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聖女と魔法の手紙

「……この手紙、魔法の類がかかっているな」


 そんな私とニーナの様子を一瞥されたお兄様は、すぐにお手紙の方に意識を移された。……あのね、お兄様。もう少し妹の心配をしてくださっても罰は当たらないと思うのですけれど? そう思ったけれど、ニーナが慌てたように「アナスタシア様!」と言ってくれたので水に流そう。やっぱり、ニーナは完璧な侍女ね。


「……魔法、ですか?」

「あぁ、特殊なものだ」


 お兄様はお手紙を汚いものでも持つかのように指でつままれる。そうすると、お手紙は風も吹いていないのにひらひらと不自然な揺れ方をした。……ちなみに、窓は割れているけれど、今風は吹いていない。


「……この手紙から感じる魔力だが……ジェレミー殿下のものだな」

「じぇ、ジェレミー殿下!?」


 ボソッと呟かれたお兄様のそのお言葉に、私は反応して勢いよく立ち上がる。そして、私はお兄様からそのお手紙をかっさらうように受け取った。……何の変哲もないお手紙だけれど、確かに微かだけれどジェレミー様の魔力を感じる……かも、しれない。ジェレミー様、一体何のためにお手紙なんて出されたのかしら?


「とりあえず、この手紙は今後の手がかりとして、このまま置いておくとして――」

「開けても、よろしいですか!?」

「……おい、アナスタシア」


 私の勢いのある言葉に、お兄様は呆れたような視線を私に向けてこられる。しかし、すぐに諦めてくださったのか「……あぁ、いいぞ」と答えてくださった。先ほど聞こえたため息は、無視をする。そうよ。それが良いわ。そう思いながら、私はお手紙の封を開けた。中にはシンプルな便箋が一枚。折りたたまれて入っていた。その便箋を開けば、そこには確かにジェレミー様の文字が綴られていて。


「……アナスタシア様?」


 ロイドの疑問を抱いたような声が聞こえてくる。ちなみに、中に綴られているお言葉は私の近況を問いかけてくるようなものばかり。……特に、手掛かりはなさそうだ。残念。そんなことを考えて、私がお手紙を閉じようとした時だった。不意に、ひらひらともう一枚便箋が降ってくる。……また、魔法?


 その便箋を掴んで開けば、そこに書かれていたお言葉は――たった一言。


 『明日、貴女に会いに行きます』


 それだけだった。それに驚いて私が目を見開けば、ロイドが慌てて私からその便箋を奪い取り、破り捨てる。……あぁ、貴重な手掛かりが。


「アナスタシア様。こんなもの、気にしなくてもいいです」

「……でも、手掛かりだったのに」


 ロイドの言葉にそう返せば、ロイドは「手掛かりとかそういうことよりも、アナスタシア様の方が大切です!」と言う。その後「俺が守りますので」と言ってくれた。その言葉は、素直に嬉しい。だけど、正直なことを言うとロイドじゃジェレミー様には敵わないと思う。いや、違う。ここにいる全員、ジェレミー様には敵わない。もちろん、ここにいらっしゃらないウィリアム様も含めて。


「……アナスタシア。悪いが、この手紙は預かるぞ」

「……はい」


 戸惑い目を揺らす私に対して、お兄様はそうおっしゃる。なので、私はジェレミー様からのお手紙をお兄様に手渡した。……明日、会いに来る、か。どうやって会いに来るかは、書かれていなかった。でも、ジェレミー様のことだ。魔法の才能を存分に活かしたりするのだろうな。あのお方は、稀代の天才だから。


「さて、報告は終わったな。……ミア嬢」

「……はい」

「どうか、アナスタシアのことを頼む」


 私が一人で考え込んでいると、お兄様は不意にそんなことをおっしゃって、ミアの肩を叩いていた。……なによ、それ。まるで私が問題児だとでも言いたげなお言葉ね。まぁ、実際問題児なのだけれど。


「アナスタシアは、これでもミア嬢のことを信頼しているはずだ。だから、どうか面倒を見てやってくれ」


 ……お兄様、本当に私のことを問題児扱いされているわね……。でも、前科がありすぎて何も言えない。突っ走ってきたのは、確かに私なのだ。これは、私が蒔いてしまった種なのだ。


「承知しております。私も……これでも、アナスタシア様のことを主として好いていますから」


 でも、ミアのその言葉は素直に嬉しかった。しかも、見せてくれる笑顔がとても可愛らしくて。あぁ、こりゃあ男ならば誰でも惚れるわ、なんて誰でも抱けそうな感想を抱く。だって、私も男だったらミアみたいな子と婚姻したいもの!


「ちなみに、一つだけ訊こう。正直なところ、アナスタシアのことをどう思っている?」

「そうですね……。少々おバカで、勝手に突っ走るお方、ですかね」

「同意だ。ミア嬢とは仲良くなれそうだ」


 だけどね、お兄様。そんな確認、しなくてもいいじゃない……! それに、ミアも馬鹿正直に答えなくてよろしい!


「ですが、そこがアナスタシア様のいいところです!」


 あとね、ニーナ。貴女も二人の言葉に同意しなくてもいいのよ。そう思って私がニーナの肩を控えめにつついたのだけれど、ニーナは何を思ったのか私の顔を見て力強く頷くだけだった。だから、そういう意味じゃないのよ!


(意思疎通が、出来ていないわ……)


 私がそう思って項垂れていれば、ロイドが「アナスタシア様が少しおバカなのは、今更ですよ」と言ってくる。……うん、貴方はもう少し主を敬いなさい。それから、気を遣って頂戴。どうやら、私の味方はここにはいなかったらしい。あはは……。

本来ならば昨日更新する予定だったのですが、華麗に寝落ちを決めましたので(おい)本日更新しております\(^o^)/

また二週間後に更新予定です。

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悪役令嬢離縁表紙


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