8-8:洞窟の終着点
床や壁をカツンカツンと槍で叩きながら進み、グニュっとした感触が返ってきたら思い切り突き刺す。途端にグネグネと蠢き蛸が擬態を解く。蛸の戦闘態勢が整うまではボーナスタイムだ。槍は突き刺したままにして手放し、片手剣に持ち替えて無抵抗な蛸を斬りまくる。
その後は普通の戦闘になるけれど、最初に削れるだけ削っているから苦戦という程のものにはならない。勝利後、蛸が光の粒子に変じて消え去った後に落ちている槍を回収すれば終了だ。
二回目からは槍を『噴流貝の細巻貝』の穂先の物に変えた。
意図的に武器を手放すという行為が“投棄”として判定され、槍を失う結果になるのではないか? そんな心配から失ってもあまり痛くないベース槍を使ったのは杞憂だったのだ。
まあ、投擲武器なんかは毎度毎度“意図的に手放し”ている訳で、その都度消失していたらやってられないだろう。良く考えれば回収できて当たり前だった。
未強化のベース武器と現時点での最強強化では攻撃力が段違いだ。
初撃の攻撃力が上がればそれだけ後が楽になった。
もちろんこちらもノーダメージとはいかないのだが、死にさえしなければどうということもない。多少ゴリ押し気味になりつつ先を急ぎ、やがて前方に洞窟の終着点らしき場所が見えてきた。
そこはおおよそ円を描く形の広場になっており、天井が完全に抜けていて遮る物なく陽光が降り注いでいる。天井崩落時に土や砂も一緒に落ちたのだろう。広場の奥の方、僅かに高くなっている所には丈の低い草が緑に茂っている部分も見受けられる。
洞窟を通じて海と繋がり、岩場や砂浜、草が生えた陸地などもある。周囲を切り立った崖に囲まれているのが幻想的な箱庭のような印象を強めていた。薄暗い洞窟を抜けてここに辿りつけば感動のあまり立ち尽くしてしまいそうな絶景なのだが、俺の意識の中では感動する暇も無く一瞬にして片隅に追いやられていた。
何故ならば。
そんな美しい円形広場の真ん中、ちょうど海と陸の境目になる浅い潮溜まりのあたりで、今まさに真理恵さんが擬岩蛸と戦闘中なのである。
真理恵さんの“戦闘”がどんなものかは……今更言うまでもないよな?
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そもそも、どうして渡海に際してパーティーを組まなかったのか?
露払いをするだけならパーティーを組む必要が無いという単純明快な理由がもちろんあるのだが、そうではない、真理恵さんならではの理由があるのではないかと俺は踏んでいた。
俺と真理恵さんがパーティーを組む条件の一つに、組んでいる間は真面目にプレイするというのがある。真理恵さん側から報酬が提示されてからは対等な契約関係みたいになっていて俺が一方的に条件を付けられる立場ではなくなっているのだが、これまで不真面目なプレイをする余裕の無いボス戦でしかパーティーを組んでいなかったから改めて協議する必要も無く、俺は明確に撤回していないし、真理恵さんからも拒絶されていない。つまりこの条件は曖昧ながらも未だに有効になっていて、パーティーを組んだなら真理恵さんは真面目にプレイしなければならなかった。
それはこの島を目指していた真理恵さんには不都合だったに違いない。
そもそも真理恵さんはゲームクリアを目指しておらず、己の被虐欲求を満たすためにエクスプローラーズをプレイしている。そんな彼女が次の階層への扉からも離れた辺鄙な小島を目指す理由を推し量れば、そこに屍食花以来のお気に入りモンスターが居るのだろうと容易に想像できた。
パーティーを組んで海を渡れば、上陸後も一緒に行動しようと俺が言い出すかも知れない。しかし、それではお気に入りモンスターと普通に戦闘しなければならず、小島を訪れる意味が失われてしまう。だから機先を制して「パーティーを組まずに」と宣言したのだろう。
だからこそ俺も上陸後の別行動を当り前のように受け入れた。
そんなに大きくない島だ。普通に探索していれば、一旦別れた相手と“偶然”再会することもあるだろう。島の探索は可及的速やかに終わらせたし、ここまで不退転の決意で洞窟を抜けてきたが……ここで真理恵さんを発見したのはあくまでも“偶然”。
必然?
いやいや、別パーティーで別々に行動していたのだからその後の遭遇は偶然でしか有り得ないじゃないか。誰が何と言おうと偶然ったら偶然なのだ。
そして他のパーティーが戦闘中のモンスターに横から手を出すのは重大なマナー違反となる。俺としては洞窟の終着点たる円形広場の探索を行いたいのだが、他のパーティーが戦闘中の場には踏み込めない。ここはきちんとマナーを守って、戦闘が終わるまで大人しく待っているべきだろう。否、待っていなければならない。
戦闘終了後すぐに探索を再開できるように戦闘の様子を見守るのも、変に目立って先方のパーティーの意識を散らさないように岩陰にこっそりと隠れるのも、誰に非難される事も無いゲーマーとして当たり前の行動なのである。
理論武装は完璧だ。
と言う訳で、真理恵さんと擬岩蛸の戦闘をつぶさに観察しよう。
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俺が洞窟で戦った時は足四本を使った変幻自在な打撃を繰り出していたが、どうやら擬岩蛸はプレイヤーとの距離によって攻撃方法を変えるらしい。打撃戦距離より近くなると足を巻き付けての拘束と締め付けを使用するようで、今まさに真理恵さんがその攻撃を受けている。
恐らく顔に巻き付かれて口と鼻が塞がれれば窒息もあるのだろう。真理恵さんは顔だけは守るように両腕を上げてガードしている。無呼吸で耐えられる時間は『潜水』レベルに依存するのだろうか? だとしても最初から水着で泳いでいた真理恵さんは『潜水』スキルが育っていないだろうし、ああしてガードした方が確実だろう。
顔面をガッチリと守っている反面、体の方は無防備だ。
掛け値なしの無防備。
例によって防具を外した“裸”状態なのだから。
いや待て、あれ本当に裸じゃないか?
ゲーム的な“裸”じゃなく普通の意味で。
……。
……。
……あ、違った。
なんてことのない水着写真でも水着の部分だけを隠すと全裸に見える水玉コラという古い技法がある。あれと同じように蛸の足が水着を隠していて裸に見えただけで、アルティメットビキニはちゃんと着用していた。セーフだ。いくら真理恵さんでも公共の場で全裸になるほど非常識ではなかったようで一安心。
と言うか、だ。
真理恵さんのアルティメットビキニはもともと“肌色じゃない部分”しか隠していないような極小面積の代物で、その水着が隠れているという事は、擬岩蛸の足はかなり際どい部分にも容赦なく這い回っている訳だ。
うーん、これはもう触手プレイだろ。
エクスプローラーズって全年齢対象だろうに。こんなにエロくて良いんだろうか。防具を外した上に破廉恥極まる水着を着て、しかも自分から捕まりにいくような変態はそうそういないだろうから大丈夫なのか? ちょっと心配になる。
時折微かにキュポ音も聞こえる。
拘束中も吸着はあるのか……。
素肌の部分にやられると結構痛い吸着も真理恵さんにとっては良い刺激なのだろう。キュポッっと鳴る度にビクビクと体を震わせている。そして吸着があることでバリエーションが広がる。むにゅっと押し潰されていたおっぱいが次の瞬間には吸着で引っ張り上げられ、しかし吸着時間は短いからすぐに解放されてぷるるんと揺れ戻る。おっぱいの柔らかさを余すところなく表現するこの攻撃、締め上げる一方だった屍食花には不可能だ。
敢えて言おう。
とてもエロい。
マジこれ全年齢対象ゲームの中の光景なのか?




