Ж-24 布 都 御 魂 ~Ancient Soul~
我が名は布都、 この神創界の瑞祥を司る女神殿から授けられた御名は
“布都御魂” で在るが、 今生に宿星せし崇敬すべき主殿にはこう呼ばれている。
我が存在は、 正式名称を 『統合制御型自律機動幻精霊』 と云い、
奸邪なる 『召喚儀』 に由り異邦の界域より
不当に拘引された者の魂魄と同期し、
この神創界では赤子に等しき存在の扶翼と成る旨を是とする。
その者の生来は不問とされ、 概論するなら神聖の祖で在ろうと
悪辣の性で在ろうと隔てはなく、
一様に扶助する事が我に課せられた責務で在る。
故に如何な小人の輩と成ろうと
役目を果たすという覚悟を決めてはいたのだが、
其れは大いなる蒙昧で在ったと今は自省している。
我が主、 我自身が御屋形様と定めたこの方の魂魄と同期し、
存在を励起させた刹那――
否、 これ以上の論説は自重すべきであろう。
我自身詳解する術を持たぬし、
無理に表記した処で却って
アノ方の本質を霞ませてしまう愚挙に繫がる。
只一言、 あの刹那我を貫いた情動は、
正に滂沱の極致とも云えるべき感覚で在ったのは
心魂に強く刻み付けておこう、 我に涙腺は無いのだが。
沙呈、 左様な因果で我は御屋形様、
リュカ・K・サンダルフォン殿の麾下と成ったわけだが、
其処に、 無用の長物というか頭の痛い問題が一つ。
銀桜色の髪に金紫色の瞳を持つこの女、
魔皇、 ノエル・L・メタトロンの存在だ。
召喚された場が同じだった故、
御屋形様の安全が保障されるまでの同道は許可したが、
今現在に至るまで安穏とした表情で御傍に侍っているのは
正直遺憾の意を禁じ得ない。
御屋形様、 更に我が 「同胞」 であるアビスとの交感に拠れば、
肉体は若き娘だがその魂魄は壮年を迎えた男であるらしいが、
左様な些事など我に関わりは無い。
そもそも御屋形様の種属は偉大なる英霊種、
故に魔皇等という呪われし存在は本来相反すべき者であり、
仇敵と云っても良い因縁でも在る。
しかし此の者は御屋形様の慈悲深さを良い事に
そのような事など気にもかけず放埓に振る舞い、
剰え 『往き先』 の道程すら勝手に決めてしまう始末だ。
御屋形様は、 忌み嫌われた土地で彷徨するような方では断じてない。
そも呪われし種属で在る此奴さえ居なければ、
召喚された居城で厚遇を受けた事に間違いはないのだ。
……愚昧なる者達の世話にはならぬという
御屋形様の意に背く気は毛頭ないが。
然し乍ら!
だからといって此の者と何時迄も共に居るという事の
証左には成り得ないだろう。
我は恐れる、 此の者、 魔皇ノエルの存在を。
我は畏れる、 御屋形様の御慈悲が、 御身に禍殃を招いてしまう事を。
元は 「同郷」 の者として、 御屋形様は魔皇さえも朋友と仰れど、
我としては戒告の認を解くわけにはゆかぬ。
此の方の魂魄と同期した刹那、 此の方の追憶が流れ込んできた。
其の最後の瞬間までも。
我が、 否、 誰が触れて良いモノでは無かったのかもしれない。
だがその瞬間、 刹那に誓ったのだ。
御護りすると――。