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すべてを許せても、もう遅い  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ロバートの涙 その1

 ロバート達が乗せられたトラックは、ある場所に到着した。


 それはトラックごと搭乗したプライベートジェットで辿り着いた、ジスロラーデ国からは遠く離れた場所だった。




「どこなのよ、ここは! な、なんでこんな場所に!

 こんのぉ、離しなさいよ、ビアンルーシュ! 

 そこにいる男、あんたガハウェム人でしょ?

 自国の将軍に逆らうつもりなの! 

 私に逆らったら、国王が黙ってないわよ。

 助けなさい、早くっ!!!」


「………………」


 答える者がいないまま、ラウスとアンシーに捕縛されたロバートとマローニは、熱い陽射しの中をただ歩かされる。


 白い砂が足に絡み、歩みを邪魔する。

 ザクッ、ザクッと移動する音だけが、空間を支配していた。


 碧い海に囲まれた白い砂浜。

 無人のようで、人気のない島。


 空はどこまでも晴れ渡り、時々駆け抜ける風が心地よさを感じさせる。

 バカンスで来るなら最高だろう。



 そして着いた場所は、5階建ての白い大きな建物の前だった。


 (ロバート)は、何となくそれに見覚えがあった。


「ここは……あ! ビアンルーシュ、あんた、まさか……」



 驚愕の表情を浮かべたロバートは、アンシー(ビアンルーシュ)の顔をまじまじと見た。

 

「やっと気付いたね。そうよ、ここは私の故郷。

 ロバートはもう知ってるわよね?」


 プライベートジェットで着いた先は、ビアンルーシュの島国ダッハトリニ。

 ロバートと科学者と軍人が、ビアンルーシュ達を人魚に変えた場所だった。


 愛する夫も生まれたばかりの娘も、大事な島民達も、たくさんの命が奪われた忌まわしい記憶の在処。



 あの当時、かなり破壊されたはずだった建物は修復され、外壁も白いペンキで塗り直されていた。

 まるで新築のように真新しく。



 そこでマローニだけ縄が外され、拘束が解かれた。


「あんた、私達をどうするつもり? 走って逃げさせて、後ろから銃で撃つ気? 弄ぶくらいならさっさと殺せば良いじゃない! くそ女が」


 威勢の良いのは言葉だけで、彼の手足は震えていた。

 守ってくれる者がいない状態で、さすがに抵抗は諦めたようだが、これからのことを考えて恐怖しているのだろう。


 マローニが先に殺されると思って、思わず声を出したところか?



「まさか……。殺すのなら、ここまで運ばない。

 それなら、あの国でとっくにトドメはさせたからね。


 この場所が必要だから、運んで来たのよ」



 ロバートの問いに、アンシーは怒りも憎しみもないように、淡々と答えた。



「じゃあなんで、マローニの縄を解いたのよ?

 まさか私達を、この場所に置き去りにする気?

 無人島でノタレ死ぬように……」


「………………」



 アンシーは答えない。

 その代わりに言葉を発したのは、マローニだった。



「もう終わりだよ、先輩。私も貴方も償う時が来たのよ。

 私達はせめて役立つデータを残して、人の役に立とう」


 いつも勝ち気な彼女から、信じられない言葉が弱々しく語られた。


 それを見て、信じられないという表情で彼女を見るロバート。


「まさか、裏切ってたの? どうしてよ、信じてたのに……。マローニ!!!」


「ロゼフは平和を願っていたわ。それなのに、私も先輩も逆に人を傷つけ続けた。

 だからあっさり彼に会いに行きたいなんて、我が儘は言えないわ。

 私達はすぐに死んで終わりでは済まされないことを、数えきれないほどしてきたのだから。


 私は私の実験を、先輩は先輩の実験を自らに施してデータを取りましょう。

 長寿と不老不死の研究は、これから生きる人々の病気の治療にきっと役立つと思うから」



 ロバートはそれを聞いて、目を瞠った。

「あんた、馬鹿なのマローニ。どうなるか解らないのよ。

 体の変化や肉体への苦痛、今まで誰も経験したことがないのよ……。恐くないの? わ、私は恐ろしいわ……嫌、いやよおぉ」 


 味方であるマローニの言葉に、想像しただけで激昂し嗚咽するロバート。

 既に逆らう気力は失われ、絶望を目に宿している。


 

 俯いて泣いているロバートが自殺を図らぬように、マローニはポケットに隠していた麻酔薬を彼に注射した。


「イタッ、や、何よ、これ? 酷い、わ……」



 一瞬で意識をなくしたロバートは、ラウスに担ぎ上げられて白い建物を潜り、4階まで運ばれて行く。


 かつてそこは、ビアンルーシュ達が実験を受けた場所だった。



 建物内にはラウスの手配した軍人達と、ウルツァイトの育てて来た医療関係者が集められていた。

 全員が人魚被害にあった者達か、その関係者だった。


 マローニはともかく、ロバートには強い憎しみがあった。けれどその気持ちを押し込めて見届けられる意志を、アンシーに認められた者達だった。




「アンシーさん。先輩と私の実験資料は持って来て下さったんですよね。ではすぐに着手していきます。

 まずは先輩から開始します」


「よろしくね、マローニ。……でも貴女まで実験体にならなくても良いのよ。

 他にも償い方はあるわ」



 アンシーはウルツァイトから、ロバートとマローニの罪を調査して貰っていた。

 ロバートは論外だが、彼女が実験体にしたのは、死刑囚や極悪人などの瑕疵が大きい者達が殆どだった。

 確かに非道な実験だが、彼女の年齢を加味すれば、大人の責任が強いと思えたのだ。


 けれど、彼女は首を横に振る。

「理解した上で行いましたから、逃げることはできません」


 今は何を言っても無駄だと判断思ったアンシーは、ロバートの状態を見て判断して貰おうと思った。


「解った。でも判断するのは今でなくて良いから」



 

 今でも薄れることのない、辛く悲しい場所だ。

 でも…………。

 あの時とは違い、アンシーには味方が増えた。

 信じられる者もできたのだ。



 無念の気持ちを晴らす為に、憎しみの対象であるロバートも連れてきた。


 どうなるかは解らないが、少しでも慰みにはなると信じたい。



 憎しみからは何も生まれないと言うが、あの苦しい思いは今も鮮明だ。

 苦しんで亡くなった者も、復讐を誓って絶望の海に泳ぎ出したあの日のことも。


 ロバートのことはアンシー、いやビアンルーシュのケジメでもあるのだ。



 これから生きていく為の、儀式のような…………。








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