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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(4)約束

エルナがお茶のおかわりを持って出てくると、二人の騎士は焚き火パンを食べていた。火に当ててあったので、ちょうど焼きあがったようだ。


「見よう見まねで作ったもので、お口に合うと良いんですけれど」


「最高だ!こんなに美味い焚き火パンは食べたことがない」


エルナが心配そうに尋ねると、ヒューバートが機嫌良く答えた。オリバーもこちらを見てうなずいたが、こちらは何かが納得いかないような、複雑そうな顔をしている。


(あれ?どうしたんだろう?)


彼女は首をかしげた。ほんの少しの間に、二人の機嫌が入れ替わってしまったように見えたからだ。


「パンの塩加減がちょうど良いし、赤い果実が良いアクセントになっている」


エルナの困惑を気にも留めず、銀髪の騎士は焚き火パンを褒めちぎった。


「それは果物ではなくて、オイル漬けのドライトマトです」


「ドライトマトか、いいアイディアだな!」


「あ、ありがとうございます」


喜んでもらえて嬉しいが、銀髪の騎士が急に饒舌じょうぜつになった理由が分からない。


戸惑う彼女の脳裏に、ふと、食べることが大好きなもふもふの姿が浮かんだ。


小屋の方へちらりと目をやる。


(もしかしてこの方……ポムと同じ、食いしん坊……?)


ここへ来た時に機嫌が悪そうに見えたのは、きっとお腹が空いていたからに違いない。


体調が悪いうえに、お腹を空かせて森をさまよっていたら、確かに機嫌も悪くなるだろう。


空腹はつらいものだと、彼女は騎士に同情を覚えた。


「あの、まだお肉やチーズもあるんですけれど、召し上がりますか?」


本当はポムのことがあるから、早く帰って欲しい。でも、お腹を空かせた人が目の前にいるのを放っておけない。


実際、その言葉を聞いたヒューバートの顔がパアッと明るくなった。


(やっぱりポムみたい!)


エルナは納得してうなずく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、娘さん」


だが、そこにオリバーが割って入った。


ヒューバートの肩を抱いてエルナから少し離れると、二人はゴソゴソと話し始めた。なにやらもめているようにも見えて、余計なことを言ってしまったかと、エルナはまた不安になる。


「……残念だが、もうすぐ日が暮れてしまうので……我々は……帰らなければならない」


そうしてしばらく話し込んだあと、ヒューバートが残念そうに、本当に残念そうに言った。


後に立つオリバーは、眉尻を下げてその様子を見守っている。


「それで、あなたにちょっと、その……図々しいお願いがあるのだが」


「どのようなことでしょうか?」


ヒューバートがなぜか言いにくそうにしているので、エルナは首をかしげる。騎士さまの役に立てることなど、自分にあるだろうか?


「実は、私はここ数年、味覚障害を患っていてね。食べ物の味が分からなかったのだ」


「まあ!それはお気の毒です」


その告白にエルナはとても驚いた。


そういう病気があると聞いたことはあるが、本当にそんな人がいるとは。


(食べ物の味が分からないなんて、すごくつらいに決まっているわ)


エルナは心から同情した。


ヒューバートは上半身を乗り出すようにして続ける。


「だが、今日、あなたが出してくれたお茶とパンは美味しかった!久しぶりに食べ物の味を感じることができたのだ!!」


「そ、そうなのですか」


相手の勢いに圧倒され、やっとそれだけを返した。


きっと秘伝のスパイスの効果だろう。母のスパイスは本当にすごいと、エルナはあらためて思う。


「本当にありがとう!」


ヒューバートはエルナに近づいてその手を取り、両手で包み込むように握った。


温かくて、大きな手。


手のひらから伝わったその熱は、エルナの全身へと一気に駆け巡る。心臓の鼓動が、うるさいほどに高鳴り始めた。


(ど、ど、どうしよう……!)


落ち着かなければと思うのに、心臓はいっこうに鳴りやまない。こんな風に男の人に手を握られたことなどないので、ひどく動揺してしまっていた。


「だからお願いだ、また私に食事を作ってもらえないだろうか?もちろん材料費と手間賃は払う」


エルナは顔を真っ赤にしたまま、こくこくとうなずいた。もう何でもいいから、早く手を離して欲しい。


「おい、手を離してやれ」


「あっ、すまない!」


ひとり冷静でいるオリバーがヒューバートの肩に手を置くと、彼はようやく気づいて手を離した。首まで赤くしたエルナに、慌てて謝罪する。


「無作法に触れてしまって、大変失礼をした」


「だ、だい、大丈夫です」


エルナはしどろもどろに答えた。心臓はまだ早鐘を打っていて、彼の顔をまともに見ることができない。


「では、また明後日に!」


次は明後日のお昼に来るという約束をして、彼らは去っていった。 エルナは小屋の前に佇んで、馬に乗った背を見送る。



「本当に、不思議なこともあるものだな」


夕日に照らされた街道には、彼らの影が長く伸びている。馬を急がせながら、オリバーはひとり言のように呟いた。


これまで何をしても治らなかった症状が突然治ったと言われても、すぐには納得できないでいるのだ。


「ああ、自分でも信じられない」


心も体も軽くなったヒューバートは、快活に答える。


彼は気づいていた。


来る時とは打って変わって体調が良くなったのは、久々に美味しい食事ができた事だけが理由ではないと。


「お前、いつもより体が軽いように感じないか?」


「確かに」


オリバーはうなずく。ほぼ一日中森を探索していたのに、いつもより疲れていない気がする。体だけでなく、心も軽いのだ。


日頃は明るく振舞っている彼だが、実は気苦労が絶えない生活を送っていた。騎士団の副団長であるだけでなく、ヒューバートの護衛の役も担っているからだ。


「それはたぶん、あの娘のもつ魔力のせいだ」


「何だって!?」


「私たちが追っていた魔力の正体のひとつは、あの娘のものだと思う。お茶とパンからも同じような魔力を感じた」


「そ、そんなもの食うなよ!」


彼が無謀な行動に出ていたことを知って、オリバーは顔を引きつらせた。


正体不明の魔力が入った食べ物など、毒より質が悪いではないか。


「悪いものではないのは分かっていた。実際に私は味を感じることができたし、お前も体調が良くなったろう?」


ヒューバートの胸にはまだ、清らかで温かな魔力の名残が残っている。それは、安らぎと心強さを彼に与えていた。


「しかし、そんな魔法の話は聞いたことがないぞ」


魔法はその性質から「火、水、風、土」の四つに分類される。ヒューバートは風と水の両方が使えた。


だが、体調を整えたり、病気を回復させたりする魔法の話など、聞いたことがない。


「ああ、それについては、まだ調査が必要だな。過去にそんな事例がないか、王宮の資料を調べてみよう」


そんな魔力を持つ者がいれば、王宮の資料に必ず残されているはずである。悪いものではないと分かっていても、彼の立場で放っておくわけにはいかない。


いや、そんな建前より何より、「もっと知りたい」という気持ちが、彼を追い立てていたのだ。


「なら俺は、あの娘の素性について調べてみる」


オリバーは引き受けた。エルナのことがずっと気にかかっていたのだ。


(あの娘の容姿や言葉遣いには、気品があった)


平民では絶対にないはずなのだが、なぜあんな小屋にいるのだろう? 本当にひとりで暮らしているのであれば、危険でもある。


(気丈に振舞っていたが、本当は助けが必要なのかもしれない)


ドアを開けた時の、新緑の瞳ににじんでいた怯え。


その姿は、彼の世話焼きな性質を刺激するのに、十分すぎるほどだった。


「うむ、本人たちに気づかれないように、毎日騎士に巡回させてくれ」


彼の表情から察したヒューバートは、そう命じた。


「了解……って、おい!『本人たち』って何だ!?」


オリバーは目を剥く。


娘のほかには誰もいないと思っていたが、誰か隠れていたのだろうか?


「小屋の中にまだいたんだよ。娘の魔力と似ているが、少し性質の違う何かが」


驚くオリバーに、ヒューバートはさらりと告げた。


森で探索中、急に魔力が大きくなったように感じたのは、きっとソレが魔力を放出したせいだ。その魔力は娘よりずっと強く、熟練していた。


(あれは人のものとは違う)


人とは思えず、かといって魔獣でもないその正体を、彼はどうしても確かめたかった。


(そのためにも、しばらくあの娘の元へ通う必要がある)


「これは任務なのだ」と自分に言い聞かせる彼の胸には、なぜか頬を赤く染めた愛らしい顔が浮かんでいた。


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