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行動目標 塩素調達

大変長らく……この挨拶が毎回恒例になりつつある……。

頑張って一月一話目指します!

二千一七年十月二日 午前七時三十分


 ヘリが離陸してからおよそ一時間。

 なにも調達地点に行くのにこんなに時間が掛かっていたわけではない。

 燃料の消費を覚悟で高度を上げ、情報を収集していたのだ。

 結果、正常な、(死んでいるわけではないのだがとりあえずこう呼ぶ)生存者は自分達以外には見当たらず、また普段人口密度の高い、大ホールや校舎などではなく、人気の無いような所に奴ら、ワールドキラーはいた。

「逃げた人達を追いかけたんでしょうね」

 これはナナの意見だ。

 確かに、そう考えるのが一番普通だろう。

「さ、そろそろ着くわよ」

 前方に見えるのはドーム状の建物、オレ達が目指していた屋内プールだ。

 そこの駐車場スペースにヘリを着陸させる。

 オレとナナが降り、塩素を調達の後、すぐに離脱する、これが今回の作戦だ。

 戦闘経験の少ないケンを連れて行くのは気が引け、またタクヤにはヘリの防衛を任せるため、突入は二人になる。

「銃はMP5でいいんだよな?」

 ナナに確認を取る。

「だって89式は全部固定ストックでしょ? 全く、フォールディングも用意しててくれればいいのに」

 不機嫌そうに言う。

「強度の問題だろ。さすがに特殊作戦群にまでビニールテープ張らせて使うようなマネはしたくなかったんだって」

 なだめるように言う。

「まぁ固定なら思いっきり殴っても大丈夫だしね。SATのMP5が伸縮ストックだったのが救い、か」

 閉所では銃の威力よりも取り回しの良さが優先される。

 いくら大口径の長物を持っていったとしても、咄嗟に構えられないのでは意味が無い。

 そう言う場合、アサルトライフルよりも拳銃の方が有効、と言われるぐらいだ。

「あ、そうだケン。もし何かあったら信号弾を撃ちあげろ。なにがあってもすぐ戻る」

 わざわざ無線機があるのに信号弾なんかを使うのには理由がある。

 簡単なことだ、調整がうまくいかなかった。

 無線機なら何度も使ったことがある。

 学科がら、船舶無線や、車両無線など、そういったものはすべて使いこなせるようになった。

 が、個人単位の、それも軍用ともなればお手上げだ。

 もちろん知っている無線に通じている事も多かったが、肝心のチャンネルの選択ができなかった。

 この辺は後でじっくり時間を掛けてやろうと思う。

 色々やってみれば案外簡単だった、なんてことはよくあることだ。

 で、本来は操縦士が残るものだが、戦闘要員に操縦可能な人員を二人とも割いてしまっているので、

ヘリの防衛は最優先事項だ。

「じゃあいってくる」

 外へ出て、正面玄関には向かわずに搬入口へ向かう。

 ここへは何度か来たことがあるので経路は頭に入っている。

「このドアを開けたらサウナの裏側に出る。サウナを抜けた先がメインプールで、壁沿いに進むとボイラー室がある。塩素の一時保管はその中だ。間違って小プールまで走るなよ」

「大丈夫。君こそ走って転んだりしないでね」

 そんな話をしているうちに緊張も解けた。

「よし……行くぞ」

静かにドアを開き、体を滑り込ませる。

 左に4体、右に3体。

「左を頼む!」

 射撃能力の高いナナに数を任せ、落ち着いて射撃する。

 数発外したが、全ての目標を無力化した。

「一発も外してないのか? さすがだな」

「そっちは結局胴体に中てたんだ。無駄弾撃たずに初めからそうすればよかったのに」

「いけると思ったんだよ……」

「ま、制圧できたからいいけど。で、あれ。誤射しそうだったんだけど」

「あれ?」

指さされた方向を見ると、プールの真ん中に浮かべられた浮島に乗り、唖全とこちらを見つめている人影があった。

「あれは…………ヒロキ!?」

「…………もしかして、ナギサか?」

「そんなとこで何やってる……隣にいるのは誰だ?」

 唖然とこちらを見つめていた人影、ヒロキの、こちらから見ると後ろにもう一人、誰かいた。

「え? ああ、スズだ。寝てる」

「スズ……相変わらずだな」

「まぁ、な。で、その彼女さん誰?」

「面識なかったか? まぁオレの……仲間だ。前にここに来たこともあるから顔は見てるはずなんだけどな」

「覚えてない……そろそろ上げてくれないか? 昨日の夜からこのままでいい加減寒いんだけど。寝てないし」

 とりあえず置いてあったゴムホースを伸ばしてプールサイドまで引っ張り上げた。

 その間、なぜかナナはずっと黙ったままだった。


「で、何してたんだよ?」

「いや、巨乳のお姉さんの観察を……」

「お前、仕事中になにやってんだよ……」

 なるほど、ナナが引いてたのはこれか。


「つまり、監視業務中にまたスズがやらかして、助けに行こうとしたらプールに落ちかけてそのまま、ってわけか」

 興奮気味のヒロキを落ち着かせつつ、話を聞くとそういうことらしい。

「で、あれは一体なんなんだ?」

 この質問はもっともだ、が。

「正直な所何も分からん」

「そうか……じゃぁ、その銃はなんだ!?」

「これか? いいだろ。MP5だ」

「型番とかどうでもいいよ! どうせ分からないし。そうじゃなくって」

「知ってどうする。ここに確かに存在する、その事実が全てだ」

「カッコつけんな‼」

 それから、ボイラー室に少しおいてあった塩素原液入りのポリタンクを確保し、人気のなくなり、物が散乱した管理室で少し休んだ。

 水着の上からシャツと短パンを着ていたヒロキとスズは、管理室に備え付けの簡易更衣室(ロッカーで仕切られた壁とカーテン一枚だけ)で着換えている。

 ちなみに、スズは依然眠ったままなので、ナナが着換えさせている。

「覗いたら、9ミリの穴が開くから覚悟しといてね」

 P226を持ったナナの言い残した一言があるので、さっさと着替え終わったオレとヒロキは管理室を物色していた。

「工具セットとか食糧とか調理器具は分かる。重曹と洗剤はなんのためだ?」

「後で分かるさ」

「お待たせー。スズ、まだ起きないみたい」

 カーテンが開いてナナと、ナナに抱きかかえられたスズが出てきた。

「お前結構力あるんだな」

「知らなかった?」

 女の子とはいえ、意識の無い人間を抱きかかえたまま平然としていられる女子はそういないだろう。

「これからフロントに向かう。まだキラーがいるかもしれないから注意しろよ」

「キラー?」

 聞いてきたのはヒロキだ。

「ああ、オレ達はやつらのことをそう呼んでる。ワールドキラー、てな」

「ワールド、ってことは日本中どころか、世界中がこうなのか?」

「恐らくな。さぁ、行くぞ」


フロントまでの道のりでキラーに出くわすことは無かった。

 ヒロキの話によるとここが襲撃されたのは昨日の夜の事らしい。

「多分……追いかけて行ったんでしょうね」

「こんな端にある施設でダメなら、もう敷地内はダメか……」

 そんな会話をしながら、いろいろと漁っていると、とりあえず出てきたのが、

「さすまたとポリカーボネートの盾と、カラーボール、あと現金が少し、か」

「現金? なにに使うんだ?」

 ヒロキが問いかける。

「無人販売系の何かに使えるだろ。自販とかセルフスタンドとか」

 あとはタオルやロープ、ガムテープやなども持ち出した。

「さて、じゃぁ出る前に自販漁るか……って、電気切れてる……」

「じゃぁ、壊す?」

「いや……」

 ナナの言葉を否定し、考える。

「ナナ、ヘアピン貸してくれ。二本」

「いいけど、開けるつもり?」

 言いながらもヘアピンを外したナナからピンを受け取る。

「ああ。ここの自販は珍しく電子ロックついてないからな。まぁ上手くできるかは分からんが……」

 管理室から持ってきたライターとペンチを使い、ピンの先端を少し加工する。

「…………まだ?」

「前にやり方だけ覚えて……それから実践したことは無いからなー…………お、開いたぞ」

 中から飲み物を取り出し、フロントにあった空の段ボールに詰める。

「じゃ、ヒロキ、よろしく」

「俺か?」

「あとさすまたと盾と、あとなんだかんだも頼んだ」

「…………」

 荷物をヒロキに押し付け、警戒しながら外に出る。

「で、肝心の塩素は裏の倉庫にあるのね?」

「そうだ」

「にしても、なんでそんなに詳しいの? アルバイトをしてた……ってことも無いでしょ?」

「うーん、バイトはして無かったけど、まぁ遊びに来たり、少し仕事を手伝ったりはしてたからな。っと、そこだ」

「…………で、どこにあるの?」

「……ヒロキ、今日何日だ?」

「十月二日だ」

「……えーと、消耗品の搬入は偶数月の3日、つまり明日か。ってことは……」

「もう全部使い果たしたってことね」

 たどり着いた倉庫には空のポリタンクが少しと、あとはポンプやホースしか置いてなかった。

「タイミング最悪だったな」

「そうね」

「ああそうだ。ヒロキ、重曹やらなんやらは炭酸グレネード作ろうと思ってた」

「炭酸グレネード?」

「詳しくは省くが、ペットボトルの中に気体を発生させて破裂させるんだ。一緒に中に塩素も入れておくつもりだった」

「それは……うん、まぁ残念だったな」

「いや、ヒロキに渡そうと思ってたんだが」

「俺に? なんで?」

「だってヒロキ、自衛手段ないだろ? それともこれ使うか?」

 P226をホルスターから抜き、差し出す。

「いや、無理だろ」

「だろうな。とりあえず今はそれでいいか。盾とさすまた。いや、さすまたは少し長すぎか? これ使うか?」

 今度はケンの部屋から持ってきた警棒を差し出す。

「まぁこれぐらいなら……あれ? これどうやって伸ばすんだ?」

「思い切り振れば遠心力で出る。しまうときはツメをはずして戻す。指さし棒みたいなもんだ」


 結局、塩素はボイラー室にあった分しか入手できず、使うには少なすぎたが、二人の生存者を救助出来た。

 新たな仲間と少しの物資を手に、ヘリに戻った。

「さて、じゃぁ次はバリケードね」

 そして、行動目標は塩素の調達から自衛隊との合流に切り替わった。





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