(1)食いしん坊の毛玉
翌朝、「クゥクゥ」という愛らしい寝息でエルナは目を覚ました。横たわる体のすぐそばでポムが寝ているのだ。
ポムは自分の大きな尻尾を抱き枕のように抱えて、クルンと丸くなっていた。
(ふふっ、ボールみたいね)
モフモフのボールをチョンチョンと指でつついてみるが、ポムは身じろぎもしないで眠っている。
エルナは起こさないように、そーっとベッドを抜け出した。
昨日、収穫したサツマイモを抱えて裏の井戸へ行き、顔を洗うついでに芋も洗う。
(今朝もこれを食べるしかないのだけど、あまり甘くないのよねぇ)
たわしで擦って芋の泥を落としながら、昨夜のことを思い出す。
「きゅぅううう……」
蒸かしたサツマイモを一口食べると、ポムは残念そうな鳴き声をあげたのだ。
「あんまり甘くないね」
エルナもうなずいた。
放置された畑にあったわりには、よく育っている。だが、サツマイモは収穫したてより、しばらく天日に干しておいたほうが甘みが増して美味しいのだ。
だが、今はほかに食べるものがないし、甘くなるまで干しておく余裕もない。
(なんとか美味しく食べる方法はないかな?)
そう考えた瞬間、エルナの顔がパッと明るくなった。
(そうか、アレがあったわ!)
台所でみつけたアレを使えば、甘くないサツマイモも美味しくすることができる。
自分のひらめきに喜んでいると、愛らしい鳴き声が聞こえた。
「キュー!」
ポムが目を覚ましたらしく、ポムポムと弾むようにこちらへ駆けてきていた。
「おはよう、ポム。朝ごはんにお芋を食べましょう」
「きゅ、きゅぅうううう」
あまり歓迎していない顔つきに、彼女は笑いかけた。
「大丈夫、今日は美味しく料理してあげるから」
「キュウ!」
ポムは黒くつぶらな瞳を輝かせた。
エルナの言葉の意味をちゃんと理解しているし、料理の味もちゃんと分かっているように見える。
昨夜も、ポムは葉を使ったスープやおひたしを喜んで食べていた。どちらにもヒールシャワーを使っていたので、より美味しく感じたのかもしれない。
やはり普通の動物とは違うようだ。
「さあ、朝ご飯を作りましょう!」
エルナはポムを連れて小屋へ戻ると、ペティナイフで洗った芋を輪切りにし、水にさらしていく。
このナイフを使うと、誰でも完璧に均等な厚さにスライスすることができるのだ。母の形見のナイフセットには、宮廷料理人の一流の技を再現できる古代魔法がかけられていた。
古代魔法は、今は失われてしまった魔法の技術である。 その希少性を考えても、ブルック伯爵家の「家宝」と言える逸品だ。
ジャネットに取り上げられずに済んだのは、彼女がこのナイフの価値を理解できなかったからだ。
「ナイフセットが家宝だなんて、バカじゃないの?」
料理に興味がないジャネットは、大事そうにナイフの手入れをするエルナを笑った。
ジャネットにとっての「価値あるもの」とは、身をきらびやかに飾ってくれる、ドレスや宝石なのだ。
(売られたりしないで、本当によかったわ)
切れ味の良いナイフの感触を楽しみながら、エルナは心から思った。
……ぴょん!
「キャッ!?」
突然、ポムが作業台の上に飛び乗ったので、エルナはびっくりして声を上げた。
「うわあ、すごいね、ポム」
小さいわりに、なかなかの跳躍力だ。
ポムの見守るなか、水にさらした芋を鍋に入れ、水をひたひたになるまで注ぐ。 鍋を火にかけ、蜂蜜と塩、ヒールシャワーのスパイスを入れた。
しばらくすると甘い匂いが漂ってきて、ポムがハート型の鼻をヒクヒクさせはじめた。
「サツマイモの蜂蜜煮よ」
蜂蜜で甘みをプラスし、塩がその甘みをさらに引き立てる。スパイスの柑橘系の香りも良いアクセントになるだろう。
「さあ、召し上がれ」
エルナは冷ました蜂蜜煮を木の皿に入れ、テーブルに置いた。
ポムは椅子を経由してテーブルに飛び乗ると、皿に顔を突っ込む様にして勢いよく食べ始める。喉に詰まらせないか、ちょっと心配だ。
「たくさんあるから、ゆっくり食べてね」
そう言うとエルナも食べ始めた。
芋の甘みはやっぱり少ないけれど、蜂蜜の甘さで美味しく食べられる。ヒールシャワーの柑橘の香りが、爽やかさも加えている。
スパイスの効果もあって、体が温まってくる。エルナは体の内側から、元気が湧いてくるのを感じた。
「ねえ、今日は森に食べ物を探しに行かない?」
夢中で食べているポムに話しかける。
畑の芋と周囲の薬草だけでは、やはり不安だ。幸い季節は秋なので、キノコや木の実など、森の恵みを収穫することが出来るはずだ。
「キュー!」
「賛成!」というように鳴いたポムのほっぺに、芋のかけらがくっついている。エルナはそれを指でつまんで取ってやる。
「じゃあ、食べ終わったら出かけようね」
ポムはコクコクとうなずく。そして「おかわり」と言うように、皿をエルナの方へ押し出した。
この毛玉、なかなかに食いしん坊のようである。
「はいはい、たくさん食べてね」
エルナは笑いながら皿を受け取り、蜂蜜煮を山盛りに入れてやった。




