失ったものと得られたもの
ルナセラからここまでのあらましを聞いた私は、あまりの羞恥で顔から火が出そうになった。
幽霊に会った瞬間に卒倒ならまだ受け入れられたが、まさか悲鳴を上げて廊下を爆走し、近づいてきた魔物を片っ端から薙ぎ払っていたなど馬鹿げているにも程がある。挙句の果てにそれら全てに関する記憶を失くし、半ば夢遊病状態のまま彼に斬りかかろうとしたと、当人の口から聞かされるとは。ここが現実なら今すぐ刀で自害していたところだ。
「その……本当にすまない」
「いいって、もう気にしてないから。ほら、お前の倒した魔物のドロップアイテム。拾わずに走って行くもんだから、ヘンゼルとグレーテルかってぐらい道なりに落ちてたぞ。まぁ、おかげですぐに見つけられたけどな」
システム越しに譲渡申請されたアイテムは実に十数個にも上った。
幽世の灰(幽霊)、腐敗した硬骨 (ゾンビ)、不死の心臓(喰人種)、常闇の外套(幽霊のレアドロップ)などなど。中には大歴の包帯なんてものもあったが、もしかしなくても説明された三種以外の魔物もいるのか。
受け取り画面に並んだアイテム群を眺め、しかし私は【いいえ】のボタンをタップした。
「……要らない。迷惑かけた詫びとして取っておいてくれ」
そして可能なら今回の出来事については即刻忘れて欲しい。所謂口止め料だ。こういうのは先んじて払っておくに限る。
だがしかし、ルナセラは数秒と経たずに二回目の譲渡申請をしてきた。
「それはできない。過程がどうであれ、これらはリュウナが魔物を倒して手に入れたアイテムだ。それを迷惑料みたいな感じで受け取るのは俺の流儀に反する。それに、元はと言えば俺がこの場所にお前を連れてきたのが原因なんだ。こっちこそ、何か詫びでもしないと気が済まない」
「…………お人好しめ」
確かにここを狩場として提案してきたのは悠真の方だ。だが、それを言ったら事の発端は私が彼にジョブや専用武器について相談したことにある。そしてそう返せば、昨夜に電話をかけてきたのは結局自分なのだからと、彼は自らに非があることを再度主張するだろう。
だから私は何も言わずに【はい】のボタンをタップし、その指先をビッとルナセラへと向ける。
「なら今回は貸し一つだ。今後お前が困った時に私が無条件で手を貸す。それが嫌なら他の借りとチャラにするとか……ああそうだ。この間メールで話した交換条件の菓子、あれを一個まで減らすでも構わないぞ」
「……いいや、貸し一つの方でいいよ。七弥が俺に借りを作るなんて滅多に無いことだしな。それに七弥、和菓子好きだろ? 諸々の礼も兼ねてちゃんと御馳走するよ」
彼はわざとらしく首を竦めると、現実の彼と瓜二つの仕草で笑顔を作った。
律義が過ぎる。自分に有利な条件が出されたのにそれをあっさり断るとは。
「欲が無いな、お前」
「無欲で結構。元々貰いすぎなぐらいだったんだ。こういうのは揺り戻しが来る前に払った方が後々の為になる」
「……? どういう意味だ?」
「別にどうでも。それよりも一旦自分のステータスとか確認してみたらどうだ? 結構な数の魔物を倒したっぽいし、レベルも上がってスキルも獲得してるんじゃないか?」
そう言われてはたと気づく。大分慣れてきた手つきでメニュー画面を操作し、急いでステータスの欄を開く。真っ先に視界へ飛び込んできたレベル表示に私はぎょっとした。
「れ、レベル 21 ……だと」
「おお。あの短時間でかなり上がったな。元々レベルが低かったのもあるけど、恐らく武器の相性が良かったんだろう。本当なら俺がある程度弱らせてから、リュウナに倒してもらう戦法を取るつもりだったんだが……もうその必要も無さそうだな」
「むぅ……。ちなみにここの魔物のレベルって幾つなんだ?」
「一番下は 15 ぐらいで、今まで戦った中での最大値は 40 だったかな。屋敷内の場所によって結構幅があるんだよ。この近くは比較的弱い敵が出るんだけど、ここから遠い所……特に一階の西側には強力な敵が出やすい印象だったな」
「西側……そういえば、私が進んできたのはどっち側からだった?」
「確か西側からだったな」
「なるほど」
ということは、ほぼ確実に洋館の西側に何かがある。恐らく彼もその事には気付いているだろう。私も個人的に気にはなるが、十中八九パンドラの箱なので今後はなるべく近付かないようにしよう。
次いでスキルの欄に移る。こちらは嬉しいことに【居合切り】と【ステップフット】を獲得していた。前者は単純に敵を斬りまくっていた所為、後者は屋敷内を全力疾走していたためだろう。そして更に、予てよりエムから示唆されていた【オリジンスキル】なるものも獲得していた。しかも二つ。
一つは【剣聖ノ圧】。効果は範囲内の敵に特殊な状態異常『恐慌』を付与するというもの。恐慌状態の敵はこちらとのレベル差に応じた時間、行動を阻害されるらしい。CTは効果解除後一分間なので、結構使い易そうだ。
もう一つは【金剛穿刺】。こちらはどうやら攻撃スキルのようだった。色々と気になる説明文はあったが、具体的にどんな技なのかは試してみないと分からない。
何はともあれ、受けた恥に見合うものは得られた。私が柄にもなくほくそ笑みながらメニューを閉じると、ルナセラはシュタッと立ち上がって続けた。
「よし。それじゃあそろそろ本来の目的に移るとしますか」
今度ばかりは十五分間の休憩を強く要請した。
PN:リュウナ 所持金 [2673 G]
メインジョブ:剣聖 Lv. 21
サブジョブ:※解放条件未達成
《ステータス(成長係数)》
HP(生命力):300
MP(魔力):90
SP (スタミナ):140
STR(筋力):130(40)
VIT(耐久力):10(0)
DEX(器用さ):35(5)
AGI(敏捷性):110(30)
INT(知力):30(5)
LUK(運):65(20)
《装備(見た目)》
武器:聖刀〈無窮合一〉 ウェッポンスロット①:無し
頭:無し(無し)
胴:無し(剣士の着物)
両手:無し(無し)
腰:無し(剣士の袴)
両足:無し(剣士の足袋)
アクセサリー:無し(清純の髪留め)
《オリジンスキル》
【剣聖ノ圧】
【金剛穿刺】
《コモンスキル》
【居合切り Lv. 2】
【ステップフット Lv. 2】
《加護》
・剣神の加護
・■■■■(※解放条件未達成)の加護?
あれれ? 結構な数倒した割に所持金が少なくない? と思ったそこのあなた。勤勉ですね。
しかしこれには明確な理由があります(無かったら運営に凸案件)。
皆さん想像してみてください。幽霊が金を落としますか? あんなスケスケの幽体のどこに金を隠し持つというのですか。グールもゾンビもわざわざ金を抱える必要ありますか? それよりも機動力上げて人を襲いやすくした方が効率良いでしょう。そういうことです(どういうことです?)。
それでも多少の金を落とすのは偏に、以前襲った人間の金品が体内に残っていたからというゲーム的な設定です。え、何故体内なのかって? そりゃあねぇ……。
余談ですが、ルナセラは既にゲーム内で一戸建てを買えるほど稼いでいます。




