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4-3:設定変更

 ひとまず痴漢だとかセクハラ野郎だとか罵られずに済んで良かった。

 とは言え、だ。触れてしまったのは出会い頭の事故みたいなものだとしても、その後三揉みしてしまったのは無意識ながらも俺の方の責任である。


「織姫、ごめんな」

「あらあら素直ね城太郎。そこは評価してあげる。でもね、私は許すといったのよ? それを引っ張るのは無粋というもの。止めておきなさい」

「お、おう。そうか」


 口から出した言葉には責任持つというのだろうか。きっぱりと言い切った織姫が男前で格好良い。見た目はまあ……エッチな緊縛姿のままなのだが。


「とりあえず姉ちゃんも梓も座れって。落ち着いて話もできない」


 清一郎の促しに素直に従って織姫と梓は元の席に収まったのだが……おい織姫、そのまま座るのか。縄はそのままで良いのか。


「姉ちゃん、縛りプレイってのは」

「おっとそこまでよ弟! もちろん縛りプレイの真の意味なんてこの私が知らない筈がないでしょう!? 知ってて乗ったに決まってるじゃない! 裸縛りだったら乗らなかったけどね!」

「それに乗られたらさすがに困る」

「え? いや待て。裸縛り、乗れば乗れるのか?」


 これも仮想世界におけるユーザー保護の一環として、プレイヤーは裸になれない。『裸』はあくまでも『装備無し』であり、衣服は着用したままとなる。服を装備扱いしているタイトルであれば脱ぐこともできる。どこまで脱げるかは様々だが、最低限、局部を隠す下着だけはどうあっても脱げないのが普通だ。

 そんな訳で俺もここに来てからパンツを穿きっぱなしで、二か月半もの間ムスコと対面していない。育児放棄状態である。食事はすれども排泄はしない仕様なので今のところ困った事はない。パンツを穿いたまま風呂に入るのは未だに慣れないが……水着着用を義務付けている温泉施設などもあるのを考えれば着衣入湯もアリと言えばアリなのだろう。

 と、俺のパンツはともかく、保護機能のために仮想世界では裸になれない。これが常識。しかし織姫の言い様ではなれてしまうように聞こえる。


「クークックックッ! 無知! 無知ね、城太郎! 裸になれるかですって!? なれるに決まっているじゃない! 全裸バッチコイよ! おっとぉ? 今私の裸を想像したでしょう!? イヤラシイ! イヤラシイわ城太郎! でも寛大な私は妄想くらいなら許してあげちゃう!」

「……」

「梓、姉ちゃんを黙らせてくれ」

「ん。織姫、あーん」

「ング!?」


 梓が絶妙なタイミングで織姫の口に唐揚げを放り込んだ。

 効果覿面、ピタリと織姫が口を閉ざす。不規則言動が目立つ織姫であるが、口の中に食べ物を入れたまま喋るような行儀の悪い真似は絶対にしない。その辺りは清一郎と梓も同様で、武道系の家で幼い頃から躾けられたからだと思う。


「んっく……いいかしら城太郎、無知なあなたにング!? もぐもぐ……無知なあなング!? ……もぐもぐ……ちょっと梓やめング!? もぐもぐ……待って次はそこの茄子を、そうそれング!?」


 縛られたままで抵抗できない織姫の口に淡々と食べ物を押し込み続ける梓がなんだか怖い。リクエストを叶えるくらいの優しさを示しているのがせめてもの救いか。


「城太郎が姉ちゃんのおっぱい揉めたのとか服脱げるのとかは設定を変えてるからなんだ」


 そして清一郎、安定のスルースキルを発揮して普通に話を続ける。

 俺は……いかん、俺は清一郎みたいにはスルーできない。織姫が身動ぎするたびに胸がふるふるとしてどうしても視線を奪われてしまう。そして織姫、俺がチラチラ見ずにいられないのを承知していて口をもぐもぐさせながらもフフンと笑う。

 自分の容姿とスタイルが男の目を引き付けるのだと確信した上での事で性質が悪い。


 ここは軽く“客観視”を入れよう。

 よし、冷静だ俺は。


「設定って変えられるのか」

「どこまで弄れるかは管理者次第で、それはそのサーバーの趣旨によって決まる感じだね。全年齢対応のゲームだと最大保護で固定。KOD仕様なら接触系は全解除、脱衣もありだな。脱衣した場合はモザイクかかるけど」

「KODはなんでそんなに緩いんだ?」

「実戦形式だからさ。接触禁止だと格闘系の選手が不利すぎる」

「殴る蹴るも接触か……でも全解除する必要はないんじゃないか?」

「いやいや、大ありだよ。判り易いところだと……レスリングのベアハッグとか柔道の横四方固めあたりか。どういう体勢になるか判るだろ?」

「ああ判る。なるほどなぁ」


 格闘技はあまり見ない俺でもマンガやアニメでそれらがどういう技かは知っていた。これは確かに判り易い。ベアハッグは相手の胴を両腕で締め上げつつ抱え上げる技で、双方の体格によっては相手の胸に顔を押し付けるような体勢になる。セクハラ対策の保護で接触が禁じられていた場合、女性選手相手にベアハッグは使えないだろう。横四方固めにいたっては“胸に顔”に加えて相手の股間に腕を通すから男女どちらに対しても成立しない技になってしまう。

 他にもそういう技はあるだろう。格闘系の選手は持ち技の一部を封じられてしまう訳で、これは確かに不利すぎる。


「それは判ったけど、脱衣は?」

「脱衣が無いと、今度は格闘系が有利になる」

「んん?」

「掴み技は服の有無で難易度が大きく変わる。これも柔道が良い例になるな。柔道は投げ技も絞め技も相手が服を着てるのが前提になってるのが多い。送り襟絞めなんて名前のとおり相手の服の襟で首を絞めるから、相手が服を着てなきゃ使えない技だ。だから服を脱ぐってのは柔道家対策として有効なんだぜ」

「ぜ、全裸で戦うのか……凄えな」

「へ? いや、さすがに対策で全裸になる奴はいないよ」

「そうなのか? モザイクって言うからてっきり」

「モザイクは……ちょっと極端になるけど、女性のブラジャーな?」

「お、おう、ブラジャー」

「あれ掴んで、それを支点に投げ技ってできると思う?」

「そりゃ無理だろ」

「うん。現実的に考えて無理だ。構造と強度的に脱げるか破けるかする。でも脱衣系の保護で“絶対に脱げない服”とか“絶対に破れない服”になってると、ブラジャーを掴んで投げるっていう不可能技が成立してしまうんだ」

「脱げるべき時には脱げて、破けるべき時には破けてこそ実戦的ってことなのか」


 こうして聞かされればKOD関連で保護が緩いのも納得だ。

 織姫が接触などの保護を外しているのも現実に即した状態で訓練や試合をする為なのだろう。時折差し込んでくる卑猥な言動のせいで誤解しそうになっていたが、いかがわしくも破廉恥な理由ではなかったようだ。


「ところで、城太郎。知らなかったってことは、城太郎自身はその辺の設定を変えてないんだよな?」

「そうだけど?」

「変えなくて良いのか?」

「俺は実戦形式とか関係無いし」

「あー……いや、変えた方が良いんじゃないかと思うんだけど……」

「は? なんで?」

「それはその……ちょっと言い難いな。とにかく設定画面を見てくれないか? それでも変える必要無しっていうならもう何も言わないからさ」


 清一郎は歯切れを悪くしながらも強く勧めてくる。

 そこまで言うからには何かあるのだろう。

 教えられるままにメニューを辿っていき、かなり深い階層にその設定画面はあった。表示されているユーザー保護項目は多岐にわたり、痛覚再現や疲労再現などの運営側からロックされているものもある。

 こっちで弄れる項目は……。


「こ、これは……! そうか、そういうことなのか……」


 何故に清一郎が設定変更を勧めてきたのかを俺は理解した。


「ありがとう。ありがとう、清一郎!」


 そして、理解すると同時に、清一郎に対する深い感謝の念が自然とお礼の言葉を口にさせていた。

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