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そこは既に、未踏の地だった。少年の足 はしっかりとリズミカルに運ばれ、目標の 場所へ進められていく。彼が目指す目標は 一つ。活気に溢れる人間の町。彼が夢見て やまない、あの勇姿に会える場所だった。
腰に下げた弁当と短剣に時折手をやり、 少年の心と足取りは、尚もテンポを上げて ゆく。幼い日に救われた淡い記憶と、そこ から生まれた憧れは、少年らしい好奇心と 一体となってかくも動き出す。そこに於い ては、家族や親族の反対など足止めの役割 には価しなかった。 うぶ毛をまとう耳を興奮のままに震わ せ、少年の足はいよいよ、住み慣れた森を抜 けた。
少年の名は、クッカ。小さな体いっぱい に詰め込んだ憧れに、彼の瞳は、じつに生き 生きと輝いていた。 平原を見渡せば、遥か遠くを横断する一 本道が望める。少年はその道に沿うように 歩き進めた。列んだ岩の間に身を隠すよう にして弁当を食べたクッカ少年は、更に歩 を進める。途中、一本道を何台かの馬車が 軽やかに駈けてゆくのを目にするたび、馬 上の人間の姿を目で追った。
クッカの種族から見れば人間は大きくて 四肢も長く、器用で賢くもある存在。怖れ ずにはいられない存在なのだが、クッカに とってはその大きささえも彼ら の器の大き さを示すものだと感じられた。
しばらく進んでいい木陰を見つけたクッ カは、くたびれた足を投げ出して大の字に なる。そよぐ風は程よく乾き、ひんやりと 心地良い。そのまま大きく深呼吸を繰り返 すと、不意な眠気が襲ってきた。クッカは それに抗うことなく身を委ね、穏やかな眠りへと落ちていった。
どのくらい経過しただろうか。鳥の囀り を耳に目覚めたクッカは、その囀りに、どこ となくけたたましさが混ざっているのを感 じた。 慌てて身を起こそうとするクッカの両足 の動作を、何かが制限する。それは、硬い革 のベルトのようだった。あろうことか、両 の足首が、それによってきつく固定されて しまっている。
「お、目覚ましたぞ」
「すげえな、犬みてえ」
「何言ってんだよ? これ猿だろ」
「まあどっちでもいい。新種らしいから高 く売れるぞ」
頭の上で飛び交う会話。クッカが見上げ ると、そこには五人の人間の姿があった。 金属の胸当てをビカビカと光らせた彼ら は、この荒野に巣くう盗賊の一味。クッカ は盗賊にとっての恰好の「収入源」らしい。 腕も縛りあげられて猿轡を施され、クッ カは薄汚い幌馬車の荷台に放り込まれた。
鞭がくわえられて馬が走り出すと、さっ きまで優しい木陰を提供してくれたあの木 が、ぐんぐん遠ざかってゆく。 生まれ持った本能が方角だけをかすかに 認知させる中、クッカはただ呆気にとられ、 それが少しずつ大きな怖れに変わっていく のだけを、感じていた。




