第10節【亡風竜来来】
上空を見ると、一体の竜が羽ばたいていた。朽ちた身体から骨が覗き、皮が垂れ下がっている。その竜は家ほどの大きさで頭部も骨になっており、眼孔に暗い緑の炎が宿っている。
「誰あれ」
「知らん。お前の仲間じゃないのか? 死竜っぽいが」
「あんなキモいの知らなーい」
そんな会話をしているとガルディンが怒鳴りながら駆け寄ってきた。
「エリーは大丈夫か!?」
「気絶しているだけだ。」
「そうか。だが気を付けろ! くそやはり竜の仕業だったか! 【亡風竜】リュズギャルがまさかこんな辺境に現れるとは! 奴は【死蠍竜】ほどではないが、かなり危険な死竜だ! 死霊も奴が召喚したに違いない!」
「あんな雑魚と一緒にするな!」
ウェネが変なところでプンプン怒っている。
【亡風竜】リュズギャル。おおそういえばそんな奴居たな。俺の記憶が正しければ中位竜で、竜の中でも反人間派閥に入っていたはずだ。
さて、どうするか。エリーはこの街が必要だと言った。となれば守らねばなるまい。
「ギャハハハ! ようやくてめえに復讐出来る日が来たな! 人になった以上は力も弱くなっている! 俺の目は誤魔化せねえ! まあ目はないんだけどな! ギャハハハ!」
上空でうるさい奴だ。
「なんかやったのかウェネ」
「さあ? 身に覚えがありすぎてどれか分かんないや」
「ヴァリス! 奴は中位竜だ! 貴様らでは敵わん! 一旦下がって聖狼教会に協力を要請するぞ! 聖属性魔法がないと奴は倒せない!」
「ガルディンいいから下がっていろ」
「ギャハハハ! ついでにこのうぜえ猿共もぶっ殺すか! 【骨兵戦線】!」
リュズギャルが吠えながら魔力を放出。地面から、骨の兵士ーースケルトンの集団が次々と生えてくる。
先程のレイスの来襲を生き延びた兵士が、城塞から逃げようとしているところに現れたスケルトン。
「おいおいおいおい! 逃げんなよ! 悲鳴を上げろ! 【骨棘の道死】」
逃げ惑う兵士達の足もとから棘状の骨が噴出。足を串刺しにされた兵士達にスケルトンが群がる。
「ひいいいいい来るなあああああ」
「骨が抜けない!」
「猿の悲鳴は染みるなああ! そうだろ!? 【死蠍竜】!」
リュズギャルが骨の棘で次々と逃げようとする兵士を足止めしていく。本気を出せばそのまま殺せるのにどうやら手加減をしているようだ。
「貴様! なんてことを!」
ガルディンが吠える。このまま被害が増えるのはまずい。
「うわーしょぼい魔法……小物っぽい」
隣でウェネが呆れていると、後方で魔法波長を多数感知した。
俺が振り向くと、
「スケルトンだ! 聖魔法を使え! 付与魔法を使える物は出来る限り味方の武器に付与し続けろ!」
「うおおおおおおおおおぶっ殺せええええええええええ」
「皆様にリュコス様のご加護を! 怪我人はすぐに連れてきて! こっちで治します!」
「やっちまえええええええええええ」
「皆に剣と狼の祝福を!」
なんだか暑苦しい集団が街から現れ、スケルトンに攻撃を始めていた。一部の者は回復魔法で兵士達を救助している。。
一見するとバラバラな格好をした連中だが、全員が首からメダルをぶら下げている。牙と剣のレリーフが施された銀色のメダルだ。
あれは確か……。
「聖狼教会の連中め、ようやく来たか。奴らならスケルトンに対応できるぞ! ヴァリス一旦下がるぞ、そこの少女も儂と一緒に来い!」
「あたしに指図するなハゲ……痛いお兄ちゃん! ほっぺたつねらないで!」
「こいつの心配はいらぬ。あの竜は俺とこいつで対処するから退けガルディン」
ガルディンが俺を見つめた。
俺の意志が揺らがない事を察したのか、俺が抱いていたエリーを渡すと無言でエリーを背負った。
「ガルディン、エリーを頼む」
「死ぬなよヴァリス。エリーには貴様が必要だ」
ガルディンはそう俺に伝え、後方へと下がっていった。
上空でリュズギャルが聖狼教会の信者達を見つめていた。
思ったよりも自分の魔法で殺せていないせいで苛立っているようだ。
「なんだ? ちっ! あの雌犬の眷属共か。うぜええなあああ全員ぶっ殺して、あの雌犬に送り付けてやるかギャハハハ! だが、その前にまずはてめえだ【死蠍竜】! あの時の屈辱、忘れてないぜ!」
「だから知らないってば。何こいつストーカー?」
「まったく……中位竜如きが随分と吠えるな」
「馬鹿だよねえ。こっちが人になったぐらいで差が埋まったと勘違いしてる」
「死ねええええ!!」
リュズギャルが急降下。骨が飛び出た尻尾をこちらへと振るう。
俺は巨大な剣を精製する。人が振るうにはあまりに巨大で重い、大剣。
ウェネも同時に戦斧を持ったレイスを召喚憑依。
「はあああああああああああああ!!!」
迫りくる尻尾に向けて俺とウェネの斬撃が同時に激突。
「馬鹿なあああああああああ!?」
リュズギャルの尻尾が切れるどころか爆散する。骨と鱗と皮が辺りに散らばっていく。
剣を振った勢いのまま俺は回転。剣を上向きに振り上げる。その刃先にウェネが足を置いた。
「さっさと成仏させてやれ」
俺の言葉と共に剣を振った勢いで、ウェネがくるくると回転しながら空へと舞う。
「羽無き者が空中戦など馬鹿めえええ!」
リュズギャルの目の前まで上昇したウェネに巨大な顎が迫る。
「くそキモストーカーは死ね!」
ウェネが回転しながら戦斧をリュズギャルの顎の上から叩きつけた。破砕音と共に地面に向かって失墜するリュズギャル。
ウェネは入れた一撃の勢いで上昇が止め、魔力を上に放出し下方向に加速。落ちるリュズギャルに追随するように戦斧を顎が破砕された頭部に叩き込む。
「うごああああああ!!!!」
「喧嘩を売る相手ぐらいは見極めるべきだったな。ああ、そうか目はないんだったな。残念だ。【無慈悲な黒槍】」
俺は落ちてくるリュズギャルに向けて魔法を発動。何百本もの槍がリュズギャルを貫く。
落ちた勢いと、槍でズタズタにされた身体が地面に墜落し爆散。骨が混じった土埃が舞い上がった。
死竜を倒すのに聖属性が必要というのはあながち間違いではない。だが、圧倒的力があればそんな物は必要ない。
土埃の中、俺の横に降り立ったウェネに手を向けると、ウェネがそこをぱしんと手のひらで叩いた。
「案外人間の身体も悪くないかも」
「竜よりも色々と自由がきくからな」
見れば、骨の兵士も塵となって消えていった。
聖狼教会の連中が雄叫びを上げている。暑苦しい連中だ。
「ふう。一件落着か?」
「まったく、誰のせいでこんなことになったの!?」
「お前だろうが」
「そうでした」
舌を出してニコリと笑うウェネ。
さて、とりあえずここで起きた事は全てリュズギャル君のせいにしよう。
それが許されれば、だが。
俺とウェネは、後方に立って手を振っているガルディンの方へと歩いていく。
こうして新たな仲間が国崩しに加わったのだった。
それが、正しいかどうかは、まだ分からない。




