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第二十三話③『フラグのような』



「お嬢様と平尾様はイルカショーを見られるそうですね」


 レストランを後にし、形南(あれな)と平尾の姿を見つけた嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)は先程と同じように一定の距離を保ちながら尾行を再開した。


 するとすぐに形南からレインが届き、これからイルカショーを見に行くのだと報告が入ったのだ。


「あたし達も観客席にいた方がバレにくいですよね」


 嶺歌がそう告げると兜悟朗は「そうですね」と笑みをこぼし、そのままイルカショーの鑑賞に参加する事になった。


 形南と平尾はチャレンジャーな事に一番前の濡れてしまうこと必須な席に座り始め、雨ガッパを身に付け始める。


 形南が上手く着用できない所を平尾が手伝い何とか着ることが出来ていた。


 形南はいつも以上に頬を赤らめ、とても嬉しそうに笑顔で平尾を見ている。平尾の顔は見えないが、きっと彼の事だから照れているだろう。


(めっちゃ順調だ。もしかしたらワンチャンあるんじゃ?)


 二人の付き合いたてのカップルのような雰囲気を遠くから眺め、嶺歌は考える。もしかしたらこれは帰り際に告白を交わしてお付き合いに発展なんて事もあるかもしれない。


 そんな事を考えていると次第に自身の口元が緩み始めるのを実感する。二人のカップルが誕生したら、めでたいどころではないだろう。


 嶺歌はサイレント機能のカメラをスマホで起動し、シャッターを押した。形南と平尾の肩を並べて座る姿がとてもお似合いだったからだ。


 形南に撮影を頼まれたのは兜悟朗であり、嶺歌には頼まれていなかったが、きっとこの写真を彼女が見たら喜んでくれるに違いない。


 そう思っているとイルカショーの時間となり、煌びやかなショーが幕を開けた。




 イルカショーはそっちのけで形南と平尾の二人を観察していた嶺歌と兜悟朗は、ショーが終わると迅速に席を立ち、形南達と鉢合わせしないようにその場を離脱した。


 そうしてその後もいくつかのエリアに出向く形南と平尾を尾行していった。


 嶺歌と兜悟朗は二人ともデートの追跡に集中し、その間に私語を話す事はなかった。




 形南(あれな)と平尾のデートは終わりを迎えた。帰りは平尾に家の前まで送ってもらうのだと形南本人からレインが届き、嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)の尾行もいよいよ終わりが近づく。


 一日見ていた形南は本当に恋する一人の女の子であり、それを見れた事が嶺歌にとっても嬉しかった。


 そして彼女が本当に平尾を好いている事も今回の件で再認識する事が出来ていた。


(平尾君はどうなんだろ)


 彼の様子にも目を向けていたが、平尾の態度は恋なのかそうでないのかの判別がつきにくい。


 というのも、彼は女の子に対する免疫自体が少ないのでどんな子といても同じような態度を取るのではないかと容易く想像出来るからだ。


 その為、彼の気持ち次第でどのような状況なのかが大分変わってくる。


 嶺歌は形南と楽しげに会話をしながら帰路に着く平尾を観察するが、やはり最後まで彼の真意は分からなかった。


 この間の時のように彼が形南の金銭を狙っているという考えはもう今の嶺歌にはなかったが、平尾がどのような思いで形南に接しているのかは謎のままである。


 結局平尾は形南を大きな豪邸である高円寺院(こうえんじのいん)家の目の前まで送るとそのまま彼女に手を振り、立ち去っていく。


 形南が中へ入らないかと口にしていたものの「しゅ、宿題あるから……」と挙動不審になりながら断っていた。


 形南も形南で無理強いはせず笑顔で平尾を見送った。


 そんな様子を兜悟朗と二人で物陰から見ていた嶺歌は二人の雰囲気が前よりもいい感じになっているような、そんな気がして嬉しかった。


 平尾の気持ちは分からなくとも形南は彼を一直線に慕うだけだ。それ以外に彼女は選択肢を選ばないだろう。


 そう認識し、今日のデートが無事に終わった事に安堵していた。


嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)そちらにいますの?」


 平尾が完全に形南(あれな)達の視界から消えた時、形南から声が掛けられる。


 彼女の推測通りの場所に身を潜めていた二人はそのまま形南の前へ姿を現した。


「デートお疲れ。めっちゃいい雰囲気だったよ」


 嶺歌がすぐに手を振って笑みを向けながら彼女にそう告げると形南は嬉しそうに口元を緩ませながら「まあ、本当ですの?」と頬を染めた。


「嶺歌も兜悟朗もお疲れ様ですの。本日は(わたくし)の我儘に付き合ってくださって本当に感謝致しますの」


 形南はそう言うと嶺歌に向けて丁重なお辞儀をした。


 いつ見ても美しい姿勢のその一礼は、嶺歌が見ようみまねで体得できるとは思えない程のものである。嶺歌は笑いながら形南の謝礼を受け入れる。


「楽しかったから全然いいって。じゃああたしも今日はもう帰るね、今度改めて詳しく感想聞かせてよ」


 明日は明日で約束がある。クラスの友人らと数人で集まって遊園地に行くのだ。早起きの必要がある為そろそろお暇するのが賢明だろう。


 するとそんな嶺歌の言葉に形南はこんな事を口にする。


「それでしたら兜悟朗、嶺歌をご自宅まで送っていきなさいな」


「畏まりました」


「えっいいよ!!」


 形南の命令に瞬時に反応した兜悟朗に嶺歌も瞬時に反応を返す。


 ここから自宅までそう遠くはない。散歩にちょうどいいくらいだ。まだ外もそこまで暗くはない為、形南が夜道は危険だからと心配する必要も感じられない。


 嶺歌は彼女の提案を断るがしかし、形南ではなく兜悟朗が言葉を返した。


「嶺歌さん、不都合でなければ是非(わたくし)に送迎させていただけないでしょうか。お話ししたい事も御座います」


(話したい事……?)


 何だろうと思いながら、彼にそう言われ断りたくない自分がいた。


 兜悟朗と尾行している間も思っていた事だが、兜悟朗と共に行動するのは一切のストレスを感じられなかった。


 彼がそれを意識していての事なのか素の状態での事なのかは定かではないが、それでも嶺歌は兜悟朗と一緒にいる事に安心感を持っていた。


 そんな状態の嶺歌が断れる筈もなく「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」と小さく会釈をする。


 そう素直に声を発した嶺歌を前にして形南と兜悟朗は嬉しそうに微笑みを向けてくる。この主従は本当にお人好しだ。



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