気になる、糸の先。
「ええっと…花嫁って……冗談、ですよね?」
私よりも早く浮上できた葵が、引き攣った笑顔でそう返す。
「冗談で召還儀式をしたりしないさ。どんな娘が俺の運命の花嫁なのか戦々恐々だったんだが、こんな可愛い娘で良かったよ。君、名前は?」
黒髪・黒眼の美形さん--アランさんという人がニコニコと葵を覗き込む。
185cmはあるだろう長身と、健康そうな小麦肌、引き締まった程好い筋肉と、
この人絶対女の人にもてるんだろうなと確信できるくらい、男の色気あふれる美丈夫さんだ。
「待て。召還したのは私の花嫁でもあるだろう。ならこの娘は私の花嫁だということだ」
金髪・蒼眼の美形さん--レオニールさんが不機嫌そうな声でアランを見やる。
映画俳優ですか?と思わず聞きたくなるくらいの美形さんだー。身長は180cmくらいかな? どっちかというと頭脳派・・・なのかな? 表立っては騒がれないけど隠れファンが沢山いそうな雰囲気な人だ。
・・・二人して葵の取り合いしてるし。
あー。二人とも葵狙いですか。やっぱり可愛い子のほうが良いもんね。
何時もの事だけど外れ扱いの現実を突きつけられて悲しくなる。
そうこうしているうちに自己紹介をしはじめている。
「私は日向葵。葵です。こっちは双子の姉のーー」
言いながら、葵は俯いてた私の肩に手を添え、そっと前に立たす。
「……日向蛍。蛍です。もうすぐ16歳です」
俯きがちになりながらも、なんとか自己紹介した。
◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆
彼らの説明によると、この国の王族の男性は20歳になると『運命の花嫁』なる女性を探すために召還の儀を執り行うらしい。
もともとは別の目的で召還の議をして誤って現れた女性と恋に落ちた王が居たらしく、それが始まりらしい。
もちろん過去にはこの儀式を否定して行わなかった人や、儀式をした振りして自分で好きな子を連れてきて、召還された娘と偽った人も居たそうだけど、王座に付いたとたん若くして儚くなったり、近隣の国に攻め込まれそうになったりと、碌な事が起こらなかったために召還の儀と赤い糸の確認が義務化されたんだって。
召還される側にとっていきなり「嫁になれ」なんて甚だ迷惑な話なのだけれど、運命に選ばれれば、たとえ農民の娘だろうとおかまいなしに王妃になれるそうで、民衆からは好意的に受け取って貰っているそうだ。
けれど、儀式で召還されたのがたとえ老婆であろうと、産まれたばかりの赤子であろうと問答無用で婚姻を結ばないといけない仕来りらしく、召還する側にとってはある意味恐怖の儀式らしい。
といっても大抵が現れた女性とは、すぐに恋に落ちるみたいで問題はない、そうだ。
赤い糸で繋がっている=好みの集大成? なのかもね。
といってもアランさんとレオニールさんは王族でなく、王家を支える双頭の大貴族なんだって。
この国では王家を筆頭に双家、双家の下に4家、さらに4家……と階級が続いていて、
嫡男が15歳になる年にどれだけ優秀な存在になれたかによって、実力で家の階級が換わるそうだ。長男は責任重大って事。大変だね。
って事はこの二人はかなりの実力、権力者って事なんだよね。
偶然とはいえ、そんな人達の花嫁として召還されたって事は、実はすごいことなのかも。
レオニールさんとアランさんは王子様と幼馴染で、年令も近いせいか王子様とも仲が良いんだって。
本来は二人とも仕来りとは無関係なんだけど、召還の儀を控えた王子様を、アランさんが散々鹹かったらしく、王子様が「お前たちもやらないとやらない」とごねたそうで、周囲から責任を取って召還の儀をしろと怒られたらしい。
レオニールさん自身はからかわなかったそうだけど、とばっちり参加を強要されたそうだ。
そして私たちが召還されたのなら、私たちが恨むならアランさんということになる、よね。
だけど、召還されました。じゃあ結婚しましょうね。っていうのは無理!
「あの…今回は、無理に結婚とかしないでも、良いんじゃ…な…いです…か?」
今回は王族ってわけじゃないし断っても良いんじゃないかと思って、意を決して聞いてみようとした…けど、語尾が途切れがちになったのは、アランさんが呆れたような顔をしてたからだ。
「人の話聞いてた?言ったよね、義務だって」
ううう。この人苦手かも。言い方がきついんだもん。
たとえ同じ言い方でも、それがイケメンさんからだとしたら攻撃力倍増されて余計に傷つくって自覚して欲しい。
涙目になりながらも誰か破棄を肯定してと周りを見渡す。
「残念だが、それは無理だろう。私たちが破棄をするならとアイツもうるさいだろうし」
目が合ったレオニールさんが肩をすくめる。アイツって王子様のことだよね。
そう言われると確かにそうかもしれない。
「じゃあ私達は召還されなかったことにして、元の世界に帰れませんか?」
と葵も冷静に、けれども怒りを押し込めた声で問いてくれた。
持つべきものは双子の妹だ。やっぱり葵も同じように理不尽に感じてる。
だけれど「無理だな」「無理ですね」と一蹴された。
「なんでよ!?」「どうしてですか?」
葵と同時にいきり立つ。見事なシンクロだ。
私だって主張するときはするんだからっ。
「残念ながら、君達を元の世界に戻せる手がないんです」
レオニールさんの言葉に瞠目する。…戻れない、の?いやだそんなの困る。
衝撃の事実に泣き出しそうになった。
「第一、召還の儀式に挑んで誰も現れなかったら、そいつは一生独身で清らかに過ごさなきゃいけないんだぜ? そんなの俺は嫌だね。それにせっかく可愛い子が召還されてきたというのに、みすみす返す男がいるわけないだろう」
と、続くアランさんの言葉に脱力したけれど。
◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆
何はともあれ、召還の儀式の結果を報告しないといけないという話の流れになって、どっちがどっちの花嫁か調べることになった。
その方法は召還されたら必ず繋がってるはずの『運命を司る赤い糸』を具現化して、繋がっている先を確かめるというのだ。
もう戻れないから腹を括れ。というのなら、私の運命の人は…アランさんは苦手なタイプっぽいしレオニールさんの方が良いな。レオニールさんでありますように。と願いながら小指の先を見る。
けど糸は空中に溶けるように途中から見えなくなってた。
不審に思いながらも葵はどうだったかと聞こうとして、目を見開いた。
葵の小指の糸はアランさんとレオニールさんの両方に繋がっていた。
「…何よコレ」
「…マジかよ」
「…困りましたね」
三者三様に糸の先を見やり、呆然とつぶやく声が聞こえる。
衝撃が強すぎて、私は声も出なかった。
…ごめん、蛍。