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11-2:小田原豊:プレイヤーからの要望

 雄二は病気のステージ進行を引き摺らずにバリバリと仕事を始めた。

 ……いや、振り切るように、と言った方が正解かも知れない。


「トップグループは“山岳”を攻略中か……想定よりも少し早い、か?」

「誤差の範囲だと思うが……」

「いや、ゲームクリアを遅らせる手を打つべきだな」


 “プレイヤー枠”の『エクスプローラーズ』攻略状況を確認した雄二はすぐにそう断じていた。Kantanの加速実験は『加速性能と安全性を確認するための実験』と表向きは謳われているが、実態は『時間加速された仮想世界を作り出すために実験の体裁を採った』に過ぎない。

 出資者ともなっている“探究者枠”の人々こそが主役であり、ゲームを攻略しているプレイヤー達は実験の体裁を整えるための人数合わせでしかない。その人数を集めるために“ゲームクリア人数に応じて加速倍率を下げる”という条件を設定しているが、当然の事、早々にクリアされては困る事になる。


 現時点での攻略状況は確かに想定よりも少し早い。

 でも中ボスや大ボスが守護する五階層毎を区切りにするなら想定内に収まっている。階層単位で一つ二つ先行されても誤差の範囲だ。それを許せないのは……やはり病気のステージ進行のせいだろうか。

 Kantanの仮想世界でなら雄二は病苦から解放される。

 プレイヤーの攻略状況は、病苦に苛まれる現実世界への帰還までを示す砂時計のようなもの。できる事なら落ちる砂を堰き止めたいとさえ思っているだろう。


 とは言え、だ。

 現状でもゲームクリアを遅らせるための様々な措置が採られている。

 攻略済み階層をスキップするためのポータル機能は停止しているし、食事と睡眠に関してはペナルティを導入して長時間の連続攻略を不可能にしている。“外の街”のVR店舗を充実させているのはゲーム内通貨を消費させる目的もある。そしてなにより痛覚再現だ。痛みを感じる状況では被弾覚悟の強引な戦法は採り難い。特に痛覚再現下の死に戻りは“死の感覚の再現”とも言われ、一度経験すれば誰でも二度目は忌避するだろう。

 痛みを極端に嫌う癖に“死に憶え”なんてプレイスタイルで死に戻りを繰り返している城太郎君は極めて特殊な例で、極力戦闘を避けて生産職プレイに移行したプレイヤーの方がまだしもまっとうなのだ。


 これら攻略遅延策は実験以前の段階で散々に議論した末に捻り出されたものだ。

 この上でさらに、となると俄かには思いつかない。

 それは雄二も同様らしく、「それはおいおい考えるとしよう」と先送りにした。


「先にプレイヤーからの要望を見てみるか」

「それはこっちに纏めてある」


 テストプレイを繰り返して完全を期しても、どこかに不備や不足はあるものだ。特に不特定多数のプレイヤーが一つの世界に集まるMMOでは、大人数であるが故の問題も起こり得る。それは少人数で行うテストプレイではどうしても潰せず、サービスを開始してから“プレイヤーの要望”として運営に寄せられ、初めて発覚するケースが多い。現実世界で一般公開されている『エクスプローラーズ2ndステージ』にも、これから先数多くの“プレイヤーの要望”がある筈だ。


 ところでここで動いているのも実験用の特殊仕様を除けば同じ『エクスプローラーズ』だ。そして既に“山岳”まで攻略が進んでいる。こちらで“プレイヤーの要望”を集めて一般公開バージョンにフィードバックすれば、それは先取りして問題点を潰していける事になる。ユーザー満足度の上昇に大いに役立つ事だろう。


 と言う訳で“プレイヤー枠”からの要望は広く受け付けていた。

 細かなところは副主任を務める僕の権限で対応しているのだが、ゲーム運営に関しては最高権限を有する雄二の裁可が必要となる大きな案件は保留していたのだ。それらを集計したリストを眺める雄二の眉がピクピクと動く。


 ……まあ、そりゃそうだろう。


 複数のプレイヤーから同様の要望が寄せられることもある。リストは件数の多い順に並んでいて、つまり上にあるものほど強く望まれている事になる。そして上から順に見ていけば、


『痛覚再現率を下げて欲しい・痛覚再現を撤廃して欲しい』

『食事と睡眠に関する制限を緩和して欲しい』

『攻略済みの階層をスキップできるようにポータル機能を復活させてほしい』


 と、こちらが攻略遅延策として追加した特殊仕様を緩和・撤廃してくれと求める項目がズラリと並んでいるのである。攻略速度をもっと遅らせたいと言った直後にこれでは眉がピクつくのも当然だ。


 リストの中ほどには『プレイ動画の撮影機能を追加して欲しい』とか『ボス戦の実況配信機能が欲しい』とかもある。こうした機能を備えているゲームは珍しくもない。ゲーム外の投稿サイトに公開するか、ゲーム内の機能の一環として公開するか、どちらもできないゲームを探す方が難しいとさえ言えた。実際、一般公開されている『エクスプローラーズ』であれば、接続用端末側の機能を使ってプレイ動画を作成できる。

 しかしこうした動画は城太郎君がプレイスタイルの参考とした縛りプレイ動画のように、練習を重ねた末の“魅せるプレイ”を多くの人に見て貰って自己顕示欲を満たすためのもの。プレイヤーが千人しかおらず、しかも自分のパーティーメンバーと連盟員以外は賞金レースの競争相手であるここでそれは無い。

 あるとすれば、それは城太郎君の“死に憶え”と同じ、ボス攻略の研究のためだ。彼が死に戻りを繰り返しながらボスの挙動を憶えている代わりに、撮影した動画を繰り返して見たり、連盟したパーティー同士でお互いのボス戦の様子を共有して試行回数を減らそうというのだろう。


「特殊仕様に関する部分は無視で構わないな」


 現実帰還後の不都合を最小限に抑えるため、という建前のみが伝えられているので、こうして要望として緩和を求める声も上がるのだろうが、実験参加の要綱にも盛り込まれているので取り合う必要は無い。


「この辺りは悩ましいな……」


 しかしポータル停止はプレイヤー保護の建前が通用しないし、動画配信機能などもある意味真っ当な要望なので、攻略遅延を積極的に行っている裏の事情を明かせない以上は無碍にもできない部分がある。


「ふうむ……ん? んん!?」


 そんな具合にリストを読み進めた雄二は最後の項目に目を釘付けにされていた。


 ……まあ、そりゃそうだろう。


 再びそう思う。


 他の要望はどれも複数人から寄せられているため、こちらで最大公約数的な文面に纏めているのに、それだけは要望したのがただ一人であるため原文のままになっている。


『街だけでなく、ゲームの中の痛覚再現率も100パーセントにして欲しいです』


 痛覚再現の緩和や撤廃を望む圧倒的多数の要望とは真逆の、ただ一人が要望した痛覚再現率100パーセント。あまりにも異質である。

 そもそもプレイヤーから上がる要望というものは、より快適にプレイするためのものだ。不便が解消されてスムーズにプレイできるようになれば攻略が加速する結果となり、それ故に僕達は容易に受け入れられない。そんな要望ばかりが並ぶリストの最後に、こちらの遅延策をさらに強化する方向の要望が燦然と輝いていた。


「……なあ、豊、この、最後のこれ」

「ああ」

「この要望を出してきたのは……真行寺君か?」

「他にいるわけないだろう」

「だよなあ」


 痛覚再現100パーセント。

 この要望を出してきたのは自ら痛みを求める特殊性癖の持ち主、真行寺真理恵。

 極端に痛みを嫌う城太郎君とパーティーを組んでいる女性プレイヤーだった。

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