タイトル未定2025/12/29 21:54
四月の穏やかな昼下がり、大学のキャンパスから、大きなバックを抱えた流花が出て来た。
流花の隣には、流花と同じように大きなバックを抱えた、流花より少し背の低い女性が歩いていた。
大学の入学式を終えた流花は女性と、お昼ご飯何処で食べようかと言いながら歩いていた。
そんな時、流花が大きな声を上げた。
「マスター!」
「入学、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
マスターと流花の二人をみつめていた女性は、慌てて言った。
「あっ、私帰るね。後で、ライン送るね」
「ごめんね!」
女性は、足早に歩き出した。
遠ざかる女性の背中をみつめ、マスターは言った。
「突然来て、すみません」
「マスターが来るなんて、思ってもいなかったから、びっくりした」
「お昼、まだでしょう」
「お腹が、すきました」
「一緒に、食べに行きませんか?」
「……マスター私、冷たいお蕎麦が食べたいです」
「良いですね。行きましょう」
流花が、歩き出そうとした時だった。
マスターは何も言わず、流花が肩に掛けていた大きなバックを自分の肩へ移し替えた。
驚いた流花は、マスターを見上げた。
流花の大きなバックを肩に下げて、マスターは歩き出した。
流花は静かに微笑み、速歩きをした。
マスターに追いつくと、流花はマスターと肩を並べて歩いた。
繁華街の中にある蕎麦屋は、ピークを過ぎていた為テーブル席に座ることが出来た。
マスターと流花は、冷たいとろろ蕎麦をオーダーした。
「マスター今日は、飲まないんですね」
「まだ、昼間ですから」
「昼間でも、飲むと思っていました」
マスターと流花は、顔を見合わせて笑った。
「せっかく、友達と一緒にいたのに邪魔をしてすみません」
「びっくりしたけど、マスターが来てくれて嬉しいです」
「スーツ姿が見たくて、つい行ってしまいました」
流花は、白いブラウスに黒のジャケットに黒のパンツスタイルだった。
「いつもパンツスタイルですね。スカートは、嫌いですか?」
「出かける用事もないし、おしゃれをする余裕もないし」
「変なことを聞いて、すみません!」
マスターは、慌てて謝った。
そんなマスターに、流花は笑いながら言った。
「私、おしゃれじゃないんです。ジーパンの方が楽だし」
明るく笑う流花を、マスターはじっと見つめていた。
「スーツ姿が見たくて、つい行ってしまいました」
マスターは流花にそう言ったが、それは口実に過ぎなかった。
流花はマスターの言った言葉をそのまま受け取り、口実と言うことに全く気がついていなかった。
オーダーした冷たいとろろ蕎麦が、運ばれた。
「式場の中暑かったから、冷たくてさっぱりしたものが、食べたかったんです」
流花は夢中で、食べだした。
そんな流花を見つめてから、マスターも食べだした。
蕎麦屋を出たマスターと流花は繁華街の中を、肩を並べて歩いた。
蕎麦屋を出た時も、マスターは流花の大きなバックを、肩に下げて歩いた。
「さっき、一緒にいた方」
「式場で隣同士になり、それがきっかけで親しくなりました」
「初めて出来た、友達ですね」
「お互い不安だったから、話をしている内に、意気投合しました」
「友達が出来て、良かったです。あの……大門が」
「大門君が、どうしたの?」
「流花に、会いたがっています。忙しいとは思うけど、大門に会ってやってください」
「嬉しいな」
「大門に会えるのがですか?大門、喜びます」
「大門君に会えるのは嬉しいけど、マスターが私のことを名前で呼んでくれたのが、嬉しいです」
「ああ。人前では恥ずかしくて、呼べませんから」
マスターの腕に、流花は思わず自分の腕をそっとぶつけた。
そんな流花の初々しい行為に、マスターは嬉しそうに微笑んだ。
「大門が三人で、出かけたいと言っていました」
「そうなの!」
「ボクは……ボクは、流花と二人で出かけたいです。もちろん、嫌ならあきらめます」
「嫌じゃないです。嬉しいです。マスターと二人で、出かけたいです」
マスターは先ほど流花がやったように、自分の腕をそっと流花の腕にぶつけた。
流花は、声を上げて笑った。
やがて、地下鉄のホームに着いた。
「家まで、送ります」
「ここで、いいです。マスター今日は、ありがとうございました。お蕎麦、美味しかったです」
「今日は、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
言いながらマスターは、流花の頭をそっとなでた。




