行動目標 脱出計画
時間は常に一定の速さで進み続けます。
それは物語の中でも、外でも抗うことのできない自然の法則なのです。
十月四日午後一時
簡単な昼食を済ませ、作戦を立てる。
最終目標は単純明快で、ここから脱出し、バリケードへと戻ること。
「弾薬が十分にあるとはいえ、強硬突破できそうな数じゃないよな…………」
分かりきっていることなので、オレのつぶやきに対する反応はない。
「自力での脱出が無理なら、他力本願ね。つまりは助けを呼ぶ」
ナナの提示した案が思いつく限りで最もまともだと思うのは仙田さんも同じだったようだ。
「でも、無線は壊れちゃったし、信号弾なんて持ってきてないし、どうするんですか?」
救助に来てもらおうにも、本部では俺達がただ手間取っているだけなのか、こうして救助を待っているのか、あるいは全滅したのかを知る術はない。
「例えば海上で遭難したとき、君ならどうする?」
いきなり結論を出さないところに、俺を落ち着かせようとするナナの意図を感じる。
「そうだな……無線に向かって三回メーデー、そして現在地と状況を叫ぶ?」
「無線がダメなら?」
「古い船ならモールスを使う。sosぐらいの符号はさすがに覚えてるからな」
「じゃぁ山なら?」
「ホイッスルを三回鳴らすか…………そうだ銃声だ!」
問答を繰り返すうちに、冷静でいたつもりの自分が相当焦っていたのが分かるほどに落ち着くことができた。
「まぁ、このへんはビルが多くて音が乱響するだろうから使えないけどね」
それじゃぁ八方ふさがりだから諦めろと、まさかそう言い出すんじゃないかと一瞬思ったが、ナナに限ってそれはないだろう。それに、もし諦めろといわれたとしたら強行突破を仕掛けるまでだ。ここで餓死するか、自殺するぐらいなら少しでも足掻いてやる。
「結局、どうするの?」
仙田さんにも妙案があるわけではないようで、黙って聞いているのをやめて三人での会話になる。
「原点に戻りましょう。一番の理想はなんですか?」
ナナの問いかけに仙田さんはすぐに答えた。
「それは、無線で助けを呼ぶことでしょう。あなた達が乗ってきたヘリもあるんだし」
もちろんそれが一番の理想だ。が。
「でも無線は壊れたんだろ? 今ここで修理できるってんなら別だけど」
いくらナナでもそこまではできないはずだ。
ないものねだりをここでしても意味はない。
「そうね。確かに私でも修理は無理。だから、壊れていないのを使う」
そんなものはない。
そう言おうとしたところ、仙田さんに遮られた。
「もともとここと本部で連絡を取り合ってたんだから、その時に使っていた通信装置がどこかにあるはず」
なるほど。盲点だった。
「このアンテナの配線は三階の増築部分、つまり南側に繋がっています。往復五分と掛からないでしょう。もちろん、何の妨害もなければ、ですが」
「ここでずっと考えていても仕方が無いでしょう。指針が決まったら、あとは行動あるのみ」
「なら、日が沈む前に行きましょう。善は急げ、です」
俺達の脱出へ向けた準備は急速に進んでいく。
本部にいる仲間との再会は、すぐそこだった。
更新頻度を少しでも上げるために、本来は一話分にするべきところを分割しました。
よって、次回更新分と合わせて前後篇となります。




