聖女と情報通
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「クラウス。わざわざ呼び出しちゃってごめんなさいね」
「アナスタシア様が俺にそんな真剣な表情をして謝るなんて、明日は槍でも降るんですか!?」
「本当に失礼な輩ね!」
エルシャ様の訪問から数日後。私は懇意にしている情報通、クラウスと対面していた。
クラウスのフルネームはクラウス・ギャロウェイ。ギャロウェイ男爵家の子息であり、ウィリアム様の専属従者を務めている。しかし、最近退職することが決まっており、今はもっぱら引継ぎ作業をしているのよね。……退職後は田舎に引っ込んで、領地経営をしながら過ごすことになっている。……婚約者との仲も良好なようで、羨ましい限りだ。
「……貴方が忙しいって聞いたから、こっちは配慮してあげたのよ」
「まぁ、かなり落ち着きましたけれどね。あと数日で、王都を発ちますし」
そう言って、クラウスはけらけらと声を上げて笑う。クラウスが領主になる土地は、元は王家が所有していた土地。だけど、別の領主を立てることになり、私が推薦したのがクラウスだった。そう言う約束だったし、彼にも彼の幸せがある。いくら優秀な従者だからと言って、いつまでも私たちに縛り付けるわけにはいかないのだ。……なーんて、聖人ぶってみたけれど、本当のところクラウスと会いにくくなるのはかなりきつい。……情報が、買えないもの。
「ところで、本日のご用件は? まず言っておきますけれど、ジェレミー殿下の情報はありませんよ。……本当に、足取り俺でもつかめていないので……」
「そう。そこは予想済みよ。今回は、宰相の方だもの。……大臣とか、結構きな臭い動きをしているでしょう?」
「まぁ、そうですね。……俺も、あんまり大々的に動けていないので詳しいことはあまり、ですが」
クラウスはそんなことをぼやくと、持ってきた黒い鞄の中からいくつかの書類を取り出す。それを受け取りパラパラとめくってみれば、そこには宰相が握りつぶしたのであろう悪事の内容が書かれていた。……でも、まだ弱い。これでは、奴を失脚させるまではいかない。それに、言い訳をするだろう。
「聖女候補を襲った輩は、みなそろって『誰に依頼されたか覚えていない』ってほざいています。なので、そこら辺から情報を得るのも無理かと」
「そうなのね。ミアのこともあるから、手っ取り早く終わらせたいのだけれど……」
別に、ミアを侍女として雇うのが嫌と言っているわけではない。ただ、彼女の身の安全を考えるに、早めに自体は収めておきたいのだ。ミアの精神状態にもかかわるしね。危機的状況に晒され続けると、人間って精神がすり減っちゃうもの。
「あの宰相は結構慎重な性格ですからねぇ……。なので、今回のことは完全に予想外って言いますか……」
「そうよね」
確かに、娘が聖女になれば宰相の立場は確たるものになるだろう。でも、他の聖女候補を襲ってまで娘を聖女にしようと思うと問われれば、微妙。その場合、悪事が露見した場合のデメリットの方が多すぎる。だったら、他の大臣たちを買収した方が早い。……あと、エルシャ様に接触した意味もよく分からないのよね……。
「……多分ですけれど、宰相の娘では聖女は務まらないかと」
私がうーんと唸っていると、クラウスは不意にそんなことを言った。だから、私は「まぁ、ミアの方が聖女の力は上っぽいものね」と言っていた。ミアの光の魔力の量は、上の中ぐらいだ。多分、普通で行けば彼女が聖女になる。
「ミア様のこともですが、今年の聖女候補はみな優秀でした。その中で、一番劣っているのが宰相の娘ユージェニー・エースだった」
「……そんなに、差は明らかだったかしら?」
「えぇ、まぁ」
そんなことを言いながら、クラウスは「その書類、アナスタシア様にプレゼントします」というとゆっくりと立ち上がる。……やっぱり、今のクラウスは忙しいのね。もうちょっとお話が聞きたかったのだけれど。
「……クラウス」
「まぁ、一種の置き土産ですね。俺のこと、忘れないでくださいよ」
「……嫌な置き土産ね。まぁ、忘れることはないわよ。……貴方、強烈だもの」
クラウスは、とても強烈な人物だ。だからきっと、彼のことは忘れない。……あ、そう言えば。
「新婚旅行はクロスウェル王国でしょう? お土産待っているからね」
「……はいはい、分かっていますよ。本当に似たもの夫婦だ」
クラウスはそう言って、けらけらと笑うけれど、私には許せない言葉があった。だ、誰が似たもの夫婦だ! 私はあんなポンコツじゃない!
「あのね、クラウス――」
「じゃ、俺帰るので」
私が怒っているのを察してか、クラウスはさっさと出て行ってしまった。……あ、あの男ー! 本当に失礼な奴なんだから! 私はそう思ったけれど、今はそんなことで怒っている余裕などないのだと思い直し、怒りを必死に鎮めた。
諸々忙しいので、しばらくの間不定期更新になるかもしれませんm(_ _"m)
書籍は今月9日に発売しました。よろしくお願いいたします!




