歌姫に迫る危機
ディーナはいつものように寝室で王を待っていた。今日は仕事の目処が早くつきそうだということなので今か今かと待ち構えているのだ。
その時、扉が開きディーナはバッとベットを降り、ドアへと駆け寄る。
「おぉ、ディーナ。駆けて出迎えてくれるほど俺に会いたかったか?」
そこにカルマがいる事実が暫し理解できず、理解出来るのと同時に落ち込んだ。
「そんなあからさまに落ち込むな。傷つくだろ」
苦笑するカルマにディーナは口を開く。
「何かご用ですか?陛下ならばまだお仕事をされてると思いますが」
少しトゲのこめられた口調にカルマは笑顔で応える。
「お前に会いに来たんだ「ならもう目的達成ですね。おやすみなさい」
すぐさまドアを閉めようとするディーナをカルマは慌てて止める。
「お前も随分変わったな。昔はこんなことする奴じゃなかったのに」
「10年も経てば多少は変わります」
「まぁそうだな。だが、少し真面目な話だ。入れてくれないか?」
真剣な表情のカルマを見て、ディーナは渋々部屋へと入れた。置いてある二人がけのソファに座るもディーナとカルマの間にはもう一人入れそうなほど隙間が空いている。
「お前達はやっぱり姉妹だな。俺に対する反応が似てる」
「勿論怒ってますから」
唇を尖らせるディーナにカルマは困ったように笑う。
「お前達を后に迎えたいという思いは本気だ。だがディーナ、お前は本当にあの王でいいならば無理にとは言わん」
「え?」
「元々お前がどんな扱いを受けているか、覇王がどのような男か、それを知るためだけに来たんだ。后の件も反応が見たかったのもある。あの男は本気で激昂し、俺に敵意を向けてきている。お前を思っているからこそだ。それに、あの男が王として国に尽くしているのも分かった。その王の臣下達もな。この国はいい国だ」
微笑むカルマにディーナはパァッ!と顔を輝かせた。
「そうなんです!陛下もマルドアさんもギドさんもメルフィさんも、マリアさん達メイドの皆さんも!皆皆凄い人達なんです!」
まるで自分のことのように喜ぶディーナの頭をカルマはそっと撫でる。
「お前を見れば分かるな。この国がどんなものか。・・・10年前の約束、果たしてくれないか?」
ディーナは深く息を吸い歌を奏でた。10年前よく歌っていた小鳥のさえずりを。美しく響く歌声にカルマは目を閉じて聞き入った。
歌が終わるのと同時にカルマはディーナを抱き締めた。
「覇王は悪夢に悩まされている噂は俺の国にも届いていた。だが、お前がこの城に来た途端、その噂はぱったりとなくなった。その理由はすぐに察したし、理解も出来た。これほどまでに美しいお前の歌声なら悪夢も霞んでしまうだろう。・・・俺も正直それが狙いだったんだがな」
「え?」
「俺も何度も何度も炎に焼かれる夢や、殺されそうになった過去が夢になって再び叩きつけられる。眠るのが怖くなるほどに。その度に救ってくれたのがお前たちと過ごした記憶だ。だから・・・傍に居て欲しかった」
切実な思いにディーナはそっとカルマの背を撫でる。
「今の国で、城で、沢山楽しい思い出を作ってください。そうすればきっと悪夢なんて見なくなると思いますから。私達じゃなくとも貴方の悪夢を消してくれる方はきっといらっしゃいます」
カルマはディーナの言葉に小さく頷いた。
「駄目だな・・・。お前の心が動かないと知ってるのに欲しくなる」
「他を当たってください。ただ・・・姉達が本当に心から貴方を望むなら、本気で愛してください。姉達に全てを捧げろとまでは言いません。レオ姉が周りも巻き込むほど笑顔でいられるように、イル姉が周りに与えられるほどの知識を学ぶ場はお願いします」
真っ直ぐ見つめてくるディーナにカルマは苦笑する。
「強くなったな、ディーナ。昔とは比べ物にならん」
「私も少しは強くなれたんです。陛下のお陰で」
王を思って笑うディーナがあまりにも美しく、カルマは無意識にディーナに顔を近付けていた。状況が理解出来ていないディーナは驚いた表情で硬直していた。




