表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/158

第二十九話③『放課後』



嶺歌(れか)さんは既に平尾様のお気持ちにお気付きなのですね」


 そう言ってバックミラーから優しく微笑む兜悟朗(とうごろう)が見える。


 嶺歌はそんな彼の表情に心を奪われながらも小さく頷いてみせた。しかしそう口にするという事は、兜悟朗も彼の気持ちに気付いているという話になる。


 嶺歌は感心しながら兜悟朗に言葉を返した。


「兜悟朗さんもお見通しだったんですね。あたしは直接確かめたので、本人に聞くまでは確信を持てませんでした」


 チラリと形南(あれな)と平尾に話を聞かれていないか後ろを見やったが二人はお互いの空間に浸っている様子で甘い雰囲気を維持したまま言葉を交わしており、こちらの会話には気が付いていない様子だ。


 それに安堵しながらもしかし嶺歌がより一層声を潜めて兜悟朗に言葉を向けると、兜悟朗は笑みを零した状態でこのように答え始める。


「平尾様は正直なお方ですので、それがなければ僕も確信を持てませんでした」


(あ、また僕って言った)


 慣れたはずの彼の一人称に嶺歌はドキンと胸が弾むのを実感する。謙虚な言い回しにも胸は高まっていた。


 会話に戻らなければと思いながらも再び心臓の音がうるさく鳴り響き、嶺歌は平静ではいられなくなる。そして嶺歌は兜悟朗のもう一つのあるところにも同じようにときめきを感じていた。


(兜悟朗さん、洞察力凄いな)


 平尾の感情は分かり易いと言えばそうなのだが、平尾はコミュ障を多少持っており、どんな異性に対しても顔を赤らめてしまう事はある。


 そのような場面は何度も見てきたし、ダブルデートをした時も彼は会計の女性と手が触れただけで顔を真っ赤に染めていたのだ。ゆえに形南が好きだから彼が顔を赤らめるという答えには中々辿り着けない筈なのである。


 だが兜悟朗はそれを見破り、平尾が形南を想っているのだと断言していた。


 そんな兜悟朗の洞察力に長けた万能な姿を再び目にした嶺歌は、彼への想いが溢れそうになっていた。


「楽しみですね」


 彼への胸の高揚感を持ちながらも、嶺歌は形南と平尾に意識を向ける。そうして本心から思っていた言葉を小さく口にした。


「はい、そのような日を迎えましたらとても喜ばしいですね」


 すると兜悟朗(とうごろう)は満面の笑みを溢しながら正面を見据えてそう答える。


 言葉だけではなく彼の表情からも形南(あれな)の幸せを心から願っている事が伝わり、嶺歌(れか)はあたたかな気持ちを感じていた。


 兜悟朗の形南に向ける親愛的な感情は、彼を好きになった今でも偽りなく嬉しいと思う自分がいる。形南を羨ましいと思ったり、俗に言うヤキモチという感情を抱く事はなかった。


 それはきっと嶺歌が形南を本当に尊敬するべき友達として慕っており、そして兜悟朗の形南に対する敬愛自体を嶺歌が素敵なものであると心から感じているからなのだろう。


 二人の主従関係は今後もずっと続いてほしいと、そう思ってしまう程に嶺歌はこの二人の関係が好きになっていた。


 兜悟朗と微笑ましく思える会話をしていると彼は「そろそろ到着致します」と嶺歌に教えてくれる。


 そこで嶺歌は今日の向かう先を形南から聞かされていなかった事を思い出し、これからどこに向かうのか兜悟朗にそのまま質問を投げ掛けてみた。


 すると兜悟朗は柔らかな笑みを維持したまますぐに答えてくれた。


「商店街で御座います」


 それを聞いて嶺歌は形南がしたいと考えている事を理解する。


 きっと普通の女子高校生として『同じ学校の友人らと放課後そのまま遊びに来た』という体験をしてみたいのだろう。


 実際同じ学校ではないが、形南は現に今秋田湖高校の制服を身に付けており、側から見ればどう見ても同じ学校の友人同士に見えるはずだ。


 そう思い、形南と平尾の方へ目を向けてみると二人は未だにどことなくいい雰囲気を保ちながら静かに会話を交わしていた。


 そんな二人の様子を喜ばしい思いで再び見ていると、嶺歌たち四人を乗せたリムジンがゆっくりと停車する。


「ご歓談中失礼致します。形南お嬢様、到着致しました」


 兜悟朗は車を指定の場所に停車させると後ろを向いて形南たちに声を掛け始める。


 彼の顔が後ろに向いたことで嶺歌は少しだけ心が躍った。先程まで視線だけで会話をしていた兜悟朗が顔をこちらに向けさせただけでこれだ。


 嶺歌は己の兜悟朗に対する気持ちの大きさを再び認識しながらも形南と平尾に目を向けた。


「あれな、平尾君。商店街だって」


 すると形南はこちらに顔を動かすと嬉しそうに「平尾様、嶺歌! 参りましょうですの!!」と声を弾ませる。


 その形南の興奮ぶりに嶺歌は口元が更に緩み、平尾もどことなく微笑ましそうな表情を形南に向けていた。


 嶺歌たちはそのまま兜悟朗のエスコートでリムジンから降車すると広々とした商店街のゲート付近に足を向け始める。


「それでは皆様、ごゆっくりお楽しみ下さいませ。何か御座いましたら直ぐにお向かい致します」


 兜悟朗はそう言って深いお辞儀をする。どうやら彼は今回留守番のようだ。


 その事を少し残念に思いながらもしかし今回の目的は形南が同年代で遊びたいという目的からきている事を思い出して嶺歌は考えを改める。


 兜悟朗にはまたこの後すぐに会う事ができるのだ。


 そう思うとそれがまた楽しみになり、それに純粋に形南と街を歩けるのは嬉しかった。嶺歌の気持ちは簡単に前向きなものへと戻れていた。


(みんなで商店街かあ……楽しみ!)


 形南と平尾の三人でという組み合わせは初めてだ。


 嶺歌は二人の仲がそれとなくいい雰囲気であればその都度背中を押そうと考えながら商店街の中へ入っていった。



第二十九話『放課後』終


      next→第三十話(7月23日更新予定です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ