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聖女の命令


 ☆★☆


「アナスタシア様!」


 ミアを専属侍女として雇ってから三週間が過ぎたころ。私が私室にて書類と格闘していると、不意にロイドが慌てて私の元に駆けつけてきた。その表情は、いつもの涼しいものではなくかなり焦っているようで。……私は、何だろうかと思いながら「どうしたの?」とロイドをまっすぐに見つめてそう問いかけた。


「い、いえ……実は、ミアが階段から――」


 ――突き落とされました。


 ロイドのその言葉を聞いて、私は後先考えずに立ち上がってしまった。その後、薄手の上着を羽織り、ロイドに「ミアはどこ!?」と詰め寄ってしまう。そうすれば、ロイドは「第三医務室に運ばれました」と教えてくれる。……それを聞いて、私は慌てて歩き始めた。仕事なんて放棄だ。ミアの方が大切だから。


「……王宮は、警備がしっかりとしています。ですが、偶然にも一人になったところを狙われたようで……場所は、人気のないところでした」

「……そう、ミアも、気が気じゃないわね」


 確かに、王宮の警備はかなりのものだ。でも、やはり行き届かない部分はある。今回は、そこを狙われてしまった。……でも、問題は何故ミアがそんな人気のない場所に行ってしまったのかということ。……ミアのことだし、不用心に行動することはないと思うのだけれど。


(そう言えば、少しだけ顔色が優れなかったわね……)


 そんな時、不意に二時間前に見たミアの顔色が優れなかったことを思い出した。あれは、何かを心配しているときの表情だ。……もしかしたらだけれど、誰かに呼び出されたとかそう言うことは考えられないだろうか? もしも何かの弱みを握られていて、呼び出されたとすれば……きっと、ミアは後先考えずに行ってしまうだろう。


「ロイド。至急、ミアの警備を厳重にして頂戴。私の方の護衛も、付けちゃって構わないから」

「で、ですが、それではアナスタシア様が……」

「いいのよ。それに、私には貴方がいるもの。……だから、何の問題もないでしょう?」


 そう、私には絶対に裏切らないロイドとニーナがいる。しかし、ミアは違う。バネルヴェルト公爵しかまだ信頼できないはずだ。それは、容易に想像が出来た。なので、とりあえず数で勝負をする必要がある。ミアの周囲を厳重に警護することで、何とかけん制出来たらなぁという考えだ。


「ミアは、きっと不安の渦中にいるはずよ。……聖女候補だからとか、そう言う理由で彼女を守ることになったけれど、私はただ犯人が許せないのよ」

「……アナスタシア様」

「ミアは、私の大切な専属侍女。傷つけるのは、私に喧嘩を売っているのと同等の意味よ」


 少なくとも、ここ三週間ミアは真面目に働いてくれた。私のことを支えてくれた。だから、今度は私が彼女の支えになりたい。ミアの為ならば、頑張れる……気がした。


(ウィリアム様とミアは違う。ウィリアム様の為には頑張れないけれど、ミアの為ならばいくらだって頑張れる)


 心の中でそう決心し、たどり着いた第三医務室の扉をノックする。ここは、怪我をした侍従たちが治療を受ける場所。……私が三回扉をノックすれば、いつものおじいちゃん医者が出てくる。


「……アナスタシア様」

「ごめんなさい。ミアの怪我の具合が、知りたくて」


 私がそう言えば、おじいちゃん医者は「大事には至っておりませんよ」と言ってミアの元に案内してくれた。


「……アナスタシア様」

「ミア」


 医務室の簡易寝台に腰かけるミアは、腕と足を打撲しているようだった。そんな彼女を見ていると、何故か私が辛くなってしまう。……ミアは、私の大切な侍女だから。


「ねぇ、ミア。どうして、貴女は人気のない場所になど行ってしまったの?」


 出来る限り震える声を抑えて、私はミアにそう問いかけた。そうすれば、ミアは露骨に視線を逸らした。その後「……私の、祖母の形見が消えていて」とポツリと言葉を返してくれた。


「返してほしかったら、ここに来いという手紙が届いて……それで、私返してほしくて行きました。そうしたら……後ろから、誰かに押されて……」

「……そう」


 ミアが、家族を大切に思っていることは知っていた。でも、まさかそれが利用されてしまうなんて。そう思ったら、怒りしか湧いてこない。その怒りを必死に抑えて、私は「……勝手に行動しては、ダメでしょう」とミアに言い聞かせるように言葉を発する。


「申し訳ございません。ですが……いえ、何でもありません……」


 ……ミアは、まだすべてを話しているわけではない。それが、私に伝わってくる。しかし、深入りしても良いものだろうか? 私はミアのことを信頼しているし、大切に思っている。だけど、ミアはどうなのだろう。私のことを、どう思っているか――。


(ううん、そんなことを考えていちゃだめよ。私は図々しく生きなくちゃ。大切な人を守るためにも)


 けど、後悔するよりはずっとマシだ。そう思い、私はミアの肩に出来る限り優しく手を置いて、口を開いた。


「――ミア、これは命令よ。全て、話しなさい」


 そして、そう口走った。

書籍は今月の9日に発売しましたm(_ _"m)第一部を収録しておりますので、よろしければ読んでくださると幸いです(n*´ω`*n)

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悪役令嬢離縁表紙


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