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料理のできる子とできない人

 翌朝、俺は朝食を準備し3人の起床を待つ。シクには夕べのうちに気のすむまで寝ること、俺の飯に期待をしないことを伝えといた。今日の朝食は味噌汁、焼き魚、御飯、おひたし。俺はこんなもんだ。昨日2人が俺らの世界に戻った際、和食関係の調味料を持ってきたので、味噌汁を作った。豆腐はないけどそこは仕方ない。

 ・・・ここまで作ったけど、味噌汁とおひたしをシクは食べれるか。この街に箸はあるのに和食ないからな。あと、昨日はピーマンが嫌いと言ってたが、まだまだありそうだ。ちなみに俺ら3人に好き嫌いはない。とういか、ばーさんになんでも食うよう矯正され、仕込まれ、鍛えられた。ばーさん曰く「よく噛めばなんでも旨い。」だそうだ。


 

 そうこうしていると、千歳が起きてきた。


「おはよう。シクはまだ寝てるのね。」


「おはようさん。まー布団で寝るのが久々だろうし、やっぱ疲れてるんじゃない。」


「そうね。あっ味噌汁作ったの。」


 千歳はコンロの鍋を注目する。味噌はこの街にないからなー。ない分かると食べたいと思うもんだ。


「2人が味噌など持ってきたんで折角だから。味はともかくだけど。」


「ふふ。和食がないと思うと食べたくなるよね。」


「おはよー。」


 才華が起きてくる。


「おはよう。」


「おはようさん。」


 シクはまだまだ起きなさそうなので3人で先に朝食を済ます。



「で、今日はどうするんだい。」


「シクが起きた時間によるけど、昼ころにシクの服とか必要なものを買い出しに行こうかなー。」


 才華が答える。買い物かー。長くなりそうだし荷物持ちだな、こりゃ。


「賛成ー。」


 千歳が手を挙げる。


「それまでは?」


「私は書庫で医療関係の勉強をしようかなー。だから在人、家事お願いしていい?」


 才華がウィンクでお願いしてくる。はいはい。


「私も才華と一緒にする。在人、シクの朝ごはんが済んだら、書庫に来させて。そこでシクの手当てをするわ。」


 千歳もお願いしてくる。はいはい。


「了解。ただ、徹夜とか無理すんなよ。」


「無理はしないよ、だから、差し入れよろしく。」


「そうそう。徹夜はいい仕事の敵だからね。」


 2人は頷き、書庫へ向かった。千歳の発言は赤い豚のやつだな。


「はいはい。コーヒーぐらいが持ってく。あと、昼飯も用意するから。買い物は昼すぎで。」


 俺の返事に2人は手をあげ応じる。・・・さてまずは食器洗いだな。



 9時を過ぎたところで、シクが起きてきた。


「あっ。おはようございます。」


 顔色が良くなってる気がする。ただ、寝癖は酷いけど。


「おはよう。その様子だと寝れたみたいだね。」


「はい。ありがとうございます。」


「顔洗ったら、朝飯にしようか。寝癖は食事のあとで直しな。」


「分かりました。・・・寝癖?」


 自分の頭を触ったシクは顔を赤くし、洗面所へ飛んでいった。布団で寝たせいか、気が緩んだだろうなー。それはそれでいいことだと思う。


 寝癖も直し戻ってきたシクはテーブルに座り、朝食を見わたす。そして、不思議なものを見る顔をする。・・・和食だからか?俺が作ったからか?


「あのー、このスープはなんですか?あと野菜もどう料理したんですか?」


 知らなかったかー。うーん。だとしたら他の和食も未知のものか。あとシチューはあるけどカレーはどうなんだろう。今のところ見た記憶はないなー。


「スープは味噌汁、野菜はゆでたものに鰹節をかけたもので、おひたしって言う。どっちも俺らの故郷の料理。」


「・・・本当に違う世界の人なんですね。」


「うーん。もしかしたらワコクにならあるかもよ。勝手なイメージだけど。ま、いいから食べな。死にはしないから。無理なら残してもいいし。」


「あ、はい。いただきます。」


 シクは恐る恐る、味噌汁、おひたしと口につける。そのまま箸は進んでいるので、食べれるようだ。良かった。才華、千歳のならもっとおいしいよ。明日を楽しみにしてな。と心で思っておく。


「ごちそうさまでした。」


「お粗末さまでした。」


 でいいんだっけ?どっちにしろ『お粗末さまでした』もシクには通じてなかった。説明も面倒なのでそのままスルーしたところ、シクは食器を片付けはじめる。なので俺は才華と千歳のためにコーヒーを用意した。コーヒーはこの世界にもあったので先日購入していた。味の違いは俺にはわからんが。


「あのー、サイカさんとチトセさんは?」


「勉強中。食器片づけたら、コーヒーを書庫の2人に持ってて。」


「はい。」


 シクの手当ての件もあるのでシクに任す。シクはコーヒーを持って書庫に行った。数分後、書庫の方からシクの叫び声が聞こえた。傷が痛くて出る声ではないけど無視無視。しばらくしてシクが戻ってくる。


「ありがとー。」


「手当てのあと・・・。疲れたら、かわいいものを抱く。かわいいものをなでる。それがみなさんの世界のルールって、サイカさんが言ってきて、耳も尻尾も、もみくちゃにされました。チトセさんにも。」


 やっぱり手当てじゃなかった。・・・ロリコンはあいつらだろ。数分で憔悴しているシクが椅子に座り込む。


「はい。シクの分。」


 コーヒーはまだ早いよな。そう思ってココアを渡す。


「あ、ありがとうございます。」


「昨日も言ったけど、嫌なことや思ったことは言いなよ。あの2人にも容赦なく。そうしないとあの2人はつけあがるし、暴走するから。あと俺の場合は迷走するし。」


「考えときます。」


 ココアを飲みながら頷くシク。結構堪えたんだな。


「飲み終わったら、掃除と洗濯する。ただ、傷が痛むときはすぐ言ってよ。俺はそうゆうの鈍感で気付かないし、それで2人に怒られるのも嫌だから。」


「分かりました。」


 早速、シクと掃除と洗濯を行う。見た感じとういか間違いなくシクの要領は俺なんかよりいいほうだ。この様子なら料理も問題なさそうだ。昨日から思うけど、7歳の割には大人びてるというかしっかりしているというか。世界のせいか、今までの環境ゆえか。・・・シク恐ろしい子。ってか。無理して、背伸びしてなきゃいいんだけど。



 掃除、洗濯が終了し、お次は早めの昼食を用意する。シクがメインで作ったけど、俺なんかよりは上手だった。7歳なのに、と思うのは無能な俺の嫉妬か。母親ゆずりの才能故とういうのは本人の努力に失礼か。


「うん。在人より上手ね。あ、在人の朝食もおいしかったよ。」


 千歳が褒めていた。俺へのフォローはいらん。シクの腕前に俺も文句はない。


「千歳さ、私たちの世界料理のレシピ本用意して、今度シクに作ってもらおう。」


 才華が食べながら提案する。それはいい。肉じゃが、かつ丼、焼き鳥、寿司食べたい。


「それは私も知りたいです。お願いします。」


 シクも興味深々だった。料理は好きなのかな。


 

 昼食も済んだので、買い出しに出る。俺は一つだけ祈った、ジーファさんにだけは出会いませんように。まじで頼むから。シクには悪いけど5時間は嫌だなー。前に服を買った店に向かう途中で、俺の祈りは無駄になった。


「あ、ジーファとコアだ。おーい。」


 才華が休日と思われるジーファ、コアの2人組を見つけてしまう。あーーー。俺たちに気付いた2人がこちらに近づいてくる。


「こんにちわ。ジーファ、コア。今日はお休み?」


 片手を振りあいさつをする千歳。


「そうだよー。3人ともー。と狼人の女の子?」


 シクに気づいて疑問形になるコア。


「こんにちわ。その子は?」


 ジーファさんもシクに注目する。さてなんて説明する。全部説明すると長いんだけど。


「7歳の妹よ。」


「優秀な新人メイドね。」


 才華と千歳が胸を張って答える。回答になってない気もする。ジーファさん、コアは困惑している、


「いろいろあって一緒に住むことになった同居人。いろいろの部分は長いからいずれ。」


 俺の説明のち、シクが頭を深々下げ自己紹介。


「シクです。ザイト様に100万で買われました。」


 ん?シク?ここでそれやっちゃう。端折りすぎて誤解されるってそれ。案の定ジーファさん、コアの俺を見る目が変わる。しかも俺だけが対象になってる。俺にそんな金あると思うか。才華、千歳は笑いを堪えている。


「人買い?」


 コアは腰のナイフに手を当ててる。違うって言っても買ったのは事実か。買ったのは俺じゃないんだけど。いやこれじゃ才華に責任転嫁か。簡単な説明が思いつかない。


「今すぐ、いろいろの部分を教えてくれます?」


 ジーファさんも空気が冷たい。ひー。


「ははっ。シク。いいよいいよ。ナイス。ひひ。」


 笑いを堪えれなくなった才華が止めに入ってくれる。


「ふふ。ジーファ、コアちゃん。買ったのは才華で、シクと私たちの間で問題は解決してるから。」


 千歳はコアの両手を抑えてる。


「すいません。3人のおかげで救われたんです。3人には感謝しきれません。」


 シクが改めてお辞儀する。その様子をみて、ジーファさん、コアが落ち着く。た、助かった。


「・・・そうなの?まー、ならいいや。私はコアよろしくねー。シク。」


 そう言って、シクに手を振るコア。


「カタム傭兵団のジーファ。それで4人は何をしに行くつもりだったの。」


 ジーファさんがこちらを伺う。


「シクの服と必要なものを買いにいくところ。」


 才華が説明する。あきらかに『服』の部分でジーファさんはピクッと反応し、シクをまじまじと見ている。シクはその視線に気づいているが、視線の意味を理解しておらず、戸惑っている。まずいなー。この流れは。ジーファさんもう付いてく気満々じゃん。どう考えても脳内でシクをコーディネートしている。


「2人はなにをしてたんです?」


 俺が質問する。コアたちに予定入ってればいいんだけど。


「休みでふらついてただけ。捜索の成果もでないから、ストレス発散も含めてる。」


 くっ予定なしか。これは終わったな。・・・アラクネルはまだ見つかんないのか。シクの様子を伺うが、コアの会話は聞いてないみたいだった。正直、ほっとする。


「よかったら、一緒に買い物い」


「行くわ。」


 千歳が言い切る前にジーファさんが返答する。これには千歳も少し驚いている。あー5時間コースか。この世界にも俺の味方となる神やら仏やらはいないようだ。分かりきってたことだけど。


「時間が足りなくなる前に行きましょう。」


 ジーファさんが足早に出発し、才華たちも付いていく。『時間が足りなくなる』ねー。最後尾で俺はコアに小声で質問する。


「ジーファさん、服のこだわり強すぎない?」


「うん。団で一番だね。服のセンスはいいから、団にいるズボラ男性の服を選んだりしてるよ。」


 コアも小声で答える。へー。趣味なんだな。


「あれ、服を作ったりとかも?」


「ううん。それはしてないってよりできない。裁縫は私より下手。はっきり言うと、戦闘向きの人。戦闘以外では優柔不断だし、家事とかはひどい。外見ではもてるほうだけど、良い奥さんにはなれないって奴。ぷぷ。」


 コアは口を押え、笑いを堪えてる。まじですかい。見た目は器用そうだけどなー。


「まじでかー。シクなんて7歳だけど、単独で料理任せることになったんだけど。もしかして、コアのほうがジーファさんより家事できたりとかかい。」


「うん。ジーファより自信あるよ。将来いい奥さんになるから。私どう?」


 そういって俺に近づく。はいはい。


「あー、2人と縁がなくなったらお願いしにいくかも。」


「なにそれー。」


 2人で笑って皆に付いていく。



 道中、千歳、コア、シクの3人が話はじめたタイミングで、才華がジーファさんに並んで先頭にたつ。そして、千歳たちに聞こえない声でジーファさんに質問する。


「あのさ。ジーファ。傭兵団に入団条件ってある?」


 その質問の意図を読み取れないジーファさんは、不思議そうに才華をみながら答えてくれる。


「極悪人じゃないことぐらいだけど、それがどうしたの?サイカ」


「ん。私たち異世界から来てるでしょ。それで将来間違いなく、シクが1人になるんだよね。そのときにさ、シクの就職先とか後見人とかで、団に入れるかなって。候補のひとつだし、シク次第のところもあるんだけどね。」


 才華の真剣さを読み取ったジーファさん。


「家事とかサポート専門の人もいるから。今でも入ることは可能ね。私が口利きしてもいいわ。」


「ありがとう。ジーファ。シクの料理なら、今の段階で十分戦力足りえると思う。」


 料理と聞いてジーファさん。顔色が少し変わる。料理できない自覚はあるんだ。


「そ、そうなの。すごいのね。」


「うん。今日のお礼も兼ねて、今度うちに御飯食べにきて、4人で御馳走用意しとくから。」


「・・・ザイトさんも料理できるの。」


 俺の顔を見るジーファさん。信じられないって顔をしてる。俺の見た目だとしないキャラだもんなー。


「家庭の事情で10歳からしている。味は才華、千歳はもちろん、シクにも劣るけど。食べれはする。補助としてなら戦力足りえる。」


「私には十分おいしいよ。在人。」

 

 お褒めの言葉ありがと。俺の説明、才華の表情から、なんとも言えない表情をするジーファさん。


「どったのジーファ?」


 ジーファさんが料理下手という事実を知らない才華には、ジーファさんの表情の意味が分からんだろうな。コアが聞いてないのが幸いか。そう思って後ろを歩いている3人を見ると、コアがニヤニヤしていた。いつの間にやら聞いてたんだ。


「ジーファ。ザイトたちの家に行くとき、私たちもなんか料理もっていこうねー。」


 明らかに冷やかしに来ているコア。コアを一瞬、キッと睨むジーファさん。


「はいはい。そうね。ま、今はそれより、シクの服選びね。」


 店前についたので話を逸らしたジーファさん。目が変わった。それに釣られ、俺とシクを除く3人の目も変わった。ひゃー。これは『時間長い』なんて口出しをしたら、あとが怖いな。あーやだやだ。



 店内に入ると、即座にシクは着せ替え人形と化した。ご愁傷さま。女性4人はひっきりなしに服を選んではシクに着せていた。シクの顔は見るからにだんだんと疲れていく。長くなるので俺は


「・・・何着かシク自身にも選ばせなよ。あとシクの顔色もよく見なよ。」


 そう4人に伝え前回と同じく店前で待つことにした。俺が出るのをシクはうらやましそうに見ていたが無視無視。ごめん。頑張って。4人は活き活きしてるから。あとで飲み物買うから。荷物は俺が全部持つから。肩もむから。


 3時間後、5人は出てきた。思ったより早かったが、シクは本日2度目の憔悴した顔をしている。お疲れさん。シクの顔を見てこれぐらいでやめたのかな。


 「あー。気分いいー。」


 ジーファさんが肩を伸ばす。顔もいい表情ってやつだ。


 「ぬふふふ。あの服でザイトが驚く姿が楽しみね。」


 コアはこっちを見てニヤついている。なにを買ったんだか。


 「うむ。余は満足じゃ。」


  頷いている才華。なにを言ってるんだお前は。

 

 「ごめんね。在人。1人で待たせちゃって。つい楽しくて。」


 千歳も満足した顔をしている。まー最初から楽しそうだったもんなー。


「・・・・・・・・・・・・。お待たせしました。・・・・・・・・。」


 シクは限界みたいだ。大丈夫じゃないね。これ。おいおい。


「シク。ちょっとここで休んでな。」


 俺は急いで全員分の飲み物を買い、皆に手渡す。近くにお店あって良かった。


「シク。自分で選べた?」


「はい。それは大丈夫です。それは・・・・」


 椅子に座り、シクはか弱い声で答えてくれる。うん。明日もしっかり休んでもらおう、こりゃ。元気一杯なシクはいつ見れることやら。


「じゃあ、またね。」


 買い物を終えコア、ジーファさんと別れる。俺らはもう少しだけ買い物をして帰宅する。

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