4-2:縛りプレイ
「城太郎のフェンリル突破を祝して乾杯!」
「イエーイ!」
「いえーい」
「乾杯! これも清一郎たちの……主に清一郎のおかげだよ」
俺たちの中心で四つのビールジョッキが打ち合わされてガチンと音を立てる。
清一郎にフェンリル討伐の報告をしたら織姫と梓付きで祝勝会を開いてくれた。昨日の豊さんとのに続いて二日目だが、連日飲んでも大丈夫な仮想世界の有り難さが身に染みる。
豪快にジョッキを傾けている織姫は、なるほど先日清一郎が言っていたとおりジャージ姿である。そして思ったとおりにエロ格好良い。特にビールジョッキの角度が上がるにつれて胸を張るような姿勢になり、ジャージの柔軟素材を押し上げる胸の膨らみが主張を強くしていてかなりヤバい。
織姫とおそろいのジャージを着ている梓は……まあ、普通だな。普通にアスリート女子っぽくて可愛い感じだ。ジョッキも織姫と違って両手保持。んくっんくっ、と喉を鳴らしているのがなんだか小動物系な印象だ。
「はあ~やっぱり黄金水は美味しいわねぇ!」
「「んぐっ!?」」
「……」
一足早くジョッキを空けた織姫の一言で、危ねえ、もう少しで噴き出すところだった。確かにビールは黄金色の液体だけどさぁ……黄金水なんて言ったら別の物を想像しちゃうだろうが。「飲んでる最中の不意討ちは止めてくれ」って清一郎、不意討ちじゃなければ良いのか? ああ、また飲み始めた。じゃあ良いのか。梓は両手保持のままのジョッキと織姫の間で視線を数往復させた後に口をつけた。こっちも良いのか。
俺は……まあ、俺も良いか。ビールはビールだ。味が変わる訳じゃない。
うん、美味い。
でも次は黄金水は止めて違う酒にしよう。
そんな具合に初っ端こそ掻き回してきたものの、その後の織姫は比較的静かなものだった。俺が話すフェンリル討伐までの経緯に時折偉そうな口調で合いの手を入れてくる程度で、それすらも半分演技なのだと意識して聞いていれば十分好意的なのだと受け取れる。
しかし、織姫はやっぱり織姫だった。
フェンリルに何度も挑戦して死に憶え、先読みを駆使し、最後に勝利を掴み取った俺のプレイスタイルを説明する段になって事態が急展開した。
「縛りプレイ動画ってあるだろ? 俺、あれが好きで良く見てたんだけどさ。あ、縛りプレイって言ってもエッチなのじゃないぞ」
豊さんにしたのと同じように話をしようと、俺がそう言った途端に織姫が動いていた。実際には「縛りプレイ動画ってあ」辺りでガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、「あれが好きで良く見て」くらいで梓を抱え上げ、「エッチなのじゃないぞ」の時にはもう俺の視界から消えていた。消えた先はトイレの方向だが、まさか急に便意を催した訳でもあるまい。
「なんだありゃ」
「姉ちゃんが突飛な行動するのは珍しくもない。気にするだけ無駄だよ」
「達観してるなぁ……」
生まれてからずっと姉弟をやってれば悟りの境地に達するものなのだろうか。
取り敢えず清一郎にはちゃんと縛りプレイの意味は伝わっていたようで、「じゃあノーダメージまで狙うのか?」「いやそこまでは無理」、と普通に会話が継続していた。話の合間の喉湿しにジョッキを傾けていた時、俺の視界に織姫が戻って来て、
「ぶはっ!?」
今度こそ、俺は盛大にビールを噴き出していた。
仮想世界なのが幸いして飛散したビールは光の粒子となって消え去り惨事には至らなかったが……ある意味、織姫が惨事そのものだった。
「ほーらどうよ城太郎! あんたこういう縛りプレイが好きなんでしょ!? まったくそんな特殊性癖をこんなところでカミングアウトするなんて驚きだわ! それを私に聞かせて何を期待していたのかしらね!? これを期待していたのね!? 変態! 変態だわ! でも心優しい私はその期待に応えてあげる! さあ、存分に鑑賞なさい!」
暫く大人しかったのは嵐の前の静けさだったのか、怒涛の勢いで捲し立てる織姫。そんな彼女の上半身は縄でギチギチに縛り上げられている。胸の上下と真ん中を通る縄によって豊かな膨らみがジャージ越しにもはっきりと形が判るくらいに絞り出されている。
凄くエッチだ……。
「ま、待て! 俺が言った縛りプレイはそういうのじゃない!」
「うわー、姉ちゃんそれ凄くエロいな」
「清一郎!? お前なんでそんなに冷静なの!?」
「姉ちゃんならこれくらい、ってのはあるし。幸い他に客はいない。身内の恥を外に晒さず済んだだけでも良しとしないと」
清一郎はガラ空きの店内を見回してそんな風に言う。
“外の街”の規模に対して住人数が少なく、商業施設は供給過多になっている。たまたま入った店で客は自分達だけ、というのも珍しくなく、今が正にその状況。店員はNPCだから織姫がいくら奇天烈破廉恥な奇行に走ってもそれが余人の目に触れる事は無い。
が、しかしそういう問題なのか?
それで良いのか清一郎。
「あ、背面合掌縛りじゃん。梓、上手くなったな」
背面合掌?
ああ、なるほどなるほど。織姫の両手は背中側で拝むように掌を合わせて縛られている。そのせいで余計に胸を張るようになり、尚更おっぱいが強調されて凄くエッチ。
「い、いやいやいや、なにこれ梓が縛ったの!? て言うかなんで縄なんて持ってるんだ!?」
「標準装備」
「標準!?」
「縄なら俺も持ってるぞ。天音流は母ちゃんがいろいろ他から取り入れてどんどん発展させててさ。敵を非殺傷で無力化するための捕縛術も組み込まれてるんだ」
「あー、捕縛術かー」
捕縛術なら時代劇で見た事あるぞ。捕り物とかでの鮮やかな縄捌きは見事なものだった。そうか、捕縛術を学んでいるなら縄を持っていてもおかしくない。
織姫を見る。
とてもエッチな格好で息を荒くしてくねくねしていた。
「いやーこれはもう捕縛術じゃねえだろー」
「なに言ってるの! 天音流じゃあこれくらいの緊縛はできて当然、嗜み程度よ!」
「言った! 緊縛って言った! やっぱり捕縛術じゃないんだ!」
「違う。捕縛術。縛り方をちょっとアレンジしてるだけ」
「梓は母ちゃんたちから熱心に習っていたからなぁ」
アレンジした縛り方を習ったのか、習った縛り方をアレンジしたのか、どちらかによって清一郎たちの母親か梓かへの見方が変わりそうだ。いずれにせよ複雑な縛り方の割にかかった時間は短い。梓が捕縛術? の手練れなのは確かだ。
「ほーらほーら、城太郎、こういうのが好きなんでしょう? しっかり目に焼き付けておきなさい!」
縛られた体で織姫が俺に迫ってくる。俺が椅子に座っていて、立っている織姫は背が高いから上から覆いかぶさられるような格好で逃げ場が無い。眼前至近に突きつけられた織姫のおっぱい。俺がちょっとでも顔を前に出せばあの谷間に顔を埋められる。
「じょ、冗談は止めてくれ!」
「……え」
気付いたら織姫の胸をモロに掴んでいた。
ジャージの布地越しに、指が沈み込みそうな柔らかさと、逆に押し戻してくるような弾力を感じる。
いや……なんで、触れる?
もみもみもみ。
……はっ! いかん、無意識のうちに揉んでしまった。
慌てて手を離し、じとっとした目で俺を見ている清一郎と梓に気付いた。
「違っ! 弾かれると思ってて! 押し退けようとしたんだ! 触れるなんて思ってなかったんだよ!」
仮想世界にはユーザー保護機能があり、セクハラ行為禁止のためにプレイヤー同士の身体的な接触に制限がかかっている。特に性的な部位については厳しく、触れようとしても触れられずに弾かれるのが普通だ。そして弾かれて触れなくても同一座標に複数の人物が存在できない以上、押せば押し退けられる。
そうなる筈だった。
まさかそのまま触れてしまうなんて……。
「んー、城太郎無罪。今のは織姫が悪い」
「そうだな。城太郎が手を出さないと踏んで煽ったんだろうけど、姉ちゃん迂闊過ぎ」
「し、仕方ないわね! いいわ! フェンリル討伐の御祝儀代わりに許してあげるわよ!」
「そいつはどうも……」
理解が得られたようでなによりである。
……それにしてもさっき織姫がやけに可愛い悲鳴を上げていた。
もしかしらたあれが演技ではない織姫の素なのかもしれない。




