第6話「好きであることの理由付け」
山中大茶はおそらくだが、凄まじく心が強い。なぜならば、ハットリジャンクデパートで客の注目を大きく浴びながらも、なにも動じることなく、商品を見て歩けるからだ。
チマキのパーツを探しに来ていた。何でもかんでも勝手にチマキが自前で改造するせいだ。サードパーティでもしっかり用意しておかないと、いつか自壊しかねない不安があった。予備部品は危険に対するスペーサー。
消耗品のパーツをいくつか買い、エレベーター近くのベンチで、大茶とチマキは一休みした。中央ホールは吹き抜けで、上にも下にも反対側にも視界がとおった。
大茶は自販機でアイスキャンディを買って食べた。味は抹茶味だ。上の階にあるゲームセンターから大きな音が漏れ聞こえていた。
大茶の隣へ一人腰掛けた。知りあいだ。名を服部、ジャンク屋のオーナーだ。
「大茶、例のブツです」
「説明書はつけていますか」
服部が、自分の身長と変わりない長さのものを大茶へと渡した。チマキはスルーされていた。
ジャンクデパートの一番の目的はこれにあった。前もって大茶が注文していたものだ。ドローンでゆうそうするには、少々危なすぎるから、直接引き取りに来た。
「先払いですから、これで契約ははたせましたね」
「契約どおりです」
「友情に感謝です」
チマキがそんな、大茶と服部の会話に割ってはいる。服部は特に気分を害したというそぶりは見せなかった。
「指揮官。センサーに危険物を検出した」
ほう、と服部が驚く。服部はちらりと大茶に微笑み、チマキへと姿勢を正した。
「良い目をお持ちですね。貴方は大茶の護衛のかたですか?」
「否定する。本機は山中大茶の個人所有機である、性教導ユニット3である」
「なるほど」
服部は自販機でコーヒーを一杯買い、席に戻った。
「……3?」
チマキはそれから、自分が何者であり、どのような戦果を挙げているかを列挙した。ちょっと子供の自慢話ぽかった。
「ーーというわけであり、本機は極めて優秀な戦績を残した、『必要とされる』アンドロイドである。名はチマキ」
「なるほど。良いアンドロイドをお持ちのようですね。大茶が羨ましい。チマキと言いましたか、体のほうもお美しいですね」
「自慢の体である」
大茶はツッコミをいれることはない。今はチマキと服部のコミュニケーションだ。
ただちょっぴり寂しい。そんな物悲しい顔で、チマキと服部の仲を見ていた。大茶だけが気がついていないが、チマキは話を大茶に振った。そして服部は、隠すこともせずに無言で親指をたてた。つまりはそういうことである。
「指揮官、天然オイルで焦げつきしないのを買ってくれ」
「仕方がないですねーー」
財布の中身を確認して大茶は言った。
「ーーおかしいですよね」
天然オイルは今日の購買カゴに入れるのは却下された。ただ定期メンテナンスのパーツくらいは確認しておくことを、大茶に思いださせた。アンドロイド、車で言うところの車検のようなものはないのだ。扱いとしては自転車が近い。保険も法律もあるが、原則、購入者が修理して保守をし続けるものだ。
「大茶。彼女は珍しいタイプのアンドロイドですね」
「手を焼きますよ」
「内装のほうの話ですよ」
「内装ですか、服部」
「随分と久しぶりに見る基本フレームです。頭の中身は、彼女が言うとおり軍用のものを転用しています。ですが外装内装全てのパーツとまでとなるとーー」
「ーー異常ですか。良い目ですね」
「あなたと同じですよ、大茶」
「くれぐれもお上に悟られないように気を払います」
「それがよろしいでしょう」
服部は、普通の目ではないのだ。透視も可能だ。
「戸籍の混乱から、人間の社会にはいろんなのが紛れこみました。人間がそのことを、人間として振舞えているうちは気にはしないでしょう」
アイスキャンデーは抹茶味だ。大茶は渋くて抹茶や紅茶の類いが嫌いだったが、今は好きだった。
「人間とアンドロイドは……どのように接していくべきなのでしょうね」
「さぁ?大茶はどう思いますか。私は人間との接し方にいつも腐心していますよ」
「男と女も同じでしょう」
「たしかにそうですね」
ジャンクデパートにはたくさんの人間が行き交っている。ただその中ではチマキは異常だ。見た姿が完全にロボットであるからだ。これが人間の姿と同じであったならば、誰にも気がつかれなかっただろう。
「改造しますか。人間らしくできれば視線が減りますよ。ちょっと手間で高価ですが割引きしましょう」
「遠慮しておきます」
チマキは不動の姿勢で待機していた。身動き一つない。だがそれでも冷たい光学センサーは、大茶の体からそらす動きが微塵もない。
「チマキさんはーーこれがチマキさんですから」
大茶は帰り道の中で、チマキに聞かれた。どうして人間の姿にすることに迷ったのか、とだ。
「チマキさんは、そのままの姿をわざわざ変える必要がないと考えたからです」
「本機には、人間としての要求はしない、ということか」
「誤解ですよ。チマキさんを必要としていないわけではありません。ただやはり、チマキさんはその姿であるからこそのチマキさんなのです。それは猫に獅子になれと求めるようなものでしょう」
帰り道は、行く道と変わらなかった。ラジオを聞いて、ときどき話して。気がついたらドライブが終わって家に着いていた。
「ありがとうございます」




