第3話 : 孝(たかし)との出会い
僕は、川辺で羽根を作り飛び立った。
見える物は、コンクリートとアスファルトばかり、眼下には、足早に歩く人々行き交う車。
「御じぃ、慶木さん、蓮花おばちゃん、そして兄さん……、何もないよ。」
まだ、上手に鳴けもしないくせに、鳴いた鳴いた、泣き続け飛び続けた。
「あっ、あの木で休もう」と思えば、ただのコンクリートで作られたオブジェである。
そんな日が、幾日も。
鳴く気力も飛ぶ気力も無くなりそうなある日、
コンクリートジャングルのほんの隙間に、まだ、幼い木が植えられているのが見えた。
やっとの思いで、その木に辿り着いた。
もう、何の気力も残っていない。
何故かその幼木からは、御じぃ、慶木さんの香りがした。
御じぃと最後に逢った時の照れくさそうな、
「そうか……」の言葉を思い出し、
そして、次の旅立ちの準備の場を、この幼木に決めた。
7年の時が過ぎたであろうか。
ある朝、
「母さん、母さん!」
と呼ぶ、少年の声、
「どうしたの、孝、こんな朝早くから」
「ねぇこれ見て、図鑑でしか観たこと無かったけど、蝉の抜け殻でしょう?」
「そうだね、母さんも久しぶりに見たよ、この辺にも、戻ってきたのかねぇ」
それは、偶然では無く、留まる樹木も見当たらずやっと辿り着いた一匹のセミだった。
母さんは言葉を続け、
「この木はねぇ、孝のことが大好きだったじぃちゃん、父(孝太郎)さんがね、孝の誕生のお祝いにと、
駅前のお祭りの時に買って、この木は『孝の木』だって、言って此処に植えたんだよ。
孝も父さんの事が大好きだったよね。覚えてるかい?」と、ちょっと涙を浮かべ……。
孝は、記憶も無かったのか大喜びで、その蝉の抜け殻を丁寧に拾い、ポケットにソッとしまうと、
「じゃぁ、父さんが戻ってきてくれたんだね、僕の宝物だね。」
その時、一匹の蝉が、「ミィーーン」と鳴き、飛び立っていった。
「あっ、冷たい」と孝が言うと、
母さんが、
「父さんのうれし泪だね、きっと。」
ぼんずは、「ありがとう、ありがとう、また戻って来るからね」と泣いていた。
そんな時、ふと、あの『プーニャ』の事を思い出していた。
「蓮花おばちゃんのあの湖沼も埋め尽くされてしまったけど……、もしかすると最後にプーニャに言っていた言葉、
『早くお前もぼんず君の様に独りで……、
……。
おばちゃんは、行けないけどプーニャなら行けるから……、ほら早く!!」の言葉を。
『プーニャ』が居るかどうか? は解らないが、あの蓮花おばちゃんの居た湖沼に向った。




