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嘆きの屋敷 攻略編14

 投擲した先で勝手に相手を攻撃してくれる武器が無いのなら、いっそ攻撃してくれる人間の方を投げた方が効率的だ。そんな頭の悪い方法を現実世界で思いつく人間は恐らく皆無だろう。

 されどここはVRゲームの世界。必要なスキルとステータスが揃っていれば、ドラゴンでさえも担げてしまう。人間を砲丸代わりにする程度造作もない。


「あの時の有言実行ってか。お前のそういうトコ、俺は嫌いじゃないぜ!」


 彼はそのまま一言「失礼っ!」と口にして私の右手に片足を乗せた。右腕にかかる人一人分の重みはステータス強化により遥かに軽減され、まるで水風船でも持っているかのように錯覚してしまう。しかし、次いで肩に優しく置かれた手から伝わる信頼の熱は、確かに彼のものであると判った。


「こんのぉぉぉっ!!」


 滅多に出さない気合の一声を腹から出しながら、全力でルナセラを投げ飛ばす。時を同じくして床から跳躍していたマルク王は、残った片腕をイゾルデに向けて伸ばしていた。


「おいたはそこまでだぜ、王様っ!!」


 飛翔の途中で空中歩行に切り替えたルナセラが、接触ギリギリのタイミングで両者の間に割って入った。あまりに予想外の展開にさしものマルク王も驚愕した様子だったが、不意にこちらへ視線を寄こした瞬間、顔面の虚無が嵐のように渦を巻いて乱れたのが見えた。


「ドコまでモ我ノ邪魔ばかリしおっテあの愚物ガァァァッ!!」


「なるほどな。その顔はお前の心を映しているのか。単なる虚無じゃなく、自分以外の全てを貪欲に喰らう底なしの腹の内。腹黒って言葉がこんなにも似合うやつは初めて見たぜ」


「どけェっ!! 醜女(しこめ)風情ガ、我が道ヲ阻ムなァッ!!」


「てめえなんかに好かれたくてこの姿にしたんじゃねえっ!!」


 ルナセラの双剣が、苦し紛れに振るわれたマルク王の連撃を容易く弾き返す。コンマ数秒に無数の剣戟が打ち鳴らされた後、彼は剣の柄頭同士を触れ合わせるように構え直した。


「せっかくだ。俺のとっておきを見せてやるよ。———今此処に相克は融解し、無限の円環を得ん! いざ背を合わせよ! 双刃連結(そうじんれんけつ)っ!!」


 彼の掛け声に合わせて二振りの剣が輝き出す。右手に紅炎(こうえん)、左手に蒼氷(そうひょう)。両者の発する属性が柄頭を境に混じり合い、その色を次第に紫へと変えてゆく。

 いや、それだけではない。今しがたまで二本だった剣が各々の持ち手を中心に融合していく。手前と奥それぞれの刃に紫色のオーラを纏ったそれは、まさしく両刃剣と称されるものに間違いなかった。


「ソノ剣……まさカ、冥府ノ……!?」


「さぁ、こいつを食らって落ちなマルク王っ!!」


「ヤメロ……ヤメロォォォォォッ!!」


 何やら酷く怯えた様子のマルク王が黒剣をルナセラへ振るう。しかし、それよりも早く彼は宙を蹴ると、振り被った両刃剣を奴の頭蓋へと叩きつけた。


「———日輪緋炎斬(にちりんひえんざん)っ!!」


 突如として部屋内を紫色の輝きが満たし、同時に両刃剣から噴き出た紫炎がみるみるうちにマルク王の腐体を溶かしていく。その様はまるで太陽表面に舞う炎のようで、ルナセラを中心に現れた日輪はジワジワと確実に奴の全身を縦に両断した。


「ア゙ア゙ア゙……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!?」


 紫色の業火の中からこの世のモノとは思えない断末魔が上げられる。両断された身体の中心が最初に焼け落ち、続いて両手足が黒く炭化して周囲に散ってゆく。それでも、最後に残った虚ろな顔面だけは崩壊を拒絶し続け、喉元に炎を留めたまま床に落ちていった。


「今度こそ終わり……っと、やべっ。このままだと俺も落ち…………ない?」


「イゾルデが……ルナセラを抱えて」


「ほぇー、霊体でも触れられるんにゃね」


「まぁ、普通の幽霊(ゴースト)も物理完全無効ってわけじゃないし、彼女ぐらい力のある存在ならあれくらいは造作もないのかも」


 幽霊(ゴースト)に抱えられるという珍しい体験を経て彼が無事に帰還した後、私達は未だに頭部だけ残っているマルク王の所へ向かった。とどめを刺そうとしないこちらを見て、奴は首を小刻みに震わせて弱々しく笑った。


「カカカ……よモヤ……敵ニ情けヲ……かケよウとはナ……」


「別に、これがお前にとって一番屈辱的だと思ったまでだし」


「……小娘ガ……タダノ……畜生ノ腹カラ……生まれた分際デ……」


「まだ言うかこいつ。どんだけ傲慢なんだよ……」


『……マルク様……いいえ、ケルノウの王よ。私は、貴方様のお心が理解できません……。何故、そんなにも他者を蔑むのですか……?』


 おもむろに前へ進み出たイゾルデが、跪いて床に転がるマルク王へ尋ねる。その目に浮かんでいたのは恐怖ではなく憐れみに似た何かだった。


「フン……知レたコトヲ……我ハ王ダ。権威アル者ガ……それヲ誇らズシテ何トスル……」


『……いいえ、それはただ民に服従を強いているだけに過ぎません。権威というのは民の羨望あってこそ……かの騎士王は理想を掲げ、民を導いたが故に崇められた。貴方様はそれをよくご存知のはずでしょう……?』


「ククク……アーサー王か……アレは土台カラしテ人デハなイ……我ガ目指すニは、あまリにモ…………アア、ソウダ……我ハかの王ニハなレぬ……故に、我が目はアレを見なンだ……」


 誰しも他人にはなれない。それが理想に限りなく近い存在であれば尚更だ。彼は自らがアーサー王になれないことを理解したが故に、かの騎士王とは別の方法で覇を築くことにした。きっかけは不明だが、もしかするとトリスタンから騎士王の話を聞くうちに、何かしら心境の変化があったのかもしれない。

 全ては彼と天上の神のみぞ知る。そして今日、彼はその裁きを受けたのだ。


「イゾルデよ……我ハ……貴様ヲ……呪イはセヌぞ……」


『それは……何故ですか……?』


「分カリキッタコトヲ……己がモノヲ……我が愛デヌ道理ハ……無イ……」


『……いつか……いつか私も、この身の罪を贖う時が必ず来ましょう。形はどうあれ、貴方様を謀ったことに変わりはないのですから』


「……ヨイ……モウよイのだ……全テハ……トウノ昔ニ……終ワッテイタノダカラ……ナ……」


 直後、マルク王の顔を覆っていた虚無が剥がれ落ちる。彼の魂が消えたからだろう。不完全な状態ながら修復されたそれは、暴君の死に顔にしては酷く安らかだった。最後に首元の炎が鼻先までを覆い尽くし、『虚無に囚われしマルク王』は完全消滅したのだった。



〈特殊エネミー【King Mark The Hollow Prisoner】を討伐しました〉

〈特別報酬と称号『残響を討ち払う者』を獲得しました〉

〈チャレンジクエスト【か■■に■国■■■■む】の一部条件を達成しました〉

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