行動目標 合流
前回の更新から大変遅くなってしまってごめんなさい。
一話の執筆期間が長くなってしまったために、少し文章の雰囲気などが途中で変わってしまっているかもしれません。ご了承ください。
二千一七年十月二日 午前十一時三十分
警察と自衛隊が確保しているバリケードへ向かう途中、とあるビルの屋上のヘリポートに着陸し、少し早目の朝食を摂っていた。
「で、本当にここは大丈夫なんだろうな?」
少し不安になり、場所を提案したナナに問いかける。
「大丈夫。ここはもう何のテナントも入ってないから」
「なんで分かるんだ?」
「だって中に机とかロッカーも無かったし」
「なんで分かるんだ!?」
「普通に窓から見れば分かるでしょ?」
「分からねぇよ! 第一ここの窓は全部マジックミラーだろ!?」
「だから? 光の屈折を計算すれば見えるでしょ?」
「……ダメだ。お前とオレじゃ見てる世界が違うらしい……」
「何言ってんの。同じ時空に同時に存在してるんだから、見える世界は同じでしょ。まぁ見てる景色はその人次第だけどね。希望と視るか、絶望と視るか」
ナナの言っている事はときどき理解できなくなる。
なんとなく、感覚的には理解できる気もするのだが、論理的に解釈できない。
「ま、そういう話はおいといて、新たな仲間と、今ある命、その他諸々に感謝して! いただきます!」
「その他諸々って……まぁいいか。いただきます」
ヒロキとスズの紹介もそこそこに食事を始める。
ヒロキとスズの紹介を要約すると、ヒロキは被災前に通っていたスイミングスクール(塩素調達に向かった施設と同系列)でアルバイト、それで仲良くなり、こっちに移ってからもたまに遊びに行く仲に。(ちなみに、ヒロキに対してかなり砕けた態度をとっているが、一応二つ年上である)
スズはヒロキのバイトの後輩で、オレの二つ下。
高一の時に居眠りで成績が危うくなり、バイトを始めて眠り癖を治そうとしたがうまくいかず、結局バイト中にも居眠りを連発、おかげでいまだに研修扱いでヒロキが常に傍に付いている。
「で、そっちが芽方ヒロキさんで、その娘が夢島スズちゃん、だな?」
「おいケン、今なんか変な字を使ったか?」
「さすがだな同志よ」
質問の答えじゃねぇ……。
「…………寝る娘は育つ」
「分かるか同志よ」
「それな」
タクヤの一言にケンとヒロキが同調する。
「あなた達って見る所同じなのね……芽方さんまで……まぁ芽方さんがアレなのは知ってたけど」
レーションを食べながら会話が弾む。
ちなみに、タクヤの発言にはオレも同意を……いや、気にしないでおこうか。ナナの目線が激痛だ。
「さて、そろそろ出発するぞ。いくらヘリが鈍足とはいえ、あと一時間で目的地だ。合流する相手が相手だからな。オレ達が士気を下げるようなことが無いように気を引き締めて……」
そこまで言った時、ちょうど今いるビルの、ヘリポート側の真下から悲鳴が聞こえた。
「ナナ! ワイヤーを! あと援護射撃!」
ヘリのワイヤーをベルトとカラビナに繋ぎ、ヘリポートからラぺリングを開始する。
着地寸前で停止寸前まで減速し、レッグホルスターからP226を抜き、ハンマーを指で起こす。
見ると、袋小路になっており、逃げ場所の無い女性と、女性に襲いかかろうとしている男のキラーが一体。
すぐさま発砲。空中で二発、女性の前に着地してから一発。
さらに後ろから迫るキラーに残弾を全て撃ちこむ。
リロードし、片手で撃ちつつ、ワイヤーを体から外す。
ナナの援護射撃を受け、目標を殲滅。
「大丈夫です。行きましょう」
早く上に戻りたかったので有無を言わさずに女性を引き上げてもらい、自分も上へ戻る。
「怪我はありませんね。なにがあったんですか?」
女性を落ち着かせるために会話を始める。
「……あの人が…………」
「あの人……彼氏さんですね」
超断片的な会話からナナが情報を汲み取る。
「そうですか……それは、お辛かったでしょう」
「多分それ違うよ?」
「……何が?」
会話を続けようとしたらナナに割って入られた。
「……そう、違うのよ。あの人は…………あたしをエサにして逃げようとしたの! 前々から自己中だとは思ってたけど、殺してくれて清々したわ!」
…………あれ? なんか思ってたのと違う……。
「じゃ、もう未練とかはないのね。一緒に行きましょ。その前になにか食べる?」
少しトラブルはあったものの、予定通りにバリケード上空に向けて離陸。
『こちらは、日本国陸上自衛隊、臨時災害対策本部である。貴機の所属及び飛行目的を知らせ』
バリケード上空に差し掛かったとき、通信が入った。
「非常通信ね。応答任せるわ」
「了解。…………こちらは……ナナ、コールサインはどうすればいい?」
「もういいわ。貸して。こちらヴィークル。付近への着陸許可を要請します。送れ」
『ヴィークル、確保区域内に着陸可能なスペースは無い。9時のビル屋上ヘリポートへ着陸後、待機せよ。送れ』
「了解。終わり」
「……ヴィークルってなんだ?」
「乗り物って意味」
いや、まぁそれは知ってるんだが……。
まぁ、いいか。
指定されたヘリポートへ着陸し、エンジンを止め、荷物をケンに持てるだけ持たせてヘリを降りる。
ビルはバリケードの外なので、周囲を見回すと何体かのキラーが徘徊していた。
「さて、じゃぁ行きましょうか」
「行くって、待機しろって言われただろ?」
「多分待ってたらお迎えが来るんでしょうけど、こっちから行った方が早いでしょ。時間、無駄にしたくないもん」
結局、ナナの提案でビルからの自力脱出が決定された。
「ビルの内部構造は大体しか分からないけど、エレベーター横の階段なら一階までそのまま降りられるはず。今の所内部に敵影は無いけど、警戒は怠らないで。一階のエレベーターホールからエントランスを抜けるまでは距離があるから慎重に」
階段を下りる順番は、オレ、ナナの前衛に、ヒロキ、スズ、例の女性(理美さんというらしい)、ケンが続き、後衛はタクヤが務める事になった。
エレベーターホールを抜けてからは、オレが前衛、その後ろにヒロキ、スズ、理美さんが続き、二人を挟むようにナナとタクヤ、後衛はケンが務める事になった。
「それじゃ、いくわよ。いつでも撃てるように準備してて。あと階段で射撃するときは跳弾に注意」
「了解!」
答え、チャージングハンドルを引く。
セレクターは「タ」、セミオートに合わせておく。
タクヤは無言で肯定を示し、ケンは何かをあきらめるような表情でグロックにロングマガジンを差し込んでいる。
「ちょちょちょっと待ってくれ! 本当に行くのか?」
異論をはさんだのはヒロキだ。
「言ったでしょ? 時間を無駄にしたくないの」
「ヒロキ、諦めろ。スズをちゃんと護ってやれよ」
「ナギサまで…………あーもー! スズ! 起きろ! さすがにおぶって階段は降りられないぞ!?」
結局ヒロキも腹を括り、警棒を手にした。
スズと理美さんは完全に戦闘能力を持たないので、お互いをカバーしながら護衛しなければならない。
「行くわよ」
ナナが屋内へと通じる扉に手を掛け、開け放……てなかった。
どうやら鍵が掛かっているらしい。
「開けられる?」
ナナが聞いてくるので、扉を調べてみる。
「いや、内側からしか開けられそうにないな。そもそも鍵穴がない」
「そう。それじゃ、これの出番ね」
ナナは、スリングで背負っていたショットガン、M870を構えた。
「そういえばそんなのもあったな」
「開けられる鍵がないならマスターキーを使うまでよ」
「ないのは鍵穴、だけどな」
金属製の扉に向けて撃つため、跳弾の可能性を考え、身ぶりで全員を少し下がらせる。
「それじゃいくわよー」
M870、グリップとストックを廃したモデルは万能の鍵、マスターキーとも呼ばれる散弾銃を、少し錆びた扉に向けて撃つと、ドアノブが外れ、いとも簡単に開いた。
「突入ー。はい、これ」
ナナからM870を受け取るが、邪魔になるのでとりあえずケンに返しておく。
「……邪魔だ」
M870を押しつけ、手筈通り、先頭を行く。
曲がり角はもちろん、デスクや観葉植物の陰にも銃口を向け、ナナの指示を受けつつ前進。
一分ほどで目的のエレベーターホールに到着し、階段室の扉を開け、見える範囲のクリアリングをし、速足で降りて行く。
「……そういえばここ何階建てだっけ?」
「地上十八階と地下二階」
やっぱり聞かなければよかったと、少し後悔しつつ、それでも気を緩めることなく階段を下りて行く。
遭遇戦になることも無く、神経をすり減らしながら階段を折り続ける事早三分。
普通に三分歩くだけならここまで疲れることも無いのだろうが、重い装備を身にまとい、いつ襲われるか分からない緊張も加わってそれなりの疲労が蓄積され始めたころ、ようやく一階のエレベーターホールに着いた。
拳銃を抜き、慎重に階段室の扉を開け放つと、初めに目に飛び込んできたのは自分に突き付けられる二つの銃口。
咄嗟に人差し指に力が入ってしまうが、何とか抑える。
「銃を下ろしてくれないか。我々は陸上自衛隊だ」
「まさか要救助者が自力脱出してくるなんて、ね」
初めに銃を下ろした自衛官は、少し驚いた様子で続けた。
「俺達以外に生き残ってる部隊があるとはな。所属はどこ…………」
「どうしたんです?」
固まってしまった自衛官の横から顔を覗かせた女性自衛官が話しかけるが、自衛官は動かない。
「ハロー先生」
初めに動いたのはナナだった。
「先生? ってまさか……後藤先生!?」
「後藤さんのお知り合いですか?」
「知り合いも何も、俺の問題児達だよ」
少し笑いながら自衛官、もとい外国語講師の後藤先生は答えた。
「装備が無いのに仲間がいないと思ったら、お前達だったのか……」
「ナナの言ってたこと、本当だったんだ……」
「えーと、なんだかよく分からないけど、とりあえず戻りませんか?」
女性自衛官が言い終わるのとほぼ同時に、銃声。
「!?」
驚き、銃声の元を目で追うと、ナナが89式を構えていた。
「気を抜かないでくださいよ? 先生」
銃口の先をみると、観葉植物が赤く染まっていた。
自衛官の二人はすでにそちらに銃口を向けていた。
「悪い悪い。表に車が停めてある。早いとこ戻ろう」
「……後藤さん、車には全員、乗れませんよね?」
歩きながら女性自衛官がいう。
「あー、まぁ七人、俺達含めれば九人か。ライトアーマーじゃダメだったかー」
ライトアーマー、つまりは軽装甲機動車。
確か乗員は四人と銃座に一人。
と、いうことは、四人あふれてしまう。
「じゃぁそこの非武装の三人と、運転はお前に任せた」
ヒロキ、スズ、理美さんと、女性自衛官の四人が乗ると、あと一人は……。
「じゃぁ私、護衛ってことで」
「俺はほぼ戦闘能力無いんだけど!?」
「荷物ぐらいは乗せてあげるから、安心して?」
「……ケン、諦めろ」
あーだこーだ言っている間に、すぐに車まで着いた。
「よし! 野郎どもはマラソンだ! ついてこい!」
結局、バリケードにつくころにはへとへとになり、これまでの出来事で心身共に疲労しきっていたオレ達は、その日、それ以上行動する気にもなれず、すぐに眠ってしまった。




