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第二十七話①『報告と苗字』



「あれな、あたし兜悟朗(とうごろう)さんの事好きになっちゃった」


『まあ!!!!!!!』


 翌日の放課後、形南(あれな)に電話がしたいのだと事前にレインを入れておいた嶺歌は、彼女から電話がかかってくるとすぐに兜悟朗への想いを形南に告白していた。


 形南からは一瞬の間も無く感嘆の声が返ってきており、彼女は心底嬉しそうな声色でこちらに言葉を送り始める。


(わたくし)とっても嬉しくってよ!! 今とても自分の事のように胸がドキドキしますの!!!』


 本当に自分の事のように喜んでくれる形南を嶺歌(れか)は嬉しく思った。同時に良い友達を持ったと再認識する。


 嶺歌は照れながらもありがとうと言葉を返すと自身も胸を弾ませ、そのまま言葉を続けた。


「今度詳しく話聞いて欲しいんだけど、いつ空いてる?」


 嶺歌がそう尋ねると形南は興奮した様子ですぐに返答してくる。


『そのような事態、急いで時間を取りますの!! そうですわね、明後日(みょうごにち)でしたらお時間取れましてよ!』


 形南はこちらの話に興味津々だ。それがまた嬉しく、嶺歌は思わず笑いが出た。形南の真剣に聞こうとするその姿勢がとてつもなく幸福な事に感じられたのだ。


 そして形南にとって誇り高い執事との恋を、迷う事なく応援してくれるその姿勢がまた嬉しいと思えていた。


 嶺歌は形南にじゃあその日にしようと返事を返すとそのまま通話を終える。


 気持ちは先程よりも高揚しており、嶺歌は家に帰るとすぐに魔法少女活動に精を出して、己の喜びを慈善活動に奮うように動いていた。




 形南(あれな)と約束通りの時間に近場の喫茶店で会うと、形南は珍しく兜悟朗(とうごろう)ではない人物をお付きとして従えていた。


 執事ではなくメイドだった。以前形南の自宅に訪れた際に遠目から一度目にした事があるような気がする。


「本日は兜悟朗がいない方が宜しいかと思いまして、人を替えましたの。メイドのエリンナですわ」


和泉(いずみ)様ご挨拶申し上げます。形南お嬢様にお仕えしております里山(さとやま)エリンナと申します。以後お見知り置きを」


 そう言って長いスカートをひらりと上品に持ち上げてお辞儀をする。


 流石は高円寺院家のメイドだという感想しか出てこない程に洗練されたその所作は、彼女がプロのメイドであるという事を瞬時に理解させていた。


 嶺歌(れか)は彼女の丁寧な挨拶に失礼のないようしっかりと目を合わせて挨拶を返す。


「和泉嶺歌です。こちらこそよろしくお願いします」


「ではエリンナ、貴女は暫く席を外してちょうだいな」


 形南はエリンナに視線を送ってそう言うと、彼女は承知いたしましたと言葉を告げ、その場を素早く立ち去る。関係者に話を聞かれないよう気を利かせてくれたのだろう。


 嶺歌は形南の気遣いを感じながら彼女にお礼を告げる。


 形南は終始ニコニコと微笑みながら、嶺歌のお礼に言葉を返すと待ちきれない様子で「それではお聞かせくださいまし!」と身を乗り出して話の詳細を尋ねてきた。


 形南の目はいつも以上にキラキラと輝きを放ち、嶺歌の初恋話が早く聞きたくてたまらないといった様子だ。


 嶺歌は照れ臭い思いを抱きながらもしかしそれ以上に他でもない形南に聞いてほしいという感情が何倍も大きかった。


 形南に促されるがままに最近起こった自身の心境の変化を彼女に伝え始める。


 だが兜悟朗(とうごろう)の一人称に関してだけは黙秘する事を決めていた。


 彼は自分の主人に砕けた言葉で会話をする執事の印象を抱かせたくないとあの日確かに言っていたのだ。彼の意向を無視して形南(あれな)に伝えてしまうのは嶺歌(れか)も望んではいない。


 そのため兜悟朗の一人称の件以外の話を形南に話す事にしていた。


 形南と平尾の尾行をした帰り際に、兜悟朗に手の甲へキスを落とされた事。そして、遊園地で彼を好きだと自覚した事。それ以前に彼にときめきを感じていた時の話もした。


 一通りの説明を終えると形南は頬を上気させ、心底嬉しそうな笑みを口元に浮かび上がらせながら「堪らないですわ」と声を上げる。


「兜悟朗がまさか嶺歌に口付けをしていたなんて初耳ですの! 不快でなかったようで何よりですわ! いえ、むしろ今の嶺歌にはご褒美になるのかしらっ!? きゃ~~~ですの!!!」


 そう言って両の頬に手を当てて首をブンブンと左右に振る形南の姿は嶺歌の火照った頬を更に上昇させていた。


 彼女の言っている事はまさにその通りだからなのだが、このようにして客観的な意見をもらうとやはり恥ずかしい。


「そうだね、凄く嬉しかった……だけど兜悟朗さんにとってあたしがどう映ってるのかは凄く気になる」


 嶺歌は正直な思いを形南に吐き出した。


 何度でも直面する問題だが、兜悟朗が年の離れた嶺歌をそのような目で見てくれるとは思えない。


 彼が恋心を覚えるのなら、きっとそれは自身と年齢の近い二十代の女性になるのではないだろうか。


「嶺歌、恋とは不可能を可能にしますのよ」


 すると唐突に形南はそんな言葉を口にした。嶺歌が内心でどう思っているのかを見透かしたかのようにそう告げるとこちらに微笑みを向けながら言葉を続けていく。




next→第二十七話②(7月13日更新予定です)

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