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法失き世界の人の道  作者: 大洲やとこ
第一幕 凡人の歩幅で
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2-22.第一功



 ワーレンとすれば会心の一日だった。


 こっちにつくと言って集落の裏手に回ったトバに、エギルは三人の部下を同行させた。

 それに遅れて、ワーレンにも後を追わせる。

 トバが本心でこっちについたならそれでいい。そうでない場合も考えて。



 集落の裏手に迂回して、その先に老婆と四人の子供を見つけた。

 例の薬師のお気に入りの子供と見て間違いない。

 神様の使いだとか言っているが、エクピキの連中と同じだ。幼子に性的興奮する変態で、男児でも構わないとかむしろ男児を好むとか。


 ワーレンは女児の方がいい。

 ちょうど孕むか孕まないか、そんな年ごろの娘だ。咲く前の花くらいの。

 せっかくだから薬師様お気に入りの娘の具合を確かめてみてもいいだろう。それくらい役得だ。


 女の蕾。

 ワーレンに限らず、無法者なら好き者が多い。

 人妻や高嶺の花、あるいは年端の行かない少女でも、無法者なら好きにできる。

 嫌がって抵抗していた女が、暴力を恐れて媚びる姿など最高の娯楽だ。

 安い娼館の女とみずみずしい少女とではまるで違う。遠目でも小綺麗な少女はうまそうな果実に見えた。



 先行して何事か話していたトバに、同行していた三人が近づいた。

 いつまで話しているんだと焦れたのだろう。最初は怖がらせないようにトバだけで話すとか言ったのだと思う。


 トバは裏切った。

 最初からエギルの言いなりになるつもりなどなかった。従ったフリをして。

 エギルもそれを見越して見張り代わりに三人つけ、さらにワーレンも追わせたのだ。


 まず不用意に近づいた一人が頭をかち割られ、その時には老婆と子供たちは駆け出していた。

 トバと争う連中を尻目に、ワーレンは逃げる子供たちを追いかける。

 三対一。一人やられても二対一だ。どうにかするだろう。

 トバなどどうでもいい、子供を逃がすわけにはいかない。



 そのうち、追ってくるワーレンに気づいた彼らが悲鳴めいた声を上げる。

 いい。

 ババアのしわがれた声はともかく、少女の、はやく、はやく、と焦った声がとてもいい。

 言われなくてもすぐにしてやる。女にしてやる。


 森の中に道があるわけではない。

 木々に塞がれない方へ走っていくだけ。

 足の速さはワーレンに分があるが、小柄な子供たちはするすると隙間を抜けていく。


 気が付けば老婆の姿はなかった。老婆だけでなく人数が減っている。

 意図的に分散したのか、ただ夢中で逃げていてはぐれただけか。おそらく後者。

 ワーレン一人で全員を捕まえることはできないのだから、狙いを絞った。人質としても有用だろう少女に。



「へへっ、ほうらお嬢ちゃぁん」

「や、いやっ!」


 ワーレンの手が少女の肩に届く。

 その瞬間、見ていなかった横から、


「逃げろカヨウ!」


 両手をクロスさせた少年が、体ごとワーレンにぶつかってきた。


「お、あっ?」


 ややぬかるんだ地面に足を取られ、バランスを崩したところに運悪く大木に当たってしまった。

 肩から木の幹にぶつかりながら、忌々しいガキの襟首を掴んで転ぶ。


「イサヤ!」

「アユミチ兄ちゃんを呼んできて!」

「っ」


 振り返ろうとした少女――カヨウに、転がりながらかっこいいことを言う。

 男の子だ。女に恰好をつけたい気持ちはわからないでもない。



「ちっ……くそ、べっ」


 イサヤを捕まえながら転がったワーレンが顔を上げた時には、カヨウの背中は木々の中に消えていた。

 せっかくの獲物を。

 このクソガキ、ぶっ殺して……いや、それではダメだった。


「邪魔しやがってよぉ!」

「あぐぅっ」


 腹に一発だけ。

 続けて軽く頬をはたいて、それで気を静める。


「か、ふ……」

「まあいい。アユミチ兄ちゃんとやらの土産にゃなるんだろ」


 トバとやり合っている三人は、子供の確保が優先だとわかっていないのだ。

 頭に血が上って判断できない馬鹿。ワーレンはそうではない。

 とりあえずガキを連れて帰ればいい。エギルはワーレンを(ねぎら)う為に集落の女の一人をくれるかもしれない。結構な美女もいると聞いている。




 少し迷いながら聞こえてくる大声をたよりに集落まで戻ってきて、何やら様子がおかしいことに気づいた。

 あっさり制圧したような雰囲気でもない。

 争っている。

 エギルの声が聞こえた。あんたが噂の薬師か、とか。


 なるほど。

 いいタイミングで戻ってきたようだ。



 ワーレンの活躍で状況が一変。

 まだ抵抗の姿勢だった薬師も武器を下ろし、意味のない約束を取り付けようとしている。

 笑ってしまうほどの甘ちゃん。

 自分だけでも助かる方法を選ぶべきなのにできない。間抜け。


 このイサヤは弟かそれに近い肉親なのか、そうでなければやはり恋人とかお気に入りの稚児だったりするのだろう。

 好いた惚れたで判断を間違う奴は多い。

 男児趣味のある仲間もいる。アユミチの目の前でイサヤを泣かせてやるのも楽しそうだ。いい見物になる。



 今日の手柄はワーレンのもの。

 アユミチに庇われている女。胸をはだけた勇ましそうな美女。

 これはまたいい。こういう女を泣かせて屈服させるのはみんな大好きだ。


 エギルも自分が楽しみたいというかもしれないが、今日はワーレンが先だ。

 逆転の決め手になった報酬としてもらう。



 と、そこに。

 おそらく建物や他の人間の陰で見えなかったのだろうが。

 ワーレンの位置取りが仲間たちと外れていて、エギルに忍び寄ろうとする間抜けどもの姿が丸見え。



「後ろだ、エギル!」


 今日のワーレンの働きに誰も文句は言わせない。

 肝心かなめのガキを捕まえ不利な状況をひっくり返し、その上で住民の奇襲を看破。

 ワーレンの一番手柄にいちゃもんをつける奴はいないだろう。


 その女戦士を当分独り占めして、酒や食い物の取り分も当然一番に。

 惜しむらくは少女を逃がしてしまったこと。

 捕まえていればあっちがよかった。男を知らない未成熟な娘を泣かせる愉しみがあったのに。


 ちらりとしか見えなかったがお綺麗な顔立ちをしていた。

 ちょうどこんな……?



「あ?」


 気配を感じたとかではない。

 予感めいた何か。

 ワーレンが顔を横に向けた先に、逃がしたはずの少女の姿があって。


「んァ?」


 刺すつもりだとかではなく、先ほどエギルの背後を指したナイフの先端が、ふらっと泳ぐように少女の方に流れて。


 ぶつりと、消えた。

 ワーレンの手首から先と一緒に。


「あ、ア……ぁ」


 冷淡な澄まし顔を指し示そうとしたナイフの代わりに、手首の断面からぴゅうっと血が噴き出た。

 少女には届かない。



「ゼラが参りましたわ、良人(あなた)



  ◆   ◇   ◆


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