第9節【アタック・オブ・シスタードラゴンⅡ】
「お兄ちゃん! 見て! あたし可愛い!? 好き!? 殺してくれる!? 殺していい!? 殺すね! “死せし英雄よ我に傅け恥辱に濡れろ!”ーー【死雄の衣】」
少女が叫び、詠唱。
少女の周りにレイスが三体召喚された。しかしそれは先程までのレイスとは様子が違う。
存在力が先程までのレイスとは比べ物にならないほど高く、また持つ得物もそれぞれ違った。
大鎌を持った者、少女より遥かに巨大な戦斧を持った者、竜すら屠れそうな特大剣。
存在力が先程までのレイスとは比べ物にならない。
この魔法はまさか……。
少女は大鎌レイスを自身に憑依させながらこちらへと突撃。少女が手を払うと同時にレイスが大鎌を振るう。
俺は素早く【闇創想】で長剣を精製、大鎌を受ける。魔力を通しているので、死霊の鎌も受けられる。
剣戟に魔力が悲鳴をあげる。数回切り結ぶと、俺の魔力に負け少女の大鎌レイスが消失。
「貴様まさかウェネか!?」
「お兄ちゃんどいて! そのメス猿を殺せない!!」
少女が笑いながら、エリーを舐めるように見つめている。エリー狙いか!
エリーが威圧され、後ろに下がる。
少女……いやウェネは、くるりとその場でターン。今度は巨大な戦斧を持ったレイスを憑依し、回転の勢いのまま戦斧を俺へと薙ぎ払う。
剣で受けるが、今度はウェネも魔力を通しているらしく、俺の剣が弾かれる。
見た目に反して尋常ではない膂力を秘めた一撃。俺はその勢いを殺しきれず、横に吹っ飛ばされた。
空中で体勢を制御し、地面に剣を突き刺す。それでも勢いを殺しきれない。
その隙にウェネがエリーへと迫る。
まずい! エリーが無防備だ!
「あははははははははは!! さあ血と脳漿ぶちまけて死に詫びろ小娘がああああああああああ」
まるで踊るようにステップを踏み、自分より遥かに巨大な戦斧を振り回すウェネに、エリーは無謀にも短剣を抜いた。
その瞳は紅く燃えている。しかし、俺ですら受け止めきれなかった一撃。あんな短剣で、人の身で、受けきれるわけがない! 俺は焦燥にかられながら地面を蹴った。蹴った箇所が爆ぜるほどの力だが、間に合わない!
「私には、まだ! 死ねない理由がある!」
「知るか! 死ね小娘ええええええええ」
ウェネの強大な一撃に向けてエリーが短剣を振った。
その瞬間。エリーから膨大な魔力が溢れ、それが闇色の衝撃となって短剣を覆う。
闇色の衝撃波がウェネの戦斧を襲う。魔力と魔力がぶつかり、甲高い魔力干渉音が響いた。
「うそ?」
エリーの闇色の一撃が戦斧を吹き飛ばした。あれは、まるで俺がガルディンの炎剣を消した時と同じではないか!
キョトンとしたウェネにエリーが追撃を入れようとするが、
「これで! おわ……り……」
エリーの魔力が急速に失われていく。
エリーは気絶したのか、身体から力が抜けて倒れそうになっている。
ぎりぎり飛び込んだ俺は地面に倒れそうになるエリーを抱き止めた。
「エリー!?」
脈を確認するまでもなく、息はしていた。どうやら魔力切れを起こしただけのようだ。
「うそ。なんでなんでなんでなんで、なんで!なんでこいつお兄ちゃんと同じ魔力波長を持っているの!?」
ウェネが信じられないと言った表情でこちらを見ていた。
確かに昨日の夜以降、エリーからは微量の魔力を感知できた。だが俺と同じなどあり得ないはずだ。魔力波長はそれぞれで違うのだ。
俺の血を吸ったせいか? それとも【竜血姫】の力なのか?
「いや、両方か……」
「お兄ちゃん……どういうこと?」
「ウェネ。話は長くなるが、とりあえずレイスを消せ」
「分かった」
ウェネはそう言い、手を払うと、レイス達が宙に溶けるように消えた。
後方を見ると、ガルディンと戦っていたイゼスがまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「イゼスよ、せめてもの情けだ。儂が引導を渡してやろう」
その隙を見逃さないガルディンの炎剣がイゼスの首を飛ばした。
炎によりその身体は燃え上がり、崩れた遺体は炭となった。
「あーあせっかく良いおもちゃだったのに。あのおじさん炎使うのずるいや」
拗ねたような声を出すウェネ。やはりあれはウェネによってアンデッド化したイゼスだったか。
「ウェネ。どうやってその姿に? 我ら闇竜は形態変化を使えないはずだ」
「簡単だよ? 形態変化使えないから……転生しただけ」
「馬鹿な……あれを使えば……もう竜に戻れぬのだぞ!?」
ウェネが使ったのは禁忌と呼ばれる輪廻転生の魔法だった。確かに死霊魔法のエキスパートであるウェネなら使えるだろう。だがしかしあれはいわば一方通行の転生だ。竜から人になれど、人から竜にはなれない。なのに、こいつはなぜそんなことを……。
「へへへ。だってこうすればお兄ちゃんは、あたしを愛してくれるでしょ?」
「愚か者が!」
俺は激怒して、ウェネを叱責した。なんて馬鹿な事を!
「へへーお兄ちゃんに怒られるの久しぶり〜。じゃあお兄ちゃんどいて、そいつ殺すから」
天使のように笑いながらウェネが魔力を放出。それを俺は竜障壁で防ぐ。
「エリーは俺の主だ。危害は加えさせぬ」
「主? そういうプレイ?」
「ぷれい? とにかく俺はエリーを守らねばならないのだ。邪魔をするなウェネ」
「むーずるい。あたしもそのプレイに入りたい!」
「ん? 手伝うということか?」
「そう! お兄ちゃんと一緒にいる!」
「ふむ……」
ウェネを仲間に入れる、か。
悪くない考えだ。
ウェネは七曜龍を除けば竜の中でも最上位の実力を持っている。攻撃魔法は一切使えぬが、死霊魔法と状態異常魔法についてはこの世界最強と言っても過言ではないだろう。仲間に入ればエリーの戦力となるだろう。
問題は……隙あらば人間を殺そうとしそうな点だ……。
「ウェネよ。条件がある。まず、人となった以上は、人として生きていかねばなるまい。殺人は許されぬ行為だ。破壊もそうだ」
「はーい。お兄ちゃんと居られればなんでもいいよ」
「よし、ならばお前も手伝うが良い」
エリーは気絶したままだが、まあ反対はしないだろう。多分。
さてこれからどうするか。
ガルディンがこちらを見付け駆け寄ってくる。
うむ。さてこの惨状をどう言い訳しようか考えていると、黒い影が地面を覆った。
そして、上空から声が響いた。
「ギャハハハ! 忌々しいブラコン竜の魔力波長を感じたので来てみれば、おいおいおいおい人間になっているだと!? ぶっ殺すチャンス到来ってか!? ギャハハハ!」
どうやらこの騒乱は、まだ終わらないようだ。
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