これまでと、これからを。
蒸らし時間を計り、均等に淹れわたるようにカップに紅茶を注ぐ。
厨房の片隅で作らせて貰ったお手製のマフィンとホイップクリーム
そして絶対これ最高級かいんだろうなと感心するくらい薫り高い紅茶。
茶葉はキースさんに頼んで用意して貰ったものだ。
もう直ぐ自分達の誕生日なのでケーキを焼こうと、小麦粉やら卵やらの材料も買っておいたのだけど、思わぬところで役に立った。
「えっと、お口に合うかわかりませんけど」
「蛍の作るケーキ美味しいんだよ? つい食べ過ぎちゃうくらい好きなんだ」
紅茶とお茶受けをそれぞれの前に置くと、えへへと葵が嬉しそうに相槌を打つ。
「本当、これは美味しいですね」
「ああ。甘いものは苦手なのだがこれなら食べれそうだ」
「ホタルは料理が得意なのだな」
「…………」
葵の賛辞に続くように口にした、キースさん、レオニールさん、フェルディさんが誉めてくれた。
ただのお世辞かもしれないけど、誉められるとやっぱり照れます~。
赤くなって俯くけど、何故かそれに反応して増した不機嫌なオーラにしゅんとなる。
というか何ですか。何なんですか。
あれから数日経つというのに。
未だ仏頂面が直らないアランさんは。
◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆
元々がどうだろうと結局のところ糸は葵に繋がっているんだし?
アランさん顔は良いんだから、顔につられた女の人選び放題だったんだろうし?
私一人くらいがアランさんが運命だったらいやだと思ってたって、
アランさんにとってはどうでもいい事、ですよね?
むしろお互いにとって運命が断ち切れたのは良かった事だってそう思いませんか?
ね、そうでしょう? そうですよね、アランさん。
なのでもうこの話はやめにしましょうよ!
と、生暖かい視線を振り切るように、明るい雰囲気になるように、とにっこり微笑みながら頑張って力説したら、何故かアレンさん以外の男性から爆笑された。
葵は眼に掌を当てて「蛍ってば…」と呆れてるみたいだし。
アランさんは同意してくれるどころか憮然としちゃうし。
…お互いが気にいらないのなら運命が途切れたのは良いことだと思うんだけど。何で笑うの?
釈然としないままながらも一頻り笑ったら真面目な雰囲気に戻ったので口を閉ざす。
それで私たちの住まいをどうするかという話になった。
本当は召還した婚約者の用意する部屋に移る慣わしだそうだけど、…葵の場合はね。
フェルディさんのご好意で、王宮内に素性を隠しての客人として部屋を用意してもらえることになった。
「一人では心細いだろう」とわざわざ続き間を選んでくれたんだ。
ああもうフェルディさんは優しいなぁ!
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で、糸の事なんだけど。
もともとアランさんとレオニールさんは王族ではないのだから
すぐにどうとかするのではなく、とりあえず保留扱いにして
二人共と結婚するのか、片方を選ぶのか、片方を選んだ場合は選ばれなかったほうはどうなるのかをゆっくり考えることになった。
葵には運命の花嫁の肩書きがあるけど、私には無いから葵付きの侍女として扱ってもらうことにした。
もちろん葵からは猛反対されたけど、名目が無ければ私がここにとどまる理由もないし、お菓子を作るとかお茶を淹れるとかといった本当に些細なことだけにすると押し切った。
もしも「糸が断ち切れたから蛍だけは帰っていいよ」と言われても
葵ひとり残して帰れないから、私も自分がこれからここでどうするのか考えなくっちゃね。
蛍は侍女になりました。