もう、リュックに入らない
職を探して西へ東へ。
当然ながら、赤子連れを日雇いしてくれるような職場はなかなか見つからない。最初に好条件を引きすぎたことを痛感する。
あれだけこちらの都合を慮ってくれる、人の良い職場はそうそうない。世に避けられる三つのKが、心根の良いガチムチ聖人達を守ってきたのかもしれない。彼らが詐欺にあって財産を失ったりしないかと、うみんちゅは地味に心配している。
急なこと故に他の作業現場を世話してくれる可能性はまだあるのだが、如何せん今のところ知り得る現場は自宅から離れすぎていた。
流石に交通費までは出ないので「赤字ギリギリになるからもう少し探してみる」と言って断った。お陰様で以前より状況は切羽詰まっていないから、と。
嘘ではなかったが、急にあの現場から締め出されたのは、うみんちゅだけではないのだ。役立つ者から仕事が回されるとなれば、資格も勤続年数も縁故もない日雇いバイトマンは雇用の優先度が低い。
他人を押し退けても稼ぐ気概がないというわけではないのだが、ぽっと出のこちらが赤字ギリギリで雇われるくらいならば、もっと条件の良い彼らが働く方が雇用主も被雇用者も利を得られる。
その方が諸々マシだろうと合理的に判断しただけだ。ツンデレてなどいない。いないったらいない。
何かあれば仕事を回してくれると現場の皆は力強く言ってはくれたが、例えば急な休みの穴埋め要員をするのもツインズには難しい。何せ連絡手段がない。
便利なスマホどころか家にも電話自体がなく、本名で届け出てもいないうみんちゅには郵便物も届かない。
連絡先を伝えることが不可能なのだ。だから、急なフォローには入れない。
聖人達には何日かに一度顔を見せに来るよう言われてはいるが、うみんちゅとしてはこのままフェードアウトしても構わないと考えている。
念の為の言い訳として、「何だか親類達がこちらに連絡を取ろうとしているようだ。親族の都合で、急に顔を出せなくなることも有り得るが、心配しないでほしい」と、けなげそうな顔をして伝えておいた。
なぜフェードアウトを視野に入れ始めたかというと…自転車すらもなく、より重くなってきた赤子を抱いての長距離移動は辛くなってきたのだ。
おんぶ紐も代わりになりそうなものもなく、スクスク育った弟はリュックが破れそうな大きさと重さになってきた。ここまで育ってしまえば、
鞄に入れて背負う様は、周囲にも笑いよりは不安や不審を植え付けてしまうだろう。下手をすれば通報だ。
自力で歩かせようにも、あまり運動しない魔法使いは体力が少ないし、そもそもサイズがすぐ小さくなるような子供靴など資金難で買えない。
例え本人がうっすら浮いていたとしても、靴下すらもないのだ。裸足で赤子を歩かせるような虐待は他者の目に触れてはいけない。本気の通報ものだ。
今となっては服ですら、ガチムチ聖人達の貢物数点を大事に着回している。初期の赤子服など、もはや全然サイズが合わず着られない。
2枚ほど破いたうみんちゅは既に諦め、昼は父親服、夜は裸族だ。出歩かないのなら、やまんちゅもタオルでもマントにして過ごしていれば良いのだ。
しかしそうすると善意のお下がり服も貰えなくなり、より外出が難しくなっていく。
服や靴が作れたら。いっそ無人島だった方が生きやすい気がしてきた。そう、糸紡ぎやら草履が編めたなら…なんてふと現実逃避する。
現代に生きているはずなのに、自分達だけがやけに原始的に生きている気がする。
『…妙な気配がするな』
「またぁ?」
思わずうみんちゅがこぼすのも無理のないことだ。あの失職の原因となった陥没事故の日以来、やまんちゅは時折そんな事を言うのだ。
そして、どの辺かと問うてもそうそう場所の特定もできない。また地面が陥没しても困るのだが、原因探しを試みたところで、彼らに対処はできないであろう。
それでも、不穏な気配を探してお散歩コースを広げてしまう真面目な二人だ。
少しでも先に、余裕を持って異常を感知できれば、突然の道路陥没による怪我人を減らせるかも知れない。そんな考えが根底にあったのかもしれない。
「こうなったら、少しその違和感を重点的で探っていくか。危なさそうならやめるけど、無視して何か取り返しがつかないことが起こるのも嫌だし」
『個人的にはガンガン魔力を噴き出してくれれば、お前が魔法を使える日も早まるのではないかと思うがなぁ』
「え。ホント? 期待するけどいい?」
『まだやめておけ。場に魔力が満ちたとしても、お前自身の魔力吸収量が…ゴミだ』
無情な弟の言葉に、うみんちゅは返す言葉を失った。




