第33話「その後で、姪っ子に茶ぁぶっかけた」
最近は、ダンジョン開発の話題はどこに行っても聞かされるからうんざり。
朝っぱらから見てもクソ面白くもない。
こんなもん、興味がない人はとことん興味がないのだ。
ただ、SNSでも度々トレンドに乗る程、世間一般ではダンジョンは受け入れられつつある。
ま、うちの犬小屋がダンジョン化するくらいだしね!
しかし、それでも高橋は興味がない方だ。
最近はとある事情で、まったく興味がなくもないわけではないけど……。
……ちなみに、そのとある事情のダンジョンから収穫───もとい、とれたマンドラゴラのうち、冷凍できるものは冷凍し、煮物にできるものは煮物にした。
そのほかにも生食用として大量にサラダとして千切りにしたり、急いで買ってきた漬け樽に塩と共にぶち込んだ。
ぬか漬けにしてもよかったんだけど、手入れの面倒さと、ぬか床が手元になかったため断念。
とりあえずの腐敗防止として、塩だけでもしばらくは何とかなるだろう。
しかし、さすがに3m級の大根───マンドラゴラは全部は調理しきれなかった。
あとはお裾分けとして、姉貴は電話に出てくれなかったので、恵美を呼びつけて「食うか?」と聞いたら、「叔父さんの刻んだ野菜はパス」とかぬかしやがる!!
そのくせ、今日は家に押しかけめっちゃ食いやがったよ!
言葉と行動が逆なのよ! この子ぉ!
マンドラゴラだと言っても全然信じないしぃ……。
まぁ、いいんだけどね。叔父さんが刻んだ野菜は叔父さん臭がするんですよ、
きっと……クスン。
というわけで残ったものはコンポスターにぶち込んだけど、さすがにキャパオーバー……。
しかたなく、初日に仕込んだ『ゴブリン肥料』と一緒に庭の一角に撒いて畑として漉き込んでおいた。
ここでようやく、肥料が使えたわけだ。
油分と血の多かったオークとオーガはもうしばらくかかりそうだけど、比較的小さいゴブリンは見事に肥料として転生した───以後は美味しい野菜となってくれるだろう。
そして、さっそくオークを仕留めた『オークキラー』こと、コ〇リの鍬で畑を作ったというわけだ。
いやー……たまには身体を動かすのも悪くはない。
ポンタ君がすっごい『ふんふん!』と肥料を嗅いでいたけど……。頼むから掘り起こしてくれるなよ?
──畑には、とりあえず数種類の種を蒔いておいた。
収穫の速い葉物をはじめ、
一応スイカとか大根───……は、まだまだ一杯あるので、代わりに枝豆とかね。
それとキュウリにトマトといった、普通の野菜だ。
間違ってもマンドラゴラではない。
もっとも、肥料の量がそれほどでもなかったので小さい畑になってしまったが、オークとオーガの分が完成したら順次広げていこう。
つーか、オークとか生えてこないよね……?
スマホで検索してみたところ、モンスター素材の肥料で作られる野菜は高級品なんだとか。嘘か本当か、かなりの健康効果が見込まれるとか。
美肌効果に骨粗しょう症予防に、視力UP。そして、免疫の増加と、なかなか凄い。
……まぁ、野菜食ってれば健康になるのは当たり前な気もするけどね。
「しかし、まぁ───これでなんというか、自給自足体制できちゃったんじゃね?」
……おれ、天才じゃね?
野菜がうまく育つかどうかは知らないが、オーク肉は当分持つし、
マンドラゴラも保存した分で結構食べられる。
さすがに、肉と大根……マンドラゴラだけでは飽きが来るとは言え、米だけ買い足せばこれはこれでありな気もする。
なんたって───元手が0円!
これで野菜が取れればぶっちゃけ働かなくてもいいんじゃね……?
新種登録料だけでも結構な稼ぎだし、
おかげでお金の問題が少し解消されて今は余裕がある。
もっとも、新種登録料だけで食べていくなんて無理に決まっているので就活は継続するつもりだけどね。
……ただ焦る必要がなくなったので、今はノンビリ───。
『適性は、病院で検査することも可能ですが、
一番手っ取り早い方法は役場などに置いてる
血圧計を使うことですね───』
『ええ?! け、血圧計ですか?』
『えぇ。最新の血圧計はダンジョン適正も
図ることができるんですよ。
見たことありませんか?
脈拍、血圧の数字の他に、
Lvと表示されているやつです──』
へー……そうなん?
知らんかったわ───。
超~興味ない様子でテレビの音を流し読む高橋。
恵美は興味あるんだか何だかよくわからない様子でスマホとテレビの二刀流。
若い子は器用だね───。
『そんなに簡単なんですねー。
じゃ、もしかして、
私もダンジョン適正あったりしますか?』
『はっはっは! どうでしょうな、
人口の約1割が天然のダンジョン適正を
持っていますが、普通は適正なしでしょう』
『そうなんですか……。残念です』
解説の女の子はしょんぼりしているが、そんな適正いるか?
ダンジョンに潜るわけでもあるまいし……あれ? そういや、恵美って適正持ちなのか?
「お前、適正あんの?」
「あるよー」
あっそ。
ずずー……あー茶がうまい。
……って、会話短ッ!!
『そう残念がることはありませんよ。
適性は後からでも十分に付きます。
そうですね……ワクチンのようなもの、
とでも言いましょうか──
……あるいは、免疫というか、』
『ワ、ワクチン……ですか?』
『あぁ、いえ。例えが悪かったですな……。
簡単に言えば、ダンジョンに慣れる
──ということです。
また、ダンジョン開発企業では、
ダンジョン産の成分を抽出したサプリメント
を冒険者に配布しています。
それで、天然の適正のない方にも、
ダンジョンでの活動が、
誰でも可能になるということです。
ま、もっと端的に言えば、
ダンジョン産のものを取り込めば、
誰でも適正が付くということです。
モンスターの肉なり、
ダンジョンの植物なり───』
………………え? マジ?
『ただし、気を付けてください。
政府が頑なに、ダンジョンの
無断立ち入りなどを
禁じていることに繋がるのですが、
……サプリメントや、
企業の実施している過程を経ずに、
モンスターの肉などを取り込んだ場合、』
ん?
なんだなんだ……?
『と、取り込んだ場合は───?』
ずずー……。
「あ、叔父さん、自分だけずるい。私のもお茶煎れて」
「……ほらよ」
……だから、目上の人を使うなよッ!
ったくもー。
『吐血して死にます』
「ぶっほぉぉおおおおおおおおお───」
「ぎゃぁっぁああああああああああ!!」




