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5-5:おかしな女との出会い2

 これはもう他のプレイヤーが戦闘中のモンスターを横殴りするのはマナー違反なんて問題じゃなくなっている。俺が飛び出して屍食花を攻撃するのは、例えるなら俺がムスコと遊んでいる現場に知らない誰かが踏み込んで来て例の筒状の玩具を奪い取るような、そんな行為に相当するんじゃないだろうか?


 ……手は出さないでおこう。


 自分がそうされた場合を考えれば、ここは見て見ぬふりをしておくべきだろう。

 いや、見ぬふりをしながらバッチリと見ていよう。

 あの変態、美人だしスタイルも良い。織姫みたいな人目を惹くタイプではないものの、大和撫子系とでもいうのだろうか、落ち着いた感じの和風美人。胸は……俺の目測では織姫より一回り二回りサイズダウンした感じかな? しかし比較対象の織姫は身長が高い分で全体的にスケールが大きい。平均的な身長であの大きさなら問題無く巨乳のカテゴリーに分類されるだろう。

 そんな女性が昼日中から野外で変態的な自慰に耽っている現場に行き合うなんて機会、この先の人生で再び訪れることはあるまい。そもそも俺、自室から出ないからね。

 どんなに良く出来ていても所詮は作り物のAVとは違う臨場感もある。次にムスコと遊ぶ時のために、この情景をしっかりと脳裏に刻み込んでおこう。


「はあ……うぅん……ああん……」


 凝視。

 清聴。

 そして記憶に刻む。


 ……。

 …………。

 ………………あれ?


 なんかおかしくないか?

 どうしてこんなに長いんだ?


 俺が森の中で聞きつけたあの声が彼女の上げた最初の声だったとしても、あれから今まで相当の時間が過ぎていた。その間、彼女はひっきりなしに“素早い蔦”に打擲されている。“素早い蔦”の打撃が軽くて余り大きなダメージを与えるものでないのは承知しているが、それにしたって塵も積もればでHPゲージを削り続けている筈だ。それに全身を拘束する“力強い蔦”も締め付けの継続ダメージを発生させる。あの本数から常にとなればこちらも決して小さくないダメージになっていないとおかしい。

 それなのに、未だに彼女は死に戻っていない。


 どうなってる?


 エロの探究欲よりも疑問の方が大きくなってしまい、秘密を探ろうと凝視の目的が変わった。まあ、目的が変わっても見えるものは変わらない。変わらずエロい。しかし新たな展開があった。


「……ふう、そろそろ限界かな」


 これまでと違う気だるげな口調でそう言うと、無理な姿勢から身をくねらせてガチガチの拘束をあっというまに外してしまったのだ。巻き付いたばかりの蔦も外れたのは拘束時間を短縮させる負荷の大きさを示していて、そこからSTRの高さが窺える。


「駄目ですよ。残念ですがあなたたちはこれまでです」


 そして群がってくる蔦を適当にあしらいながらメニューを操作して片手剣を装備し、次々に屍食花を倒してしまう。剣の扱いは拙いながら、屍食花を倒す動作は躊躇いの無い慣れたものだった。

 なんだありゃ。

 あの状況が故意だったのはこれではっきりしたけど、脱しようとすればこんなに簡単にできちゃうのか。第十九階層に出現する屍食花三体を相手にして。


「はあ……やっぱり物足りないなぁ……っ!? ええっ!?」


 あ、まずい、目が合っちゃった。

 見て見ぬふりをするつもりだったのに。彼女のあまりの変わり様に呆気に取られて隠れるのを失念していた。


「あ……あの……!」


 目を見開いて口をパクパクしていた女性が発した声は明確に俺へと向けられている。ここには二人しかいないのだから当たり前だが。


「や、やあ」


 努めて爽やかに、さも偶然ですねという感じで挨拶した。

 挨拶は大切だな、うん。


「プレイヤーの方ですよね!? お願いします! 私とパーティーを組んでください!」

「え? いきなりそう言う話!?」


 マジかよ、凄いなこの人。

 状況的にさっきまでの痴態を俺が見ていたのは判っているだろうに、そこには一切触れずにパーティー勧誘してくるとか。

 もしも俺が心行くまでムスコと遊んだ直後に、その一部始終を見知らぬ女性に見られていたと知ったなら、羞恥のあまり崩れ落ちてそのまま穴を掘って埋まりたくなるだろうに。


「いきなりだろうとなんだろうとこの機会は見逃せません! もうここらには私以外のプレイヤーはいないと思っていたんです! あなたを逃がしてしまったら私はこの森から脱出できなくなってしまいます!」

「待って待って。パーティー組むかどうかはともかく逃げはしないよ。まずはちょっと落ち着いてくれないか?」

「あ……済みません、取り乱してしまって……」

「いや、良いよ、判ってくれれば」


 あまりグイグイ来られると対人スキルの低い俺として対応に困ってしまう。

 特に若い女性との関わりなんてここ最近は織姫と梓くらいだし、あの二人はかなり特殊な部類に入るだろうから“一般的な女性”との接点は皆無と言っても良い。

 ……ん? 昼日中から屋外で被虐趣味全開の自慰行為に耽るのは“一般的な女性”の振る舞いじゃないよなぁ。あれが一般的だったら街は大変なことになる。自室から出ない俺には関係無い事だけど。ともあれこの女性も特殊な部類に入るのは確実だろう。


「それでは自己紹介させて頂きますね。真行寺真理恵です。こういうゲームでは名字ではなく名前で呼ぶのが普通だそうですので真理恵と呼んでください」

「こ、これはご丁寧にどうも。でも見たところ同年代だし敬語はいらないよ?」

「私のこれは癖みたいなものなので気にしないで下さい。そちらは普段通りの口調でどうぞ」

「そうか? それならまあ。じゃあ、俺は小田原城太郎だ」

「城太郎さん、とお呼びしても?」

「構わないよ」

「では城太郎さん、改めてお願いします。私とパーティーを組んでいただけませんか?」

「仕切り直してもやっぱりそこからなのか」

「切羽詰まっていますので……」


 こうして落ち着いて話してみれば真行寺真理恵さんは極めて普通の女性に見える。

 ……いや、普通じゃないな。

 パッと見は平凡ながら良く見ると非常に整っているというタイプの美人で、一本芯が通ったような綺麗な立ち姿と相まって、どこぞの令嬢と言われても納得できる雰囲気を漂わせている。もしかしたら本当にそうなのかもしれないな。独り言は砕けた感じなのに他者に対しては相手が作り物のモンスターであっても敬語になるのは、それが自然と出るくらいに厳しく躾けられて育った証拠だ。そしてスタイルも先ほど見た通りかなり良い。

 このレベルの女性を普通として位置付けてしまうと、俺が男性としての普通より遥か下になってしまう。俺が普通、真理恵さんが普通以上。そういうことにしておこう。


「真理恵さん、パーティー云々の前に一応謝っておくよ。さっきは覗きみたいな真似をして悪かった」

「覗き、ですか?」


 真理恵さんが上品に首を傾げる。

 あれ? 判ってない?


「その……真理恵さんが屍食花と……いや、屍食花()遊んでいるのを……」

「ええ!? あれを見ていたのですか!?」

「ええ!? マジで判ってなかったの!?」

「パーティーを組めそうな方がいる、と思ったらそちらにばかり気が行ってしまって……そうですよね、偶然タイミング良く全部終わった瞬間に出会うなんてありませんよね……ああ! あんな姿を見られてしまうなんて……恥ずかしい!」


 真理恵さんは両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。

 あちゃー、これは藪蛇だったかな。

 あの状況で俺の覗き行為に頭が回らないなんて、切羽詰まってるって言うのも相当なのだろう。まあ今はそうでも後になれば絶対に思い至るだろうし、この場で謝っておいた方が良いだろう。


「本当にごめん。最初は救助が必要かと思ったんだけど、どうもそうじゃないようだったし実際そうだったし……なんというかその、目が離せなくなってしまって……んん?」


 状況の説明と共に謝罪を重ねようとした俺の耳に、真理恵さんが顔を覆った手の下でブツブツと呟いている内容が聞こえた。


「ああ、私の恥ずかしい姿を見られてしまった……城太郎さんはこの後『秘密をばらされたくなかったら俺の言う事を聞くんだな』と私を脅すに違いない。そうして私はどこかに監禁されてねっとりたっぷりと……それとも秘密を握られて逆らえない私をパーティーの処理係に……うへへ、それもありかも……城太郎さんのあの病的で舐め回すような視線……きっと私なんかが思いもよらないディープな嗜好の持ち主に違いない……」

「おい待て、聞こえてるぞ。誰が病的な視線のディープな嗜好の持ち主だ」


 おっぱいとかガン見しちゃったから“舐め回すような視線”は否定しきれないけど、それ以外は言いがかりも甚だしい。それにしても『うへへ』って……。やっぱり普通じゃない。以上とか以下とか位置付けの話ではなく、おかしいという意味で普通じゃあない。

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