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聖女と第二王子殿下

「俺ですね、唐突にアナスタシア様に会いたくなっちゃいまして。なので、ちょっと無理をして会いに来ちゃいました」


 そうおっしゃって、ジェレミー様はただ笑う。その笑みが何処か歪でぎこちなく見えてしまったのは、きっと気のせいではないだろう。そんなことを私が考えていれば、ジェレミー様は「あっ、アナスタシア様にもプレゼントを渡すのを忘れていました」と手をわざとらしく叩き、言った。


「どうぞ」


 またジェレミー様が指を一度だけ鳴らせば、今度は私の元に花束が降ってくる。ミアと、同じものだった。ただ一つだけ、違う点があるけれど。それは……漆黒色の花束だったということ。つまり、私の元に降ってきた花束は真っ黒だった。


「……どういうおつもりですか」

「特に深い意味はありませんよ。ただ、アナスタシア様にぴったりかと思いまして」


 ジェレミー様はそうおっしゃって、「貴女の、内面みたいじゃないですか」と言う。それは、私の内面が真っ黒だと言いたいの? そんな意味を込めてジェレミー様を睨みつければ、彼は「いえいえ」と目の前で手を振る。


「いろいろな色が混ざり合って、結局黒色になっちゃう。それが、アナスタシア様の内面じゃないですか」

「……何が、おっしゃりたいのですか?」

「アナスタシア様の内面はドロドロだって、言いたいのです」


 にっこりと笑ったジェレミー様は、大きく伸びをされていた。遠くから誰かの駆けてくるような足音が、聞こえてくる。……確かに、大きな音がしたものね。誰かが駆けつけてきてもおかしくはないわ。


「……私の内面は、そこまでドロドロじゃないわ」

「いえいえ、いろいろな意識が混ざり合ってドロドロになっているでしょう?」


 ……それは、ここでは言ってほしくない言葉だった。だから私がジェレミー様のことをさらに強くにらみつければ、ジェレミー様は「あぁ、口が滑りましたね」と言うだけだ。……その後、わざとらしく自身の口を手でふさがれていた。……あんなにも可愛らしかったジェレミー様が、今はとても憎たらしい。あれが全て演技だったなんて、信じたくない。そう思うのに、ジェレミー様を見る度に心が冷え切ってしまう。


「……まぁ、そんなことどっちでもいいんですけれどね」


 私の心の内なんて知りもしないジェレミー様は、ただ首をこてんと横に倒す。そして、「……俺にはね、一つの目的があるんですよ」とおっしゃった。その目は何処となく虚ろであり、正気の沙汰だとは思えなかった。それに、心臓が嫌な音を立てる。


「俺の目的は――」


 そう、ジェレミー様が口に出そうとされた時だった。不意に、お部屋の扉が開き「アナスタシア!」という声が聞こえてくる。その声を聞いて、私はそちらに視線を向けた。……ウィリアム様だ。


「……どうして、ここにジェレミーがいる」


 その後、ウィリアム様は一瞬だけ私に意識を向けると、すぐにジェレミー様に意識を移されていた。そりゃそうだ。行方をくらませていた弟が、いきなり現れたのだ。驚くのも、無理はない。


「……久しぶりですね、王太子殿下」

「……何故、そんな他人行儀な呼び方をする」


 ウィリアム様のその声は、何処となく震えていた。もしかしたら、たった一人の弟に他人行儀な呼び方をされて、ショックを受けていらっしゃるのかもしれない。……けれど、その眼力を見てそれはないなと思い直す。多分、この震えは怒りからの震えなのだろう。ウィリアム様は今、とても怒っていらっしゃる。


「旦那様」

「アナスタシア、少し、黙っていてくれ」


 私がウィリアム様の方に手を伸ばそうとすると、ウィリアム様は冷たい声音でそうおっしゃる。そのため、私はそのお言葉に従うという選択を取ることにした。今は、兄弟の時間なのだろう。邪魔者が口を挟んでいい時ではない。そう、直感で分かった。隣を見れば、ミアも静かに頷く。


「……ジェレミー。お前は、もう俺のことを兄だとは思ってくれないのか」


 最初に、とでも言いたげに、ウィリアム様はジェレミー様にそう問いかけていらっしゃった。すると、ジェレミー様は「そうですね」と答えるだけ。その声音には、何の感情も宿っていない。


「……それから、どうして姿を消した」


 次に、一番重要な事項。それをウィリアム様が問いかければ、ジェレミー様は「俺の目的を、達成するためですね」と答える。……先ほどから思っていたけれど、ジェレミー様の目的とは一体、何?


「お前は人を傷つけた」

「それが何だって言うんだ。……俺は、他人を踏みにじることに躊躇いなんてない人種だ」

「……それでも、王族か」

「確かにそれは正しいかもしれない。でも、俺って王族に向いていないみたいなので」


 けらけらと茶化すようにジェレミー様はそうおっしゃる。それは、どうやらウィリアム様の怒りのスイッチを押してしまったようで。ウィリアム様はジェレミー様に詰め寄っていた。私は、それを必死に止める。今、ここで騒ぎを起こしたらいろいろな意味で問題だ。そう、思った。


「……王族は、生まれた時から王族だ。好きでなれるものじゃない」


 それはきっと、ウィリアム様なりの王国を想う気持ちだったのだろう。たとえ貧乏な王家でも、ウィリアム様はそれなりに大切に思っていらっしゃったということ、なのだろう。何だろうか。少しだけ――見直した、かも。

次回も二週間後だと思います。引き続きよろしくお願いいたします……!

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悪役令嬢離縁表紙


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