第二十七話②『報告と苗字』
「兜悟朗は見た目は勿論の事、年齢などで可能性を断たれてしまうような殿方ではありませんのよ」
それを聞いて嶺歌はひどく納得をした。
確かに兜悟朗が見た目や世間の目を気にしてそのような判断をする人物にはとても見えない。
彼は優秀で、きっと嶺歌が思っている以上に様々な事に思考を巡らせるそんな男性だ。
(兜悟朗さんは年齢なんか気にしないか……)
そう思うと勇気が出てきた。嶺歌は形南に視線を戻しながら言葉を口に出す。
「じゃあ……アピールするのはアリだと思う? 今は兜悟朗さんにそう思われてなくてもあたし頑張りたいんだ。もっと自分を出していきたいんだけど」
現時点で彼が自分をそういった対象に見ていなくても、形南の言う通り差別をしない兜悟朗の事だ。どんなに低くても可能性は確かにある。嶺歌は形南の言葉で不思議とそう思える様になっていた。
兜悟朗を好きな気持ちは日々の生活で大きくなっている事から、確実に否定しようのないものだと何度もそう認識していた。
ゆえに出来る事なら兜悟朗とのお付き合いを目指してアピールをしていきたい。
そんな気持ちを胸に嶺歌がそこまで言うと、形南は席を立ち嶺歌の両手を握ってきた。
そうして強い意志を持った眼差しでこう口に出してくる。
「勿論ですのっ! 攻めまくってなんぼですわ! 動かれてこそ、進展に繋がるのですのよっ!! それにお好きな相手に自分を知って頂きたいと思われる感情は当然の事ですのっ! それが恋ですの!」
形南は勢いよくそう力説した。
そんな彼女の興奮した様子に嶺歌は呆気に取られるが、しかし形南の真剣な表情を見てこの女の子に相談をして良かったと心から思えていた。
形南がなぜ平尾にああも熱を上げているのかも今ならよく分かる。
その人を好きになるともう、その相手の事ばかりを考えてしまうのだ。そしてそれが酷く楽しくて、飽きずに延々と考える事ができる。
それが恋なのだと、嶺歌はこの年になってようやく理解していた。
嶺歌は形南に握られた手をぎゅっと柔らかく握り返すと「ありがとあれな」と歯を見せて笑う。
形南もその表情を見て安心してくれたのかホッとした顔を見せるとゆっくりと座席へ腰をかけ直し、嬉しそうに微笑んだ。
「兜悟朗の事でお聞きしたい事がありましたらなんでも仰ってね。応援致しますの!」
「ありがとう。知りたいことはたくさんあるけど……」
嶺歌はそう思い、重大な事に気が付く。自分は兜悟朗を好きだと言っていながら、彼の苗字を知らない。
(うわ、知らなかったんだあたし)
想い人のフルネームを知らない事態に驚愕した。一刻も早く知りたい気持ちが急いてくるが、しかし順序というものがある。
嶺歌の顔色が変わった様子に形南は不思議そうに顔を傾けると「どうされましたの?」と問い掛けてくる。
嶺歌はすぐに彼の苗字を知らない事を彼女に説明した。
「あら、それなら私がお教えいたしますの。兜悟朗の苗字は……」
「あ、ちょっとストップ!!!」
善意で口にしてくれているであろう形南に嶺歌は勢いよく手を前に出し制止させた。形南には申し訳ないが、嶺歌はこのような形で知りたくはなかった。
「ごめんあれな、あたし、兜悟朗さん本人から聞きたい」
そう言って形南に両手を合わせて謝罪する。
形南は驚いた様子で口を開けてこちらを見ていたが、嶺歌の言っている事を理解してくれたのか瞬時に笑顔に戻ると嬉しそうに同意の声を発してきた。
「そのお気持ち、素敵ですの! 分かりましたわ! この後兜悟朗に会ってお行きなさいな。私がセッティング致しましてよ!!」
「えっいいの?」
「当然ですの! 他でもない嶺歌の事ですのよ!」
形南は即座にそう答えると早速行こうと素早く席を立つ。
嶺歌は思いがけぬ彼女の行動力に流されるがまま会計を済ませ喫茶店を後にした。
喫茶店を出ると直ぐにメイドのエリンナがやってきて三人でリムジンへと乗車する。そして無駄な時間がなかったと言うしかない程あっという間に高円寺院家の自宅まで到着するのであった。
next→第二十七話③(7月14日更新予定です)




