5-9:おっぱいパーティー
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人から人へ病気を移し替えるなんてのは不可能事であるが、もしも可能であれば、との考えが頭を過る。誰かを救う為に誰かを犠牲にするというのは普通に考えれば倫理的に許されない。でも真理恵さんならあの病気ですら嬉々として受け入れるのではないか? あの病気は肉体の損傷無しに痛みだけを発生させるから、真理恵さんは死傷を心配せずに痛みを受けられる。双方得するwin-winな移し替えになる……と思ったが駄目か。真理恵さんがあの病気になったら常時発情状態になって日常生活もままならなくなりそうだ。それでは別の意味で人生が終了してしまう。
「この時間加速実験は最長で二十年になるそうです。二十年間満ち足りた生活を送って四十歳を過ぎた未来の私の精神であれば、現実に戻っても欲求に負けて身を滅ぼすことはないと思うのです」
ままならなさに内心嘆息している俺に重ねて訴える真理恵さんの言葉にハッとさせられた。“未来”と真理恵さんは言った。実験時間は八時間。未来と言うにはささやか過ぎる時間経過だが……そうか、実験が最長だった場合、俺も主観的には四十歳を過ぎるのか。
四十歳を過ぎた未来の俺か……今まで考えた事も無かった。
そういえば豊さんも「この実験は二十年分の人生を追加するようなものだ。その時間を有効に使ってもらいたい」と言っていたな。そう考えると、ゲームそっちのけな真理恵さんはプレイヤー枠ではなく探究者枠の方が相応しいような気がする。
「真理恵さんの事情は判った」
「では!?」
「判ったけど……でもなぁ……」
それとこれとは話が別、と言うべきか。
俺は賞金レースを諦めているだけで、ゲームそのものは普通に楽しんでいる。そして、“真面目にプレイしてこそゲームを楽しめる派”の俺としては、真理恵さんとパーティーを組んで上手くいくとは思えなかった。雑魚戦にいちいち時間をかけていられないし、攻略法を思案している横で淫らな嬌声など上げられたら堪らない。今日見た痴態の記憶は今夜にでも有効活用させていただく所存であるが、それとこれとも話は別なのだ。第一、ああいうのは通常見られないからこそいざ見られた際の興奮が大きいのであって、戦闘の度にやられたら逆に食傷するだけだ。
とは言え、ここまで事情を聞いた上で断ったら、それは“欲求不満のまま現実世界に戻っての自滅END”を暗に容認することになってしまう。実際にそうなるか否かに関わらず、見捨てたという負い目を抱え続けるのは間違いなく負担になるだろう。『特殊性癖の女性、行為の行き過ぎが原因で死亡』なんてニュースがいつ流れてくるかと怯える毎日なんて想像もしたくない。
で、あれば……。
「真理恵さん、パーティーを組みたいってのは第二十階層のボスだけの話じゃなくて、その先も見越しているんだよね?」
「そうですね。五階毎にいるボスを越えられなければ行き詰ってしまいますので」
「なら、条件付きで力を貸すよ」
「条件、ですか?」
真理恵さんが期待と不安が混じったような顔になる。
「俺と真理恵さんじゃあプレイスタイルが違い過ぎて常時パーティーを組むのは無理だと思う。だからボス戦だけの臨時パーティーにして間の四階層は別々に攻略しよう。真理恵さんだって俺の目があったら趣味に没頭できないだろ?」
「……見られながらというのもそれはそれで」
「ボス攻略のタイミングは俺が決めるよ? その時はお気に入りのモンスターがいたとしても切り上げてもらう。俺はマップを隈なく回るから結構時間がかかる。真理恵さんもそのエリアのモンスターを十分堪能できるんじゃないかな」
「あ、あれ? 無反応ですか?」
「それと、パーティーを組んでいる間だけは趣味を優先せず真面目にゲームをプレイして欲しい。『協力してボスを倒そう』というなら力を貸すけど、一方的に寄生するつもりならお断りだ。言うまでも無く、可能な限り装備を充実させるとか消耗品を準備するとかも“真面目にプレイ”に入るからね?」
「無視ですか……こういうぞんざいな扱いも良い……」
「変な合いの手を入れないでくれないかな。それでどうだい? こういう条件で良ければボス攻略に力を貸すよ?」
「あ、はい。先に進めるのであれば構わないのですが……」
と言いつつ、真理恵さんが浮かべる表情は“期待と不安”から“不安と不満”に変わっていた。何故に?
「あの、条件というのはそれだけなのでしょうか?」
「まあ、実際にやってみて細かい取り決めを追加するかもしれないけど、今思い付くのはこんなところだね」
「細かいのではなくて……協力する代わりに肉奴隷になれと言われたら、切羽詰まっている私は拒否できませんよ?」
「に、肉奴隷!? 無い! 無いよ、そんな条件!」
「完全なる拒絶……はぁ、自信を失くしてしまいます。それなりに男性の劣情を煽る容姿と体だと思っていたのですが……ノブさん達に続いて城太郎さんも……」
「ノブさん?」
「前のパーティーの方です。私の要望を叶えてくれれば引き換えに肉奴隷になりますと提案したのですが、今の城太郎さんと同じような勢いで断られました」
「そんな提案をあちこちでしてるのか」
「その淫売を見るような目もまた……ええ、先ほど申し上げた通り、この仮想世界では欲望を満たすことを優先しようと決めていますので、そういう体験も良いのではないかと思っています。仮想世界で何をしてもされても現実の体は清いままですから」
「え? 清いの?」
「清いですよ?」
清いのか……。
かなり極まった感じの真理恵さんだから現実のほうでも相当な経験を積んでいるのだろうと想像していただけにかなり意外だ。意外だけど、「だからか」と思いもする。現実で経験していないからいきなり肉奴隷になりますなんて打ち返しにくい剛速球を投げるのだ。
肉奴隷。
正直言えば魅力的な言葉だ。真理恵さんみたいな清楚系の女性がどろどろのぐっちょんぐっちょんになる様を想像すればムスコも元気になろうというもの。しかしながら、それはAVやゲーム、マンガなんかの創作物として見るならば、だ。自分が当事者になるなんて想定外。女性と普通に付き合ったことも無いのに、いきなり肉奴隷なんて言われてもどう対応して良いのか全く判りません。
偏見かも知れないが敢えて言うと、この実験に参加しているようなガチゲーマーはだいたい俺と似たような感じなんじゃないだろうか? 引き籠りニートとまではいかなくても、現実の恋愛よりもゲームを優先しているような――優先せざるを得ないのかも知れないが――そういう人種だ。プレイヤー同士としてパーティーを組むのは問題無くても、奴隷とご主人様なんて関係を上手い具合に維持するのは相当にハードルが高い。高過ぎる。
真理恵さんにはその辺が理解できていないのだ。
「だから、肉奴隷とか言うのは止めてくれ」
「……想像以上にヘタレということですか。いえ、この場合は想像以下?」
「聞こえてるぞ」
「失礼しました。ですが、一人でフェンリルを倒した城太郎さんは恐らくこの先も一人で攻略できるのでしょう? 城太郎さんに協力して頂くのは、私が一方的に善意に甘える形になってしまいます」
「なにが不満なんだ?」
「不満なのではなく、私は、自分が誰からも無条件に無制限の善意を向けられるような人間ではないと知っているだけです」
……不安のほうだったか。
確かに、善意からなる関係は善意が尽きれば解消される。そうならないように、対価を提示して俺側のメリットを生み出し、利害関係に裏付けられた確固たる協力体制を築きたい、と。……この場合は利害関係じゃなくて肉体関係と言うべきか?
「それでも肉奴隷とか本当に無理だから」
「では……ボス攻略ごとに一晩お付き合いとか」
「え? 一晩お付き合い……って、それエッチなお付き合いだよね? そういうのは普通に付き合って段階を踏まないと……いきなりはちょっと……」
据え膳食わぬは男の恥なんて言葉もあるけれど、それを食えるのはある程度経験を積んだ男だけだ。引き籠りニートDTの俺には厳しい。
「あれも駄目これも駄目で私はどうしたら良いのですか。仮想世界で差し出せるのはこの体だけだというのに」
「逆ギレしないでくれよ……」
これは真理恵さんが安心を得るためであって、俺はそもそも対価を要求していない。逆ギレされても困る。困るのだが、ここは何か捻り出さないと真理恵さんが納得してくれないだろう。
差し出せるのは体だけ、というのはここが現実と離れた仮想世界だから、だけではない。例えば“外の街”で共通して使えるゲーム内通貨であれば対価としての価値はあるのだが、システム的に一方向の譲渡は禁じられている。素材アイテムや消耗品アイテムとの定められたレートでの取引でしか通貨の移動ができないから、“パーティーを組む”という行為に対する対価には使えない。
――体だけ、かぁ。
あの体が対価と意識すれば、やはり目に付くのは立派なおっぱい。
そう言えば織姫のおっぱいは柔らかかったな……。
でも時間が経って右手に残る感触の記憶も曖昧になってきている。
「じゃあ、ボスを攻略したらお……おっぱいを、揉ませてくれないか」
「はあ!?」
「あ、嫌ならいいんだ忘れてくれ」
「嫌では……と言うよりも、それだけで? 病的な目で私の体を舐め回すように見ていた割にバレー部男子中学生みたいなことを言いますね」
「バレー部?」
「なんでもありません。まあ城太郎さんがそれで良いと言うのなら。とは言え少々弱いような気もしますし、回数によって生揉みにグレードアップといった措置も必要でしょうか?」
「俺に訊かないでよ……」
「ではこちらで考えておきますね」
……こうして、俺は“真理恵さんのおっぱいを揉む権利”を手に入れた。




