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5-6:衝撃の事実

本日6、12、18、20、22時に5-6から5-10まで投稿いたします。

1/5

 さて、どうしたものか。

 ぼっちを脱出したいのは今も変わっていないし、パーティーを組めばゲーム攻略の助けになるのも間違いない。真理恵さんのプレイヤースキルがどの程度であっても“いないよりマシ”である筈だ。


 しかしながら不安もある。


 正直な話、織姫だって俺の手に余る相手だ。あの奇天烈破廉恥な言動が半分演技だと承知していて、なおかつ短時間の接触だからこそ「変わった女だな」で済んでいるが、四六時中一緒にいるとなったら例え半分演技だと承知していてもやっぱり「こんな女は御免だ」となるだろう。

 そして真理恵さんは織姫とは別のベクトルで強烈な個性をお持ちでいらっしゃる。

 パーティーを組めば日中のほとんどの時間を共に過ごすことになる訳で、それが合わない相手とだったらゲームを楽しむどころじゃなくなってしまう。軽々に判断せず、よくよく考えた方が良いだろう。


「悪いけどパーティーの件は即答できない。どこかで落ち着いて話をしたいところだけど……」

「でしたら二十階への扉がこの先にあります。間の安全地帯でどうでしょうか?」


 徘徊型のモンスターとの遭遇や屍食花のリポップがあるこの場での長話は危険だ。落ち着ける場所へ移動したい俺に真理恵さんが提案してくるが、階層間にある石造りの小部屋は落ち着いて話の出来る場所だろうか? それよりも、扉の場所を知っているなら小部屋にある転送装置で森の砦に戻った方が良い。


「俺の方は別に攻略を急いでる訳じゃないし、砦に戻っても構わないよ?」

「いえ、できれば私の窮状を理解していただくために、そのまま二十階のボスを見て頂けたら、と」

「……それ、そのままボスを俺に倒させようとしてないか?」


 パーティーを組みたいと言う真理恵さんの目的からして、俺を第二十階層のボス部屋に連れ込んでなし崩しに戦闘に持ち込んでしまうのもあるのじゃないか。そんな疑念を抱く俺に真理恵さんは「それが一番良いのですけれど」と困ったような顔になる。


「もしも……城太郎さんが初見で勝てる自信があるのなら是非お願いしたいのですが……如何でしょうか?」

「いや無理だと思うよ。何も準備せずに今からいきなり挑戦して勝てるとは思えない」

「でしたら私が一人で挑みますので、城太郎さんは観戦していて下さい」

「ん? 観戦?」

「私がスキルで敵の注意を引き付ければ、城太郎さんは狙われません。扉の傍で見ていていただいて、頃合いをみて“撤退”して下されば」

「撤退って、できるのか?」

「御存知ありませんでしたか?」


 知りませんでした。

 俺はボス戦が始まったら勝つか死ぬかしないとボス部屋を出られないのだと思っていたのだが、真理恵さんが言うには途中での撤退は可能であるらしい。その辺りを詳しく聞けば話が長くなる。取り敢えずということで階層間の小部屋までいくことになった。


 *********************************


 第十九階層の出口となる扉へは真理恵さんの迷い無い先導で簡単に到達できた。場所や地形だけでなく、どこを通るとモンスターに出会うのかも熟知していなければこうはいかない。遊び相手になるモンスターの所在は網羅しているという事だろうか。

 そんな小さな疑念を抱きつつ扉を潜り、階層間の小部屋に入った。これでモンスターの襲撃を心配せずに話ができる。

 まずはボス戦での“撤退”関係から訊いてみた。

 真理恵さんによると、ボス部屋の扉は挑戦するパーティーが中に入った時点で閉ざされ、戦闘中は外からでは開けられず他のパーティーの増援や乱入は不可能。しかし中からなら扉を開いて出て来られる。もちろん一旦出てしまえば外からは扉を開けられないので再度の参戦はできず、一時的な退避ではなく完全な撤退となる。

 どうしてもボスに勝てないとなった場合に、死んでペナルティを受けること無く戦闘を終わらせるための仕様なのだろう。まあ、“どうしても勝てない”と判断するようならパーティーはピンチに陥っているのだろうし、そんな中で無事に扉まで逃げ戻れるのかとなると怪しい気もするが。誰かを殿という名の生贄にして他を逃がすとかだろうか? 被害を最小限に抑えられれば上等みたいな。


 で、“観戦”。

 真理恵さんは『大盾』に属するモンスターの注意を引き付けるスキル『挑発』を持っているそうだ。盾職タンクに付き物のヘイトを稼ぐスキルだ。真理恵さんが『挑発』を使ってボスモンスターのターゲットを取れば、俺は変に手を出さない限り狙われない。扉のすぐ近くに待機していれば安全に撤退もできるだろう。

 しかし……。


「一人じゃ勝てないから俺とパーティーを組みたいんだよな? それだと真理恵さんは死に戻る事になるけど、それは良いのか?」

「あまり死にたくないのですが、私も撤退するのは難しいです。今回は仕方ありません」

「覚悟はあるんだな」


 ボス戦の仕様が嘘で撤退なんてできず、俺を無理矢理戦闘に巻き込もうとしている……という線は無いと思う。いくら真理恵さんが美人でスタイルが良くても、俺は自分を騙した相手とパーティーを組むようなお人好しじゃない。負ければ死に戻りで森ステージからの脱出は叶わず、勝ったとしてもパーティーを組めなければ次のステージでやっぱり詰む。今後の事を考えればここで俺を騙すのはデメリットしかない。

 そうすると俺は安全な場所からボスを観察できるわけだ。

 プレイスタイルの中心に“死に憶え”を置いているにしても、俺だって好き好んでの死にたがりではなく、“観戦”によって死に憶えの回数を減らせるなら願ったり叶ったりである。そう考えればボス戦を見に行くのは二つ返事でOKしても良いところだけど……駄目だな、ちゃんと話を聞いてからにしよう。真理恵さんは俺とパーティーを組むためにしたくもない死に戻りを覚悟して観戦させようとしているのだから、少なくとも俺が“パーティーは組まない”と決めていたらアンフェアだ。話を聞いて真理恵さんとパーティーを組むのは無理となったら、惜しいけれど観戦の機会は見送ることにしよう。


「あの……ところで城太郎さんは何故今時分になってここにいるのでしょうか? 他のプレイヤーの皆さんは全員先のステージに進んでしまった筈なのです」


 真理恵さんはそう言い、森ステージ素材で強化してある俺の装備を見て「先のステージから戻って来た訳でも無いようですし」と付け加える。


「俺は実験開始に遅刻してしまってね。ここは時間が加速されてるだろ? ほんのちょっとのつもりが一ヶ月の大遅刻になってしまって、誰ともパーティーが組めずにソロだったんだ。そのせいで草原ステージの攻略に時間がかかってしまって」

「ということは一人でフェンリルを倒してきたのですよね?」

「まあ、そうだね」

「あれを一人で……凄いです」


 おっと、真理恵さんの俺を見る目が期待に輝いているようだ。

 森ステージのボスを倒せずに相当切羽詰まっている様子だし、フェンリルをソロ討伐した俺を頼れる相手として再認識したのだろう。

 だが、それよりも今の真理恵さんの反応で判るのは、ここに一人でいる真理恵さんは一人ではフェンリルを倒せないだろうということだ。雑魚モンスとは言え第十九階層の屍食花三体と遊んでいられるステータスになっている今なら可能かも知れないが、少なくとも第十階層攻略時にはソロ討伐なんて思いもよらなかったのだろう。

 つまり、その当時は誰かとパーティーを組んでいたことになる。

 それなのに何故今は一人なのか?

 それはパーティーから離れたからに決まっている。

 自分から離れたのか、それとも追い出されたのか。

 そしてその理由は俺が彼女とのパーティー結成の可否を決断するための重要な判断材料になるだろう。


「俺としても、どうして真理恵さんが今頃こんなところにいるのか訊きたい。さっきの口振りだとフェンリル討伐までは誰かとパーティーを組んでいたんだろ?」

「はい」

「でも今は一人だ。その理由を知らないとパーティーを組むかどうか決められない」

「そう……ですよね。問題のある相手とはパーティーを組みたくないでしょうし……。でも先に言っておきます。問題は私にありました」

「……」


 自分に問題があると正直に告白したのは好感が持てる。

 無言のまま先を促すと真理恵さんは「ええと……」ともじもじし始めた。薄く頬を染めた恥じらいの表情でちらちらと俺を窺い見ている。

 可愛い。

 ……待て待て。真理恵さんの外見はこの際関係無い。なんなら俺の好みにかなり合致しているし、そんな真理恵さんがあんな顔で上目遣いになっていればぐらりと傾きそうになるが、断じて関係無いのだ。中身。そう、大切なのは中身だ。その中身が変態なのは既に判っている。ここに以前のパーティーから離脱する原因となった問題が加わるのだ。傾きを正してしっかりと聞かなくてはならない。


 そうして暫しの躊躇いの後真理恵さんの口から出たのは、


「実は私……Mなんです」


 という言葉だった。

 真理恵さんが「衝撃の事実を告白しました」という顔をしているけれど……。


 それは知ってた。

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