時は流れるままに 14
「確かに……寝てないですからね、しばらく。ああ、今日は定時に帰りたかったなあ」
そう言いながら作業をしている部下達を眺める島田の疲れ果てた背中。同情のまなざしを向けるカウラの肩を要が叩く。
「無駄口叩いてねえでいくぞ!」
要は歩き始めた。技術部の整備班の面々は班長の島田の疲れを察してか段取り良くシートをトレーラーに搭載された05式にかけていく。その脇をすり抜けて要は早足でグラウンドに出た。冬の風にあおられてそれに続いていた誠は勤務服の襟を立てる。
「たるんでるねえ。それほど寒くもねえじゃないか」
笑う要だが、誠には北の山脈から吹き降ろす冬の乾いた空気は寒さしか感じなかった。振り向いたところに立っていたカウラもそぶりこそ見せないが明らかに寒そうな表情を浮かべている。
そのまま正門に向かうロータリーへ続く道に出ると、すでにトラックに荷台に整列して乗り込んでいるマリアの部下である警備部の面々の姿が見えた。
「ご苦労なことだねえ。仕事熱心で感心するよ」
金髪の長身の男性隊員が多い警備部。良く見ると正門の近くで運行部の女性士官達が手を振ったりしている。
「今生の別れと言うわけでもあるまいし」
その姿に明らかにかちんときたような表情を浮かべて勤務服のスカートのすそをそろえている要。誠は愛想笑いを浮かべながら再び歩き始めた彼女についていく。
「あ!西園寺大尉とカウラさん……いやベルガー大尉ですか?」
通用門の隣の警備室からスキンヘッドの曹長が顔を出していた。彼は手に警備部の採用銃であるAKMSを手にして腹にはタクティカルベストに予備の弾倉をぱんぱんに入れた臨戦装備で待ち構えていた。
「これおいしいわよ!」
その後ろではうれしそうにコタツでみかんを食べているアイシャの姿がある。
「引継ぎの連絡はクラウゼ少佐にしましたから。俺達はこれで」
そう言うとスキンヘッドの曹長と中から出てきた角刈りの兵長は敬礼をしてそのまま警備部の兵員輸送車両に走っていく。
「遅いじゃないの!」
そう言うとアイシャはコタツの中央に置かれたみかんの山から誠、要、カウラの分を取り分けて笑顔で三人を迎え入れた。
「これはシャムちゃんお勧めのみかんよ。甘くってもう……後を引いて後を引いて」
その言葉通りアイシャの前にはすでに二つのみかんの皮が置かれていた。それを見た要もぶっきらぼうな顔をして靴を脱ぎ捨てるとすぐにコタツに足を入れてアイシャが取り分けたみかんを手にすると無言でむき始めた。




