第36話「第168次就活戦線」
「あー……くそ、死ぬかと思った。そして、元気でよかったなーMY息子」
中をしっかり確かめ、上からポンポンと労う。
危うく、ぐしゃ───とされるところだったぜ。
オゥイェー
「……まぁ、おかげでオーク肉を、またも半分以上失ってしまった……」
マイサンを失うことに比べれば遥かにマシなのだが……。
がっくり。
……結局、恵美の顔面に、お茶ぁ…をぶっかけて───叔父さんワクワクしちゃっ…………じゃなくて、
お茶をぶっかけたお詫びにオーク肉の残り半分を提供するということで手を打った。
あれで、結構な量があったはずだけど、恵美さんたら意気揚々と男前に担いで持って帰りましたよ、すごぉい……。
───まぁ、どうせ売るんだろうけどね。
(いいなー)
指をくわえて恵美の後姿を見送る高橋。
いや、それにしてビジュアルがすごい。
だって、見た目は可愛い女子高生が、血も滴る赤い肉の塊を担ぐという───すっごい絵面。
……まぁ、ハンマーを通学カバンに入れて持ち歩くような子だからね、あんまし気にしてなさそうだけど。
───ちなみに、ハンマーは冒険者用の装備なんだとか。
サポーターとして、ダンジョンに潜るときの恵美の専用武器なんだってー。
へー
そして、なんであんなもんを持ち歩いているかというと……サポーターの訓練のためだそうだ。
訓練という名目なら、ダンジョン開発企業の許可を得やすく、銃器以外なら持ち出してもOKらしい。
……っていうか、『銃』とかあるのね。
その辺を恵美に聞いたら、「あんま好きじゃない」だそうで……。
つーか、あの子、銃撃ったこともあるんだって──。
へ、へー
す、すごぉいん。
……ちなみに、銃の種類は主に自衛隊から払い下げられた64式小銃とか、豊和工業製の狙撃銃とか散弾銃。
一部には輸入されたものもあるらしい。
まぁ、輸入品はクッソ高くて一般人には手が出せないらしいけどね。
……一般人とは???
ま、まぁ。
つまりは、銃がありふれたところにあるくらい、ダンジョンは危険な場所なんだろう。
……うーん、絶対入りたくないな! うん!!
あッ。
あと、銃はあまり人気のない武器なんだって。
それには諸説あるが、
具体的には、ダンジョン内の環境はじつに様々で、狭い場所なども多く銃器の取り回しが困難なことと、
音が大きく、敵に気付かれやすく───また遠くの敵をも集めやすいことが主な理由。
他にも、近くにいるだけで単純にうるさいから───という理由もあり、とにかくあまり好まれてはいないらしい。
日本人には馴染みがないけども、閉所で銃を使った時の耳へのダメージは思った以上に深刻なんだとか。
……アメリカ軍なんかでは、それを防ぐために耳栓等が推奨されるが、それをすると周囲の音が聞き取りづらくなり、やはり危険なんだそうだ。
───そして、なにより威力と弾数の制限というのが一番好まれない理由なんだとか。
ま、まぁ……。たしかにオークとかオーガくらいだったら、銃を数発撃ったくらいじゃ止まらなさそうだしな。
一応大口径の銃──対戦車ライフルなんかもダンジョン探索時に準備されているというが、扱いが難しく、上記の制約が多いということで冒険者でも、銃を使うものは稀らしい。
それでも、安定した威力と遠距離攻撃可能ということで好んで使う冒険者もいる。
警察や自衛隊のダンジョン攻略部隊はやはり銃を使うものが多いんだとか。
へー……(超、興味ない)。
ちなみに、銃器大国はぶっちぎりのアメリカ。
とくに、米軍などはもっと強力な銃器をダンジョンに持ち込んでいるそうだ。
……対戦車ミサイルとかね。
おっふ。すげぇな米軍……。
それはさておき、ようやく邪魔者がいなくなったことで高橋の一日が始まる。
そう───……就活である!!




