝して」

 グラスを合わせ、飲んだ酒はこの150年間で一番旨かった。


 人を待たせている、ということでその後シィンは帰って行った。


 というわけで、今日のシャールタはご機嫌なのである。

 (シィン、また来いよ。旨い酒も持ってな。)

というわけで、亜空珠が簡単に手に入ったのはシィンが預けていたからでした。


なお預けていた理由は、「死ぬ」と誰かに奪われるなどして、自分の物でなくなってしまうからです。

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