第二章 魔法をかけられて~薔薇色の令嬢~
暗澹たる気持ちを抱えながらも、私は執務を一つ一つ行っていった。
その時、秘書エリオットが執務室へ入って来た。
「どうしました?」
「レイラ様が、お時間があればマヤ様とお話がしたいと面会の依頼にいらっしゃっています」
「そう、いいわ。休憩にしましょう。お通しして」
「執務中失礼したします、マヤ様」
「いいえ、訪ねてきて頂いて嬉しいわ、レイラ嬢。
ちょうど、少し休もうと思っていたところだったの……お茶の用意を」
エリオットが一礼して部屋を出ていく。
レイラの今日の装いはクリーム色の柔らかなドレス姿で、柔らかな春の日に良く似合っていた。
「フローレンス王国ではいかがです?レイラ嬢」
「この国は素晴らしいですわ。街も賑やかで、食べ物も美味しいし、アッシャー様とライアン様を始め皆さんとても親切で……毎日楽しく過ごしています」
「それは何よりですわ。レイラ嬢はどうして遠国からフローレンス王国に?」
「エイブリー帝国の冬はとても厳しいのです。加えて今は工業が発展して、ガスのため都市は空気が悪く、それが原因で肺を患ってしまって……遊学を兼ねた静養というところでしょうか」
「なるほど。今回の国際博覧会にエイブリー帝国は参加されていないので現地のお話はとても貴重です」
「わたくしのお話など、さほど楽しいものではありませんわ。毎日お屋敷の中にいるばかり。それより、マヤ様のお話をお聞かせくださいな」
それから小一時間ほどマヤがここに至るまでの顛末をレイラに話して聞かせた。
最後に腹を刺され、アドラメレクと対決するところではレイラは目を丸くしたり、手に持った扇子を握りしめたり、息をのんだりしながら聞いていた。
「大変な目に合われたのですね、マヤ様は。そして今もこうして王国のために身を削って執務に当たっていらっしゃる。とてもご立派ですわ」
「前にも申しましたが、私一人ではアドラメレクを倒すことはできなかったのです。四人の助けがあったからこそ、今の平和があるのだと思います」
「マヤ様はとても謙虚なお方。お忙しいと思いますけれど、またお話しにきてもよろしいかしら?」
菫色の瞳で首を軽く傾げながらレイラは尋ねた。
「ええ。レイラ嬢とお話しできてとても楽しかったですわ。また機会がありましたら是非」
「ありがとうございます。それではお仕事、頑張ってくださいませ」
レイラは執務室から出ていった。私はこっそりと傍らの妖精に声をかける。
「オーベロン、レイラについてどう思った?」
「彼女からは何の魔力も感じなかったよ。ボクの存在にも気づいている様子は無かったし」
「そう、やっぱり私の勘繰り過ぎだったのかしら」
四人の態度が一変したあの舞踏会にいきなり現れた異国の姫君。
彼女の存在はやはり無関係なのだろうか。
悩んでいても仕方ないので私は再び執務に取り掛かった。
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